製薬会社でMR(医薬情報担当者)を務めるRさんは仕事熱心。自社の製品はもちろん、他社製品についてもよく勉強しており、多くの情報を得ている。
にもかかわらず、ドクターへの説得、医局説明会でのプレゼンテーションとなると失敗に終わることが多い。先輩に言わせると、「熱心なあまり、あれこれしゃべりすぎる」「スライドの枚数が多すぎて、見ている人が疲れる」「話し方が一本調子で、聞いていて眠くなる」などなど。
「内容はいいのに、宝の持ち腐れだ」。年配のHさんは残念がる。何度も先輩たちから問題点を指摘されても、Rさんのプレゼンテーションはなかなか改善されない。
新しく赴任した課長がRさんのことを耳にし、何とかならないものかと、直接彼から話を聞いてみた。
「詰め込みすぎだとか、資料が多すぎるとか言われ、自分でも分かってるんですが」。まじめなRさんは新しい課長の前で頭をかいた。
課長は彼との話を終え、一番の原因は何かを考えてみた。気になったのはRさんの早口だった。「自分でも分かってるんですが、この前のプレゼンの時も…」と、次々に言葉が口をついて出てくる。
そこで、次回のリハーサルを兼ね、話を聞いてみることにした。事前にポイントを絞り込むこと、シートは1分間1枚にすることを指示した。
Rさんは話し終えたが、持ち時間5分を2分オーバー。
課長は「やっぱりそうだ」と確信を得た。Rさんの話には「間」がないのだ。早口の人に「ゆっくり話せ」とアドバイスしても効果はない。かえってぎこちなくなる。
「間を取って話すこと。間を取るためには、聞き手を見て話す必要がある。聴衆はキミの話に幾つもサインを送っているんだ。新幹線のひかり号と同じで、速く走ると同時に停車駅を作るのさ。どこで止まるかは、聴衆の反応を見て決める。必ずうまくいくよ」
課長の「間」一本に絞ったアドバイスが効き、Rさんのプレゼン力は徐々に向上した。「間」は見落としがちなプレゼンのポイントなのだ。
話し方研究所 会長