日経ビジネスが実施したホテル満足度調査で、アパホテルズ&リゾーツはランキング対象となった35のビジネスホテルの中で最下位だった。1つの大きな要因が、繁忙期の値段の上昇が他のホテルチェーンと比べると大きいことだ。日本最大級のホテルチェーンへと急成長を遂げたアパホテルの元谷外志雄グループ代表と元谷芙美子社長に話を聞いた。

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ホテル満足度調査では特にコストパフォーマンスのスコアが低く、「繁忙期の料金高騰が激しすぎる」など厳しい意見が多くありました。

元谷外志雄・アパグループ代表:(日経ビジネスが満足度調査の対象とした)管理職の人ほど目線が厳しいですからね。厳しい目線で評価いただけるのは、ありがたいですね。

 ただし、一般論で言えば、価格設定がうまく機能して宿泊料金を上げれば、利用者の評価は下がる。価格設定が不十分で、高く売れる日に安く売っていれば評価は上がる。裏を返せば評価が低いということはそれだけ、うちは価格設定がうまいと言えなくもないですね。

元谷芙美子・アパホテル社長:経営がうまいかもしれない。

外志雄代表:だから、非常に高い評価を維持しているホテルは、本来高く売れるのを安く売っているから評価が高いとも言える。

芙美子社長:安くお売りになっている可能性はあるかもしれない。

外志雄代表:コストパフォーマンスで考えると、こんなにいいホテルがこんなに安いんかとなるわね。逆に値段をこれだけ出したんだからもっといいのかな、と行ってみたら部屋が狭いじゃないかと。

芙美子社長:いろいろな思いがありますからね。

外志雄代表:一人一人の考えですから。

アパホテルグループの元谷外志雄代表とアパホテルの元谷芙美子社長(写真:竹井 俊晴、以下同)
アパホテルグループの元谷外志雄代表とアパホテルの元谷芙美子社長(写真:竹井 俊晴、以下同)

値段が安いホテルは適正な利益が出せていない可能性もあるということですね。

外志雄代表:どんなホテルがいいホテルかという考え方ですよね。私はやはり、儲からないホテルはいいホテルと言えないと思います。赤字で破綻するようなことがあれば、社会に対しても従業員にも迷惑をかけます。

芙美子社長:需要を掘り起こして、雇用を創出する。納税の義務もしっかり果たします。赤字のホテルでは貢献度が小さいですね。

外志雄代表:調査結果はどう読むかはそれぞれあると思いますが、いずれにしてもうちとしても利用者の評価を上げていこうと今、努力中です。

芙美子社長:評価を上げるように努力します。

「日本は資本主義市場経済だから値段は需給で決まる」

宿泊料金はどのように設定しているのでしょうか。

外志雄代表:日本は資本主義市場経済ですから、需要の多い日はそれなりに高くなりますし、需要のない日はやっぱり安く売らなければ売れないので安くなります。値段に対してお客様が選んで泊まっていただいています。

 しかし無限大に値段を上げているわけではありません。例えば海外のオリンピック大会で、開会式の前日や会場に近いホテルは、とんでもない値段になります。私は多くの五輪の開会式に参加しているので、そうした状況を目の当たりにしてきました。

 うちは「それはちょっとどうなのかな」ということで、上限を設けてその範囲までは各ホテルの支配人が需要予測をして値段を決めています。

シングル利用で1泊3万円は高いという声もありました。

外志雄代表:一昨年は確かにそうした声がありましたね。ですが、今年はそこまで上がったことは一度もありません。

芙美子社長:そう、一度もない。

外志雄代表:人気のある場所で高くてもシングル利用で2万2000~2万3000円程度です。むしろ、3万円まで上げられれば、その方が嬉しいのですが最近はどんどんホテルが増えてきていますからね。それと民泊も増えています。需給関係が供給側のホテルにとって厳しくなっていますね。

 アパホテルはビジネス客を主たる顧客層としています。企業の管理職など上位5%のビジネスパーソンがターゲットです。多くの企業では管理職に対する出張時の宿泊料金の上限は高く設定していますよね。管理職は特に時間が重要ですから「値段が高くても、その日に泊まらなくてはならない」といったニーズは実際、多いです。

