終身雇用でなく「ギグ(単発または短期の仕事)」を基盤としたギグ・エコノミーでの成功とは、職を見つけることではなく、方向性が定まりバランスの取れた人生を送ること、そして目標に近づく助けとなる仕事をすることである。それには新しいマインドセット、独自のスキル、最新のツールが必要となる。最初に自分がどのような働き方を望むのか、イメージを固めることが大切だ。

 独自のエクササイズを交えながらその実践法を解説した『ギグ・エコノミー』から一部を抜粋し、成功を収めるコツなどを紹介しよう。

 ギグ・エコノミーの世界に飛び込み、成功するにはどうすればいいのでしょうか? この問いへの答えは以下の10の法則にまとめています。

ギグ・エコノミーの10の成功法則

  1. みずからの成功を定義する
    伝統的な価値観にこだわらずに、自分なりの成功を思い描く。
  2. 働く場を分散させる
    チャンスを増やし、スキルをみがき、人脈を広げることができる仕事の組み合わせを見つける。
  3. 生活保障を設計する
    正社員でも失業しかねない時代に、収入確保策・出口戦略・セーフティネットの組み立て方を学ぶ。
  4. ネットワーキングをせずに人脈をつくる
    人脈づくりはインバウンド型とアウトバウンド型のどちらが自分に合っているかを見きわめ、うまく頼り合える関係を目指す。
  5. リスクを軽減して不安に立ち向かう
    尻込みしている根本原因を見据えて対応可能なリスクに分割し、解消に向けたアクションプランを立てる。
  6. 仕事(ギグ)の合間に休みを取る
    ギグ・エコノミーで増える休みを計画的かつ有意義に過ごす。
  7. 時間への意識を高める
    マネジャー式スケジュールとクリエイター式スケジュールのどちらが自分に向いているか判断し、優先事項に時間を使えるようカレンダーをつくり替える。
  8. 柔軟性のある家計を組み立てる
    「けちけち式」の資金繰りから抜け出し、経済的に柔軟で安定した生活を手に入れる。
  9. 所有からアクセスに切り替える
    欲しいものを所有するのは時代遅れ。使いたいものにアクセスし、マイホームを含めて借金を避けて自由度を高める。
  10. 10 老後の資金を貯める
    伝統的な退職は忘れて、自分に合った引退の仕方を考える。

最初に、自分だけの成功観を固めよう

 何をもって成功とするかは、他人からのすり込みによるところが大きいものです。人間は幼い頃には両親や親戚の考え方を吹き込まれ、成長すれば学校の教師から、やがては職場の上司から、どんな行動を取ると称賛されるのかを学びます。こうして外部からの影響を受けながら、さまざまな成功の形を吸収していくわけですが、ともすれば他人の成功像にみずからの理想が飲み込まれてしまうことがあります。そうなると、ありふれた道を進んで望まない人生を送ることになりかねません。

 誰しも自分にとって成功とはなんなのか、何をどうすれば自分は成功したと言えるのかをしっかりと考えておかなければ、他人のものさしを頼りに生きるという事態にあっけなく陥ってしまいます。上司が指定する勤務時間に従い、両親が勧める学校に通い、友人が感心するようなキャリアを積むというふうに。また、自分の優先事項をじっくりと考えて常に意識していなければ、ほんとうの望みから外れるような意思決定をしてしまうでしょう。本当は家族と過ごしたり友人を自宅に招いたりする時間が欲しいのに、高給に目がくらんで出張ばかりの仕事に就くとか、口では子育てやマラソンの練習、年老いた親との触れ合いを大切にしたいと言いながら、仕事に体力も時間も取られるはめになるのです。

 みずからの成功を定義するには、まず他人や文化が規定している成功者像から抜け出す必要があります。こういう願望を抱く“べきだ”とか、こういう行動を取るのが“当然だ”と説く友人や両親、学校、職場、社会の声に耳をふさぐことで、初めて本当の望みや夢をささやく自分の内なる声が聞こえてくるでしょう。この声に真摯に耳を傾けることが、自分だけの成功の形を見つけることにつながるのです。

自分だけの成功観を固めるエクササイズ

 成功を定義する第一歩として、自分の優先事項をはっきりさせるための次の質問に答えてみよう。

  • 自分にとって成功の形はどのようなものだろう?
  • どんな価値や関心事のために生きたいだろう?
  • いい仕事、いいキャリア、いい人生を自分なりにどう定義できるだろう?

