「利用可能世帯は9割あるのに、実際の利用は3割」――これは国内の超高速ブロードバンドの利用状況だ。こうした中、伸び悩むブロードバンド利活用の打開策として、タブレット/スマートフォン向けの取り組みを行う固定通信キャリアが増えている。タブレット/スマートフォンと言えば携帯電話事業者の事業領域と思いがちだが、「パソコンに代わるネット端末」として、固定ブロードバンド回線の利活用を促進する役割を期待されている。

 固定ブロードバンドを構成する主な回線は、FTTHとケーブルテレビインターネット、DSLの三つだ。このうちDSLの加入世帯数は長期減少傾向にあり、FTTHとケーブルテレビインターネットの加入世帯数も、事業者によるインセンティブ付与や積極的な低価格プランの投入にもかかわらず、伸びが鈍化している。価格面での敷居を下げても、サービスそのものの必要性を感じていない「残り7割の超高速ブロードバンド未利用世帯」には響かないのが原因だろう。

 そこで固定ブロードバンド事業者が目をつけたのが、パソコンよりも直感的に操作できるスマートフォン/タブレット端末だ。中でも画面の大きいタブレット端末はコンテンツや文字を拡大表示できるので、お年寄りや子供がインターネットの各種サービスを利用する入り口として適している。これまでパソコンを使ってこなかったこうした層でも、タブレット端末などパソコン以外の端末でインターネットを利用するようになれば、ブロードバンドサービスの加入世帯数アップを期待できる。

 タブレット端末を使った取り組みで先行しているのがNTT東西地域会社と一部の地域系通信事業者だ。NTT東西は、FTTHサービス「フレッツ光」の利用者向けにタブレット端末「光iフレーム」シリーズを提供している。地域情報やレシピ、ショッピング、健康などの各種情報サービスを提供する「フレッツ・マーケット」と光iフレームの端末を合わせて、月額525円でレンタル提供している。またNTT東日本は、流通大手やマンションデベロッパーと組んで、光iフレームを使った地域コミュニティー向けポータルサービスなどの実証実験にも積極的に取り組んでいる。

 関西でFTTHを使ったトリプルプレーサービスを展開するケイ・オプティコムは、同社のFTTHサービス利用者向けにタブレット端末による宅内サービス「eo スマートリンク」の実証実験を約半年間実施した。実験では約750世帯を対象に、ネットスーパーや健康管理、ホームセキュリティー、コンテンツといったサービスをeコマースサービスと連携して提供した。実験に参加した利用者からのフィードバックはおおむね好評で、本サービスが始まったら利用したいという意見も多いという。同社は実験結果を検証し、2012年内の本サービス開始に向けて準備を進めている。

 このほか、ケーブルテレビ事業者では東京ケーブルネットワークがタブレット端末をリモコンとして使ったり、地域情報の表示端末として利用したりする実験を実施したほか、ジュピターテレコムがタブレット/スマートフォン端末向けにVODサービスや地域情報を提供するサービス構想を発表している。

 いずれの取り組みも日常生活における利便性の向上を強く意識しており、地域のコミュニティ情報や近隣スーパーの特売情報提供など、地域色が強いのが特長だ。情報の受け手だけでなく、提供する側にも使いやすい仕組みを構築できれば、パソコンやテレビとは異なる新しい地域メディアとして発展する可能性を持っている。急速に普及が進むモバイル端末の勢いを固定回線の普及に取り込むという観点からも、固定キャリアによるタブレット/スマートフォン関連の取り組みが今後も増えることになりそうだ。