世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「フェイスブック」が6月7日に日本で始めた無料クーポン配信サービスで、飲食店などが知らないうちにクーポンが配られるという問題が発覚した。
問題を起こしたのはリクルート。同社のグルメ情報サイトなどに掲載している飲食店などのクーポン券を、フェイスブックに転載していた。7月1日以降で、5万を超えるクーポンがフェイスブック上で配信されたという。
飲食店への周知不足などもあって、インターネットやSNS上では一時、リクルートに対する不信の声が高まった。こうした反発を招いてまでフェイスブック上のクーポン配信に踏み切ったのはなぜなのか。リクルートのネット戦略を担当する全社WEB戦略室の出木場久征室長に、経緯を語ってもらった。
―― なぜこのような騒動を招いてしまったのか。

出木場 リクルートがフェイスブック上でクーポンを配信するにあたって、飲食店への周知を怠ったわけではありません。グルメ情報サイト「ホットペッパーグルメ」の顧客店舗については、6月9日から今回の取り組みについて各方面に説明を開始し、6月17日には対象となる約4万店にダイレクトメール(DM)を発送しています。
このDMを発送した約4万店のうち、すでに自前でフェイスブック上のクーポン配信を始めているといった理由で、リクルートのサービスを辞退した店舗が約350店ありました。また、クーポン配信には前向きだけど、態度を保留した店舗も3000店ありました。これらを除いた約3万7000店を対象に、7月1日からフェイスブック上でのクーポン配信をスタートさせたわけです。
当社としては、今回の取り組みができるだけ顧客店舗の目にとまるように努力しましたが、DMが店舗にしか届かず、経営者まで伝わらなかったこともありました。結果的に、飲食店経営者の気分を害してしまったケースが数件あったことは事実です。
「前日でも周知は間に合う」は甘かった
―― 宿・ホテル予約サイト「じゃらんnet」については。
出木場 「じゃらんnet」でも、7月1日からフェイスブック上でのクーポン配信を目指していましたが、システムの開発に手間取り、顧客に対して余裕をもって周知することができませんでした。結果として、約1万6000にのぼる顧客に対してサービス開始の前日にファクスで通知することになりました。
当社では、これまでにも企業と提携サービスを始める場合には、発表日やその前日にファクスで顧客にお知らせすることがありました。というのも、「じゃらんnet」の顧客である旅館やホテルは、宿泊予約を確認するために、必ずファックスに目を通すからです。
こうした経験から、「顧客への周知は、サービス開始の前日でも何とかなる」と思っていましたが、今回はそんな見通しが甘かったと言わざるを得ません。旅館やホテルのオーナーにサービスの案内が伝わらず、「思慮が足りない」とお叱りを受けるケースもありました。これに関しては、大変申し訳なく思っています。一部の顧客については、サービスを今後どのようにするか、説明にうかがっているところです。
―― 自社のクーポンをフェイスブックの仕組みを使って配信したのはなぜか。
出木場 当社のクーポンを他社の仕組みを使って配信するのは、今回が初めてではないのです。例えば、ポータルサイト「ヤフー!ジャパン」のグルメ情報は、ホットペッパーグルメの情報を基に作られています。グルメ・レストランガイド「食べログ」やポータルサイト「ライブドア」なども同様です。
インターネット上でいったん配信されたクーポンは、さまざまな経路をたどって消費者に届けることが重要です。クーポンがもともと誰によって集められたものかなんて、消費者にとってはあまり意味がないことだと考えています。
もし、飲食店が複数のポータルサイトやクーポン配信サービスに、自分たちで情報を提供した場合、割引内容を変更するたびに大変な手間が発生します。ネット上の様々なサイトやSNSにワンストップで情報を提供・更新できる当社のサービスを使えば、こうした手間を減らすことができます。
もちろん、IT(情報技術)に詳しい飲食店経営者の中には、フェイスブック上で個別にクーポンを配信したいというニーズがあるのは承知しています。我々が店舗に代わって位置情報を登録したことで、一部の飲食店経営者は「権利を侵害された」と思われたかもしれません。しかし、多くの飲食店や旅館・ホテルにとって、クーポン配信という業務は本業ではないのです。
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