各ホテルの支配人はどのように値段設定をしているのですか。

外志雄代表:稼働率に単価を掛け合わせたRevPAR(レブパー)という指標があります。それを支配人の裁量によって最大化を目指します。ホテルは当日満室になればいい。1週間前に満室になっても、それは安く売ったから早く満室になっただけ。むしろ、宿泊の当日までに満室になるように値段を上げていければベストなんです。

 急に宿泊が必要になる人、緊急でカネよりも時間を買いたい人にとっては、値段は上がっていくが当日まで部屋を残しているうちのような方針のホテルもあってもいいのかなと思います。

 ただし、さきほども話したように表示価格(正規料金)の1.8倍を基準に上限を設定しています。支配人が判断しますが1.8倍は超えてはいけない。一方で下限ルールはありませんから極端に言えば1泊1000円でも設定が可能です。

 結果としてうちの稼働率はほぼ100%です。稼働率が高い日は高く売り、稼働率の低い日は安く売るからいつも100%になるんです。

 当社ではRevPAR重視の経営を続けています。

「宿泊の当日までに満室になるように値段を上げていければベスト」と話す元谷外志雄会長
「宿泊の当日までに満室になるように値段を上げていければベスト」と話す元谷外志雄会長

ポイントバックで顧客満足度を上げる

正規料金がシングルで1万7000円なら最高額は1.8倍の約3万円になります。一方、通常は1万円前後、閑散期は7000円などの値付けができる。値幅が大きくなるのは経営戦略ということですね。値段は支配人の経験で適時、変更するのですか。

外志雄代表:イールドマネジメントと呼ぶ航空会社が座席を効率よく販売するのと同様のシステムを導入しています。

芙美子社長:10年以上前から使っていますね。

外志雄代表:過去のデータに基づいて支配人が検証しています。最近はかなりの部分、自動化しています。正規料金は都度、基準を決めます。ホテル需要の高まりを背景に以前と比べてればずいぶん高くなりました。

確かに以前はシングル1泊で5000円~7000円で泊まれたイメージがあります。値段が上がった分、お客さんの満足度を高めるためにどのような対策をしていますか。

外志雄代表:1つは会員システムによるキャッシュバックですね。うちは会員で泊まる方が大半で、上位ステータスであるダイヤモンド会員ではその日に泊まった料金の11%分をポイント還元しています。時々、抽選で全額返金キャンペーンも実施しています。

利用者からのコスパの評価が低いことは以前から認識はしていますか。

外志雄代表:もちろんです。評価を上げるための努力は既に始めています。その1つが既存のホテルのリニューアルです。

 2010年から「SUMMIT 5(頂上戦略)」と名付けた中期5カ年計画を始めました。現在は「第二次頂上戦略」を実施中で、2020年には提携ホテルを含めて客室数を10万室にする計画です。

 これまで新築ホテルの開業に力を入れて、東京都心だけで70ぐらいのホテル用地を買収しました。人手に限りもあり、改装よりも、新築を優先してきました。一方、既存のホテルはリニューアル、手直しが必要なタイミングに入ってきました。

 利用者の評価を高めるにはきちんと改装をしなくてはいけません。新築ホテルをどんどん開業することに力を入れてきましたが、攻めるだけではなく、守ることも大切だと考えています。リニューアルを進め、設備やサービスを向上させ、顧客満足度を上げていく。今は守りを強化するタイミングにあると考え、社内でも顧客満足度を上げることを中心に議論しています。

 大規模リニューアルは今後、1年間で48物件を手掛ける予定です。

設備が新しくなれば顧客満足度が上がり、宿泊料金についてもある程度、許容してもらえるだろうと見ていますか。

外志雄代表:値段はお客さんが決めてくれる。いわば「神の手」です。値段を決めるのは神の手なので、私が決めるものではありません。ですから、高い、安いと言われるのは筋違いだと思います。

 もし値段が折り合わなければ利用者の方は泊まらない選択をできます。一方で、高くても泊まってくださる人がいます。

 ですから値段自体が需給バランスで決まってしまいます。ただ、値段に見合ったサービスや設備を提供しないと評価は当然、下がります。そこで私たちができることは手直しをすること。絶えずお客さんがアパホテルを選んでくださって、お客さんの求めに応じてリニューアルをする。

