腹を空かせたワニの牙から逃れ、慌てて水から上がったシマウマは、ほっと一息ついたことだろう。ほんのつかの間だったけれど。
映像は、シマウマが迫り来るワニから逃げるところから始まる。ちょうどシマウマが無事に逃げ切ったように見えた時、カメラが引き、背の高い草の間に2頭のライオンがいるのを映しだした。
ほんの一瞬、互いの次の動きを探るようにシマウマとライオンがぴたりと止まった。続いてシマウマが駆け出したが、逃げられない。1頭のライオンがシマウマを地面に倒し、もう1頭も加勢して息の根を止めた。
ケニア、マサイマラ国立保護区で映像カメラマンが撮影したこの一幕は、ナショナル ジオグラフィックの「サファリ・ライブ」で7月のエピソードとして公開され、話題になった。(参考記事:「ライオン 生と死の平原」)
「肉食動物は必然的に、機を見るに敏でもあります」。ナショナル ジオグラフィック協会の大型ネコ科動物保護プロジェクト「ビッグキャッツ・イニシアティブ」の責任者で、保全生物学者のルーク・ダラー氏は語る。「シマウマが川を渡ろうとしていたとき、ライオンが激しい水しぶきの音を聞き、狙いをつけていたに違いありません」(参考記事:「ヒョウの子を育てるライオン、殺さないのは異例」)
「ビッグキャッツ・イニシアティブ」の資金援助を受けている保護活動家、アン・ケント・テイラー氏は、ライオンの場合、このような攻撃はいくらか典型的だと話す。狩りをするとき、ライオンはよく獲物を驚かせるように姿を現し、不意打ちを仕掛けるという。(参考記事:「【動画】ライオンが奪ったカメラに写っていたのは」)
独特の狩りがわかる貴重な映像
「シマウマには気の毒でした」とテイラー氏。「つい感情移入して『ライオンがベジタリアンならいいのに』と願ってしまうくらいですが、水辺でライオンが獲物を待つ場合には、こうしたことが頻繁に起こります」(参考記事:「気温とシマウマの縞模様の意外な関係」)
ライオンは非言語コミュニケーションにも優れているため、狩りの際には息の合った連携が可能だ。
「彼らのチームワークはすべて無意識に行われています。映像ではライオンが忍び寄り、人に聞こえる声を一切使わずに隠れる様子が分かります」とテイラー氏は話す。(参考記事:「「同性愛ライオン」がネットで話題、真相は」)
ライオンは独特の方法で狩りをしており、この映像は「それをいかに巧みにこなしているかを見られる最高の機会」だとダラー氏は言う(現在、人間と野生動物との衝突が原因で、多くのライオン個体群が危機的状況にある。「ビッグキャッツ・イニシアティブ」は両者の接触を減らそうと、ネコ科動物の研究に取り組んでいる)。(参考記事:「ライオンと生きる」)
「腕のいい映像カメラマンがその場にいたのは大変な幸運でした」とダラー氏は付け加えた。「このような素晴らしい動物たちを守ろうと、人々を促す材料になればと思います」