起業家と、その創業を支える従業員はアーティストに似ている。だから、いくら方法論を確立しても、誰もが事業を興せるということにはならない。これは、Macintosh向けのDTPソフトが登場したときの状況に似ているとブランク氏は言う。当時、誰もがデザイナーになれると思ったが、実際にはプロのデザイナーは素人とは異質な存在だったことに多くの人が気付いた。(ITpro)

 これまでの10年間、俊敏性、顧客開発、ビジネスモデル・デザインという起業のための方法論を確立すれば 、アントレプレナーシップは“科学”になり、誰でも会社を興せると考えてきました。

 しかし、最近になって私は「この考えは間違いではないか」と疑問に思うようになってきました。なぜでしょうか。上記のような起業マネジメントの方法論が間違っていたのではありません。アントレプレナーシップのマネジメンントは正しく、スタートアップ企業が失敗する可能性を低減するのにとても役立ちました。私たちの間違いの源は、「マネジメントの方法論を誰でも同じように使いこなせる」と思ったことです。

 「誰でも使いこなせる」が違ったということを、身近なところで考えてみましょう。クリエーターとパフォーマーという、2種類のアーティストを思い浮かべてください。具体的に例えるなら、作曲家とオーケストラの一員とか、劇作家と俳優という違いになります。

 企業の創業者は、クリエーターであり、他の人には見えない何かが見えます。そして、それを「ゼロ」から造り上げるのに、一流のパフォーマーを集めます。ほとんどの人には見えないものを作り出す着想力と、そのものを制作するのに必要な人材を集められる卓越した説得力が、スタートアップ企業の創業者の核心です。それは科学や工学、マネジメントとは全く異なる能力です。

 アントレプレナー型の従業員は才能あるパフォーマーで、創業者のビジョンに魅せられた人たちです。スタートアップ企業がビジネスモデルを探し求めている時期に参画し、次第に将来の可能性が見え、創業者のビジョンを一緒に実現しようとします。

 その後、創業者は自分たちが世の中でただ一つの存在であるためにすべての能力を注ぎます。我慢強さ、情熱、俊敏さ、すばやい方向転換、好奇心、学習と発見、即時の決断、カオスから秩序を生み出す力、短期間での立ち直り、リーダーシップ、卓越した説得力、執拗な実行への集中力などが、創業者のビジョンを絶え間なく磨いて最終的に実現させます。

 創業者とアントレプレナー型の従業員は、既存の企業に参加するよりも、ゼロから事業を生み出すことを好みます。ジャズのミュージシャンや即興俳優のように、不確定要素がたくさんあるカオスな状況で活動することを好みます。彼らは自分たちが進んでいる方向を大雑把に把握し、不確定要素や意外な出来事を許容し、手元にある道具と自身の直感でビジョンを達成します。

 このようなタイプの人たちはごく少数派であり、「クレイジー」な彼らはアーティストなのです。