 例えばメーカーは売れない商品を作ったら破綻します。そこで、どうしたら売れるかと日々、改善、改良しますよね。それと一緒です。

客室はあえて狭くしている

アンケートでは「部屋が狭い」という意見も多くありました。そのこともコスパの評価の低さにつながっていると分析しています。今後、部屋を広げていくお考えはありますか。

外志雄代表:宿泊客は客室内を歩き回る必要性もあまりないだろうと考え、客室はあえて狭くしています。シングルで11平方メートルが基本です。

 そのため冷暖房の使用料も少なくて済みます。シャワーも空気を混ぜて、お湯の量は少ないけれど圧力が出るようにしたり、浴槽にお湯をためるときも一定量で止まる仕組みにしたりして、いろいろ工夫をしながら光熱費を削減しています。

 このことが利益率のアップにつながっています。アパグループのホテル事業の経常利益率は30%を超え、創業以来、黒字です。また、光熱費の削減は宿泊客当たりの炭酸ガスの排出量を減らす意味でも効果があります。

芙美子社長:部屋は狭いですが、ベッドとテレビは大きくしています。最近はシングルルームでも50型の大型テレビを導入しました。ベッド幅も120cmから140cmに広げています。

外志雄代表:うちのホテルは「狭いよ」と文句を言われますが、テレビやベッドについては文句を言われない。ここはバランスだと考えています。

 値段が安く、部屋が広ければ、さらに顧客満足度は高まるかもしれませんが、経営的には難しくなります。実際、うちが買収したホテルはどこも客室が広い。経営効率が悪いホテルをうちは買収していますが、部屋が広いから経営が傾いたとも言えます。

 バランスのいい経営をしないと、今度はうちが買収される側になってしまいます。

ベッドとテレビ以外、設備面では何か改善していますか。

芙美子社長:照明を工夫して部屋を明るくしたり、ベッドにUSBの充電器をつけてスマートフォンなどを充電できるようにしたり、ベッド下にトランクなど大きな荷物を収納できる工夫をしたりしています。常に進化して、サービスを向上させています。

外志雄代表:部屋は事務所レベルの明るさで書類や地図をベッドの上でも見やすいようにしています。多くのホテルは客室の照明を暗くしていますよね。明るい場所はデスクしかありませんが、そこで地図を見ようと思っても広げる範囲が狭い。

 ベッドは広いのに、ベッドを寝るだけのために使うのはもったいないと考えました。ベッドの上で地図を見たり、書類を見たり、荷物の整理をしたりできる方がいいと考え昨年、試験導入しました。それが好評でしたので今は本格的に導入を進めています。

 あとは鏡を利用して部屋を広く、明るく見せるよう工夫しています。鏡の設置は経営的にはコストパフォーマンスがいい。鏡の値段以上に、室内が快適になる効果がありますから。

「アパホテルは常に進化して、サービスを向上させている」と語る元谷芙美子社長
「アパホテルは常に進化して、サービスを向上させている」と語る元谷芙美子社長

芙美子社長:1回アパに泊まってもらったら、ほかのホテルには行けないと思います。「You'll be back!」。「次も、その次もアパホテル」ということです。平均徒歩3分以内の駅前立地、サービスなど、そこは自信があります。

外志雄代表:ホテルは立地産業です。とにかく立地第一です。重要なのは宿泊客の時間です。まず、駅の近くにホテルがあることで移動時間を短縮します。チェックアウトはキーをボックスに入れるだけのフリーチェックアウト、チェックインでもできるだけ時間がかからないよう従業員を教育していますし、自動チェックイン機の導入も進めています。

民泊やカプセルホテルも増えています。

外志雄代表:民泊は観光客が利用するもので、ビジネス客は利用しないと思います。また、アパホテルが狙っている企業の上位5%層のビジネスパーソンとカプセルホテルの客層とはかみ合わない。ですからそこは意識していません。

ホテル業界では東京五輪が開催される2020年を目指して開業ラッシュです。今後、そして2020年以降の状況についてはどのように見ていますか。

2020年後は撤退ホテルを買収するチャンス

外志雄代表:最近、ホテルが供給過剰気味になってきていると思います。オリンピックの直前になれば需要が高まってくるかもしれませんが、五輪後は、かなり過剰な状況になると見ています。

