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 「やっぱり清水(建設)さんの一件が衝撃的だった」

 政府が新型コロナウイルスに伴う「緊急事態宣言」の対象地域を全国へ拡大する方針を打ち出した翌日の2020年4月17日、ある建設会社の幹部はこうつぶやいた。

 同日、鹿島と前田建設工業、安藤ハザマ、奥村組、熊谷組、フジタの大手・準大手6社が、原則として工事を中断する方針を発表した。既に同様の方針を示している清水建設や大林組、西松建設、戸田建設も工事中断の対象地域を拡大する方針を打ち出した。当初は西松建設だけにとどまっていた工事中断の方針は、大手を巻き込んだ雪崩へと発展している。まさに建設業界の“緊急事態”である。

清水建設が施工する東京都内の現場。「原則として緊急事態宣言終了までの間、閉所する方針」と掲げられている(写真:日経クロステック)
清水建設が施工する東京都内の現場。「原則として緊急事態宣言終了までの間、閉所する方針」と掲げられている(写真:日経クロステック)
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 新たに工事中断を発表した鹿島や前田建設工業など6社は、政府が4月7日に7都府県に対して緊急事態宣言を出した後も、従来と同様に原則として工事継続の方針を貫いてきた。しかし一転、工事中断に踏み切った背景には、先行した清水建設の影響が大きかったとみられる。

 清水建設は4月13日、東京都内の同じ作業所に勤務する社員3人が感染し、うち1人が死亡したと発表。併せて、宣言の対象7都府県で施工中の工事を原則として中断する考えを明らかにした。

 この清水建設の作業所での社員死亡を受け、メディアの報道合戦が過熱。各社の経営陣や下請けの協力会社、建設現場の作業員らの間に動揺が広がった。

 鹿島や前田建設工業、熊谷組の3社でも、作業所に勤める社員の感染が判明している。いずれも感染者の存在と工事中断の決断とは関係ないとの立場だ。

 しかし、同じく作業所で感染者が出た清水建設や大林組、東急建設は、工事中断を決断している。建設業界では「鹿島などがこのまま工事を続ければ、清水建設などと比べて感染拡大防止に積極的でないと受け取られる恐れがあった」との声も上がっている。