「渋滞学」(新潮選書)の著書がある東京大学の西成活裕氏
「渋滞学」(新潮選書)の著書がある東京大学の西成活裕氏
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 東京大学大学院の工学系研究科航空宇宙工学専攻准教授で,クルマや人の渋滞がなぜ起こるかを解明する「渋滞学」で知られる西成活裕氏は2007年9月5日,横浜市内で開かれた「ムダとり」に関連するイベントで講演。「工場内でのモノの停滞を無くす『ムダとり』とクルマの渋滞を無くす渋滞学の取り組みは,研究すればするほど似ていることが分かってきた」と述べた。

 渋滞学は,西成氏が10年ほど前から独自に研究を進めてきた学問。「流れがあるところに渋滞あり」との見地から,数学や物理学だけでなく生物学,心理学,情報学など他分野を統一的に扱う分野横断的学問として確立した。

 渋滞が起きるのは,ある地点がボトルネックとなって流れをせき止めてしまうためだ。クルマの渋滞で例えるなら,高速道路の事故車や料金所などだ。これを解消するには,ボトルネックを取り除くしかない。西成氏によると,10年前までは高速道路の渋滞原因トップは料金所で,全体の約1/3を占めていたが,ETCの導入などにより近年は全体の4~5%にまで減っているという。

 ムダとりでも「ボトルネック工程をつぶす」という考え方がある。設備や人の能力が他に比べて低い工程に目を付け,そこの問題を解消することで全体の流れをスムーズにする手法だ。

 つまり,ある場所に「入る量」と「出る量」のバランスが崩れたときに渋滞は起こる。これを簡単な公式にしたものが「リトルの方式」(待ち行列の長さ=待ち時間×人の到着率)である。西成氏は例題として次の問題を出した。「1分で平均2人来るすし屋には,いつも平均10人待っているとする。このとき,平均待ち時間は何分か」。答えは,10(待ち行列の長さ)÷2(到着率)=5分。「待ち時間を知ると,渋滞が人に与えるストレスを減らせる」と西成氏は言う。

 現在,高速道路の渋滞原因の35%(本年度は50%だったという)が「気付かない程度の緩やかな坂道」だという。前を走るクルマが速度を落とすと,後ろのクルマが少したってからブレーキを踏む。車間距離を取っていないと急ブレーキとなるため,数十m後方でやがて流れは止まる。これは「渋滞注意! ここは上り坂」という看板を立てるだけでも,ある程度は解消できるという。

 ムダとりも同じだ。サイクルタイム(タクトタイム,1日の稼働時間÷1日の生産量)を工場内に大きく掲げてスタッフに見せるのは,スタッフのストレスをなくして生産効率を上げる目的がある。

 また,ある空間から狭いドアを通って人が一斉に外に出ようとしたとき,「競争しながら出る」のと「譲り合いながら出る」のとどちらが速いかを実験した。すると,譲り合いながら出たほうが速いという結果が出た。「渋滞学の教訓」として西成氏は「個人の利益と全体の利益は一般に一致しない。損して得を取ることを一人ひとりが学べば,社会全体が得をする」と結んだ。

 講演は,ソニーやキヤノンの工場カイゼンを手掛けたことで知られる山田日登志氏が主宰する経営コンサルティング会社,PEC産業教育センターの「第14回改善実践リーダー集会」で行われた。