 当社は2008年のリーマンショック後の、2010年から拡大戦略に入っています。当時は土地代も建築費も今に比べて安かった。今は土地代も建築費も値上がりしています。超一等地は3~4年前から3~4倍へと地価が高騰し、建築費も2倍程度になっています。これは2020年の手前まで続くと思います。

 最近、とんでもない高値で売り地が落札されていることがあり、中身を調べてみるとホテル建設用地として取得しているケースが多い。ホテルは儲かるという神話が出来て、競争で高値になっているんですね。

 あまりに地価が高すぎる土地は、うちは手を出しません。十分に、採算が取れる場所でないと経営が厳しくなります。

 ホテルが供給過剰で環境が厳しくなれば、体力のないところは市場から去っていきます。うちは土地代が安かった時からホテルを増やしていますから、ホテルを作る平均コストは他社より安い。つまり、体力があります。体力があれば踏ん張れるし、撤退するホテルを買うことができる。ですから五輪後は当社にとってホテルを安く買うチャンスだと見ています。

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ビジネスパーソン5000人調査
満足度ランキング2017 データ集 【エアライン編】【ホテル編】

■データ内容

・回答数は各調査、5000人強。
・フリーコメントは、航空編、ホテル編合わせて3万件以上。
・回答者は、ビジネスパーソンかつ役職者
・自社だけでなく、他社の評価やフリーコメントを全てを収録
・加工、分析しやすいExcel形式で提供。

「自社顧客への調査は定期的に実施しているものの、他社の評価はどうなっているのだろうか。外部調査による客観的な評価も把握しておきたい」ーー。

本調査は、「日経ビジネスオンライン」読者で、出張機会の多い企業の役職者が実際に搭乗、宿泊したエアライン、ホテルの満足度を様々な視点で評価したものです。5000人以上の回答者から得られた評価データ、フリーコメントを提供いたします。

貴社の顧客満足度向上、戦略策定のための基礎データとしてお役立てください。データのご提供だけでなく、追加分析や追加調査も承ります。お問い合わせ、ご相談は下記のフォームからお気軽にご連絡ください。ご検討用のサンプルデータ等のご提供もいたします。

※ご提供データは、すべて統計的に処理され、個人を特定する情報は含まれておりません。

お問い合わせフォーム
※お問合せ先は「その他」、お問い合わせ分野は「調査」を選択してください。
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※後日、担当者よりご連絡させていただきます。

【ご提供価格】
・エアライン編:19万8000円(税込)
・ホテル編:19万8000円(税込)
・エアライン編/ホテル編同時申込:35万6400円(10%OFF)
【提供データ、内容】
・エアライン編有効回答者数5325人
フリーコメント数1万8929件
・ホテル編有効回答者数5347人
フリーコメント数1万8185件
【調査概要】

日経ビジネスオンライン読者にメールでウェブ調査への回答を依頼。過去3年間に利用した航空会社(エアライン)について、「サービス(客室乗務員の対応など)」「座席」「運航の安全性・正確さ」「路線ネットワークの広さ・所属しているアライアンス」「コストパフォーマンス・マイレージ」の5項目、ホテルについては「客室」「共用部(ロビー、ビジネスフロア、大浴場など)」「接客サービス(コンシェルジュ、フロント、飲食部門など)」「コストパフォーマンス」の4項目を、それぞれ「非常に満足(+100点)」「満足(+50点)」「普通(±0点)」「やや不満(▲50点)」「非常に不満(▲100点)」で採点。この他、エアライン・ホテルを選ぶ基準、LCCの利用実態、エコノミークラスの品質への感想、1年平均での国内線・国際線の利用回数、ファースト・ビジネス・エコノミーそれぞれのクラスの利用度、回答者の年齢、勤務先の業種・従業員規模・職種・役職などについて聞いた

調査時期2017年8月24日~9月3日
回答者属性日経ビジネスオンライン読者かつ役職が「係長・主任クラス以上」
調査対象エアライン 65社
ホテル・シティホテル(63カ所)
ビジネスホテル(39チェーン)
調査対象企業名は、こちらのpdfをご確認ください。
調査方法Webアンケート調査
調査企画日経ビジネス
調査委託日経BPコンサルティング

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