 これらの質問への答えが、経済的・職業的・個人的な判断をする指針になる。

何度も振り返りながら、成功のイメージを確認する

 成功観を固めて掘り下げるエクササイズは、一度だけやればいいというものではなく、生きているあいだはルーティンとして何度も取り組んでほしいものです。普通は10代後半から20代前半までに、社会に出たあとの生活の最初のビジョンが形成されはじめ、成功観に基づいて将来の道筋を描くようになります。法科大学院を卒業し、10年の下積みを経て共同経営者になり、広い家を買い、家族をつくって犬を飼う!というふうに。

 そして20年後、思い描いていたとおりの生活を手に入れたとたんに、ふと「これで全部?もうおしまい?」と満たされない思いがよぎります。40代になって中年の危機に差しかかるのは、20年前の決意にしがみついて生きてきたことが原因です。ほかにも取り入れるべき価値観や経験があったにもかかわらず、立ち止まってみずからの選択を検証し、ビジョンを修正することが一度もなかったせいなのです。

 このような事態に陥るのを防ぎ、中年の危機を避けるにはどうすればよいでしょうか? それには、ゴールを目指す途中で立ち止まり、自分の関心事や成功の定義をメンテナンスすること。つまり、定期的に歩みを止めて振り返り、軌道修正する必要があるということです。まずは自分ひとりで、次にパートナーや親しい友人と一緒に、考える時間を取って成功の定義を見直し、紹介したエクササイズをやってみましょう。

チャンス思考を身につける

 ギグ・エコノミーで成功するには、フルタイム従業員に限らずさまざまな働き方をするとともに、仕事に対する意識を“従業員思考”から“チャンス思考”に切り替える必要があります。このふたつの考え方は、次のように対比できます。

従業員思考――どんな職に就こうか?
チャンス思考――どんな仕事をして、どんな価値を生み出そうか?

 従業員思考の労働者は、出世コースも業務内容も決まった職と、役員室・肩書き・高給というあらかじめ定義された成功のビジョンを雇用主が編成・構築・提供してくれることを希望し、当然視しさえします。生活の保障も、経済的な安定も、仕事での成長も雇用主に任せてしまい、成功を実現したり家計の保障を手に入れたりするのに雇用主の助けを求めます。従業員思考は雇用主が業務内容を決めて福利厚生を整えることを当てにする、どちらかと言えば受け身の姿勢です。従業員思考を持ちつづけるのは非現実的かつ高リスクとなります。

 よりリスクを抑えてギグ・エコノミーで成功を収めるアプローチは、積極的なチャンス思考に舵を切ることです。チャンス思考の労働者は積極的に人脈を広げ、新たなスキルを習得し、したことのない経験を求めます。フルタイム従業員として働くこともありますが、その場合も今の職場でスキル・経験・ネットワーク・評判・知識を高めて将来への足がかりにしようと戦略的に考えます。

 現在の自分の役割のなかで達成・学習して次に活かせることがないか、常に探すからです。チャンス思考を実践するには従業員思考よりも多くの労力が必要になりますが、リスクは格段に低くなるでしょう。

(次回に続く)

ダイアン・マルケイ
米国で著名な起業家支援団体カウフマン財団のシニア・フェローのかたわらバブソン大学の非常勤講師を務め、さらにギグ・エコノミーをみずから実践している。5年前、ギグ・エコノミーがまだ知られていないときからバブソン大学でギグ・エコノミーに関するMBAの講座を開講。その後、講座はフォーブスが選ぶ全米でもっとも革新的なビジネススクール講座トップ10に選出された。(Author photo:Sharona Jacobs)
まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

春割実施中