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 2020年2月5日午前7時58分、神奈川県逗子市池子2丁目に建つマンション「ライオンズグローベル逗子の丘」の東側斜面が崩壊し、前面の市道を通行していた18歳の女子高校生が土砂に巻き込まれて死亡した。崩れた斜面のおおよその広さは幅9m、高さ8m、深さ1m。市によると崩落した土砂の重さは約68tに達した。現場近くに暮らす60代男性は、「母が現場正面のアパートに住んでいた。ドシンと響く音に驚いたと話している」と言う。

神奈川県逗子市池子2丁目で2020年2月5日に市道脇の斜面が崩れた現場。通行人の女性が巻き込まれて死亡した(写真:共同通信社)
神奈川県逗子市池子2丁目で2020年2月5日に市道脇の斜面が崩れた現場。通行人の女性が巻き込まれて死亡した(写真:共同通信社)
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 土砂崩れが発生したのは幅8mの市道に面する高さ約15mの急斜面だ。斜面の上に建つマンションの敷地に含まれる民有地で、住民の管理組合が管理している。前出の男性は、「崩落現場の市道は(京浜急行逗子線)神武寺駅に続くため、通勤や通学で普段から人通りが多い」と話す。市には崩落前の斜面の異常に関する報告はなかった。

土砂崩落が発生した周辺の地図(資料:逗子市ハザードマップを基に日経クロステックが作成)
土砂崩落が発生した周辺の地図(資料:逗子市ハザードマップを基に日経クロステックが作成)
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土砂崩落が発生した斜面と前面の市道。2月6日の撮影時には土砂が撤去されていた(写真:日経クロステック)
土砂崩落が発生した斜面と前面の市道。2月6日の撮影時には土砂が撤去されていた(写真:日経クロステック)
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 この斜面は市道から約7mの高さまで石積みの擁壁で補強している。擁壁の上は約8mの高さまで土砂がむき出しで、草や木が表層を覆っていた。国土交通省は20年2月7日、土砂災害専門家を現地に派遣して崩壊した斜面の状況を確認。表土の深さは30cmほどだったが、基岩部の凝灰岩が風化して深さ1mほどまで崩れていたことが分かった。

 現地を調査した国交省国土技術政策総合研究所の中谷洋明・土砂災害研究室長は、「擁壁に設置されていた水抜きパイプは乾燥していた。斜面崩壊の要因が水によるとは考えにくい」と説明する。実際、現場から最も近い辻堂の観測所では、2月1日から0.5mm以上の降水は記録されていない。

 京都大学防災研究所斜面災害研究センター長の釜井俊孝教授は、土砂崩落が発生したメカニズムについて、「この斜面は池子層(240万~400万年前)から成っており、比較的若い深海の堆積物が急速に隆起した丘陵だ。固結度が低いため、風化部分はもろくなり、崩れやすかったのではないか」と推測する。

土砂が崩落した斜面の表層部分。国土交通省の調査では「基岩部の凝灰岩が風化しており、深さ1mほどまで崩れていた」。2月6日撮影(写真:日経クロステック)
土砂が崩落した斜面の表層部分。国土交通省の調査では「基岩部の凝灰岩が風化しており、深さ1mほどまで崩れていた」。2月6日撮影(写真:日経クロステック)
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 土地造成の履歴について、神奈川県横須賀土木事務所まちづくり・建築指導課の佐藤新市氏は、「時期が古過ぎて記録が残っていない」と話す。マンション完成は04年7月だが、それ以前は企業の社員寮が建っていた。「社員寮の建築確認は1969年に下りているが、宅地造成の記録が見当たらない。切り土や盛り土については分からない」(佐藤氏)

土砂が崩落した斜面の表層部。2月6日撮影(写真:日経クロステック)
土砂が崩落した斜面の表層部。2月6日撮影(写真:日経クロステック)
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 県は11年にこの斜面を「土砂災害警戒区域」(イエローゾーン)に指定した。しかし、民有地であるため行政による直接管理はできない。斜面に面した市道を管理する市都市整備課の担当者は、「近隣住民などから斜面の危険性について報告があれば地権者に対策をお願いできるが、そうした申し入れが過去になかったため、特段の指導を行ってこなかった」と言う。