サウジアラビアの石油施設と油田が何者かに攻撃されるという事件が9月14日に発生して数日が経った。日本のメディアは、原油価格の行方、生活や企業への影響、あるいは犯人探し、米国とイランの対立などの話題であふれている。
それらのことにも興味はあるが、この事件は世界や日本にとってより深い意味を持っているものとして受け止めなければならないのではないか。私にはそのように思えてならない。
今回途絶したとされる日量570万バレルという量は、サウジアラビアから日本、韓国、中国、インド、米国向けの輸出量の合計に匹敵する量で、それが一夜にしてストップしてしまったのは過去にも例のないほどの空前の規模である。
ただし、サウジアラビアをはじめ世界各国には大量の石油備蓄があり、発表されている通り9月末までに設備が復旧すれば、供給が不足するということはないだろう。こうした備蓄体制があるのは、過去の石油危機の教訓があったからだ。
マーケットはそれがわかっているからか、原油価格は市場が開けた16日月曜日に瞬間的に急騰したものの、その後すぐに急落し、米国の原油価格指標WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は今年の平均価格1バレル57ドル程度の水準で落ち着いて推移している。2018年の平均価格は約67ドルだったので、それに比べればむしろ安いくらいだ。
つまり、今回の攻撃による我々の生活への直接の影響はほとんどない。そのように私が周囲の方たちに話すと、「なーんだ」と興味を失い日常に戻っていった。そう、それが普通の反応だ。
サウジの脆弱性が白日の下にさらされた
一方、多少なりとも国際情勢に関心のある方々にとっては、今回の攻撃の犯人が誰なのかという点にも興味を持たれるだろう。
私もその1人で、事件直後から何か証拠は出ないかとネットの海を放浪し、中東情勢に詳しい人にコンタクトを取るなどしたが、結局は様々な説が飛び交い、情報は錯綜するだけで、当然ながら真相らしきものにはたどり着けなかった。
その後、米国政府から今回の事件はイラン南西部からのドローンと巡行ミサイルを含む複合攻撃だったとの発表があり、疑問が残るところはありつつも、「公式」の見解は一応の決着をみようとしている。
新たな証拠でも出てこない限り、これ以上日本から犯人探しを続けることは無益だろう。なぜなら、こうした攻撃によって利益を得る人が多過ぎて、想像力を逞しくすれば幾らでも陰謀説を立てることができてしまうからだ。
ただ、1つ確かで重要な事は、今回の攻撃の犯人が誰であれ、サウジアラビアの石油設備が想像以上に簡単に攻撃可能であることが世界に示されたということである。