クラウドのシェアは米AWSの約30分の1にとどまり、新たな収益源と見込む「Watson」も期待ほど伸びていない。米IBMは、巨大ゆえに滅びた恐竜の命運をたどるのか。

米IBMが一世一代の勝負に出た。企業向けLinuxを提供する米レッドハットを約340億ドルで買収する。起死回生を狙った大型買収は、IBMがかつてなく追い込まれていることを暗示する。

 「レッドハット買収により、業界の形勢は一変する。クラウド市場に関係する全てが変わる」。IBMのバージニア・ロメッティ会長兼社長兼CEO(最高経営責任者)は期待を込める。

 IBMは2018年10月28日(現地時間)、レッドハットを買収すると発表した。このタイミングで4兆円規模の巨額買収に踏み切った狙いは低迷するクラウド事業のテコ入れにある。

 「企業向けOS市場で存在感を発揮するレッドハットのLinuxディストリビューション(検証済みパッケージ)「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」などを武器に、企業が複数のクラウドサービスを使いやすくする作戦だ。

 RHELは米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や米マイクロソフト、中国アリババ集団、米グーグルの4強のクラウドに対応している。RHELで動作する基幹系アプリケーションをこれらのクラウドに移行するにあたり、引き続きRHELを動かす構成を採る企業は少なくない。

図 IBMの主な歴史
図 IBMの主な歴史
レッドハットの買収で勝負に出た(写真提供:日本IBM)
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 IBMはレッドハットの製品群を手に入れることで、様々なクラウドに対応したシステムの構築を丸ごと請け負いやすくなる。複数のクラウドをまとめて運用管理するサービスやAI(人工知能)システムなどを売り込む足掛かりも得られる。

 ロメッティCEOは「現在、ほとんどの企業はコスト削減のためにコンピューターの処理能力を借りているだけで、クラウドジャーニー(クラウド移行の道筋)の2割までしか到達していない」と語る。

 これまではCRM(顧客関係管理)など周辺系システムをクラウドに移行するケースが大半だったが、今後は本丸と言える基幹系システムの移行が本格化すると見込む。ロメッティCEOはそこでこそIBMの強みが発揮できると踏む。