大阪市長・大阪府知事のダブル選挙の結果を受けて、既存政党の各党が「大都市制度」の見直しに着手した。地方自治法では東京以外の地域に特別区制度が置けない。それを他地域にも適用するといった修正が提案されている。大阪都構想を推進する立場としては歓迎だ。だが、ことの本質はそれにとどまらない。

そもそも国が地域制度を決める必要があるのか

 地域主権の立場に立てば、大阪、愛知、神奈川といった地域の中にどういう形の自治体を置くかは地域が自由に決められる仕組みにするべきだ。そもそも国が「政令指定都市」「中核市」といったカテゴリーやメニューを用意することも余計なお世話である。

 従来型の市町村を置きたければそうすればいいし、特別区として都市計画などの権限を都庁に集中させたければそれでもいい。あるいは東京の特別区よりも大きな中核市並みの権限(保健所、教育委員会の設置等)を与える可能性もある。要するに各地が勝手に決めればよい。

 ちなみに英国や米国では州の体制までは国が決めるが、その中をどうするかは基本的に自由である。中には株式会社方式で市役所を運営する地域もある。例えばごみ収集も市町村がやる地域、郡がやる地域など様々だ。なぜなら地域ごとに事情が異なるからだ。

 これまでの日本では社会インフラが足りず、全国一律型の底上げ型開発が有効だった。財源も国が集中管理し未熟な地方政治の自由にさせなかった。政策も自治制度も国が定食メニューを用意し、そこから選ぶのが地方自治の本旨だった。だが、これからは違う。福祉や教育などは住民ニーズの地域差が大きい。全国一律の定食メニュー型の政策、中央のお仕着せの自治制度では支障を来す。

一国多制度の時代

 地域内の行政の仕組み作りは現地に任せるという仕組みを突き進めていくと、「一国多制度」になる。今の日本は東京都だけが特別区制度を持ち、あとの大都市は一律に政令指定都市制度の適用を受けている。そのほかはおおむね全国一律で、事実上の「一国一制度」である。

 これを規制緩和し、各地域が域内での自治体の置き方などを自由に決められるようにするべきだ。交付税による補てん分は、できるだけ小さくする。その分各地域に税財源を移譲する。そもそも大阪のような大都市が交付団体になるような制度がおかしい。地域の自主性から地域間の競争が生まれる。政策のイノベーションも始まる。今の構造改革特区のようなややこしい仕組み(上からの規制緩和)も不要になる。国に相談せずに各地域が自由に特区的政策を打ち出せばよい。

一国多制度こそ規制緩和と道州制への近道

 過去20年、我が国は「構造改革」に取り組んできた。その柱は「官から民へ(小さな政府、財政再建)」「国から地方へ(権限移譲、地方分権)」だった。前者は国鉄改革では成功したが郵政改革では挫折。後者は機関委任事務の廃止や三位一体改革では成功したが、道州制には至らなかった。要するにどちらも中途半端である。原因は中央政治の混迷にある。選挙制度の改革(小選挙区制)を経て、政権交代を経ても光明が見いだせない。

 筆者は我が国は「大きすぎて変えられない」状態にあると思う。ここはむしろ同時多発分散的な地域の自立運動を経て、全体を事実上の「一国多制度」に変えるしか方法はないと思う。そうなれば規制はおのずと地域が決めることになる。全国一律に緩和するとなると、万に一つの事例を恐れて現状維持に陥る。緩和するかしないかは各地がゼロベースで決める仕組みに変えればよい。

 道州制も同じだ。全国をいくつに割るとか、国の出先を譲渡する、しないと最初から議論するから進まない。各地域が自由に域内制度を決めていく中で隣の地域と一緒になりたいという意見が出てくれば当事者同士で相談して国に合併を申告。全国同時に道州制に移行する必要はない。関西・九州などは希望するかもしれないが、東北や中国・四国はそうでもないだろう。それならそれでいい。無理に全国一律に道州に変えようとするから話が進まないのだ。

 「全国一律」から「一国多制度」に変えるメリットは大きい。日本の改革は急がば回れだ。中央政界の離合集散を云々する暇があるなら、各地の独立自立運動を広めよう。一見、全国がバラバラになる気がするかもしれない。だが結果的にそのほうが強い国家が出来上がるのだ。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。「大阪維新の会」政策顧問、新潟市都市政策研究所長も務める。専門は経営改革、地域経営。2009年2月に『自治体改革の突破口』を発刊。その他、『行政の経営分析―大阪市の挑戦』、『行政の解体と再生』、『大阪維新―橋下改革が日本を変える』など編著書多数。