ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は大企業勤務を経て親族の会社に跡取りとして入社した27歳男性から。社長のワンマンぶりと理想とする経営のギャップに悩んでいます。上田さんは「あなたは未熟」と一喝。そのワケは?
親族経営のグループ会社の跡取りとして、現在の会社に入社して2年半になります。国公立大学を出て、大手上場企業で2年半勤めてから、転勤の辞令を機に我が社へ転職しました。会社経営に関しては無知のため、実務と並行して、MBA取得に向けて学費を貯めながら独学しています。
1年半の間、清掃や雑務の下積みを経てから、営業職に異動になり、雑務を継続しながら営業を続けてもうすぐ約1年が経ちます。最近になって社内のルールや規定について社長との意見の食い違いが頻繁に起こるようになってきました。歴史のある非上場会社であるがゆえに、外からの意見が入りにくいという点や、経営陣に現場経験者が少ないという背景があるのですが、現場目線と経営者目線の違いなのか、それとも私の視野が狭いだけなのか、現場目線の意見がことごとく否定されてしまいます。
例えば我が社には社長室がなく、従業員と社長の机が並んで置いてあるといった、隔たりのないフレンドリーな環境なのですが、距離感の近さゆえか、役職の垣根を飛び越えて社長が新入社員に直接注意してしまいます。これについて進言したところ激怒されました。社長に対してそういった内容を口出しできる人は私の他にはいません。
私が社長の立場であれば、“下から見た景色”、つまり自分からは見えない会社の問題点を提起してほしいだろうと思い、一対一の時に様々な提案をするのですが、社長はとても煙たく思っているように感じられます。一方で、私自身の仕事に関しては成績がうまく上がらず、自分の仕事もロクにできないのに、口ばかり出している状態になってしまっています。
最近になって少しずつ数字が上がるようになってきたものの、まだ満足できるような数字ではありません。社会人経験も少ないため、力不足を痛感しているところです。それでも、言いにくい事をしっかりと上に言うスタンスは、今までのメンバーでは成しえなかったためか、他の従業員からは好意を持たれています。
自分に与えられた職務を全うし、数字をあげられるように努力する一方で、社長への進言をこのまま続けていくべきかどうか、悩んでいます。まずは数字を上げてから物を言うべきなのでしょうか。上田さんの意見をお聞かせ願います。
事業継承者のジレンマについては最近文書でもよく見かけますが、読んでみると、会社幹部の方が教育役としてついていたり、会社としての受け皿がしっかりしていたりするケースばかりのため、参考になりません。
(27歳 男性 会社員)
大竹 剛(日経ビジネス 編集):今回は、親族経営のグループ会社の跡取りとして現在の会社に入社して2年半になる27歳の男性からです。親族である社長にいろいろと進言をするも煙たがられ、まずは数字を上げてから物を言うべきなのかと悩んでいます。
上田 準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):これは大手企業でも非上場企業でも、創業家一族が経営に深く関与している会社では9割方こういうことが起きているよ。だから、こんな状況は当たり前だと考えてください。社長とかなり年齢差があって、しかも若い。若い感覚でいろいろと言っても、社長にしたら、まだまだ未熟者の意見だよね。
大竹:何を言っても、そう思われますか。
上田:当たり前だよね。ひょっとしたら、この方は社長に対して、社長は社長室で仕事をして、現場で新入社員を直接注意するのはやめた方がいい、というようなことを言ったのかもしれない。だいたい、すごく活性化している会社では、社長は社長室なんかにこもっていませんよ。この方は、現場目線の意見が否定されると言っているけど、この会社は、社長自らが現場にいるということだよね。少なくとも、社長自身は自分こそが現場の最前線に立っていると思っているんじゃないかな。
ところがこの方は現場目線がないという。社長にしてみたら、何言っているんだということでしょう。激怒するのもわかるよ。
大竹:俺が前線に出ているじゃないかと。
上田:その通りだね。でも、その一方で、この方は自分が正しいと思っていることを社長に1対1で話せる立場にあるわけだよね。これは普通のサラリーマンじゃあり得ない。社長にしてみれば、跡取りとしてこの方に期待をかけていて、経営の実態を見て意見を言ってほしいんだと思うよ。
あなたは明らかに未熟です
大竹:大手企業に2年半勤めて大企業の組織になじんでいたのに、いざ親族経営の会社に来てみたら、社長が現場の人間に直接指示を出している様子を見て、大企業ではありえないと感じたのでしょう。
上田:きっとそうでしょうね。だけど僕だってファミリーマートの社長時代に、社長塾というのをやって、執行役員や部長など管理職をすっ飛ばして全国の各地区のスーパーバイザーなどを集めて直接対話する場を持っていたよ。そうした会を150回くらいはやったかな。
もちろん、すっ飛ばした中間の管理職には、後から僕からちゃんとフィードバックしているよ。現場からこのような意見が上がっているから、ちゃんと考えてやっておけとか。
おそらく、この方の会社くらいの規模だったら、社長は私のようなことをやらなくても、うまく組織を回してきたんでしょう。社長が直接、現場の社員に話しかけても、そのあとに部長を呼び出して、お前のところの部下にこう言っておいたからね、とか言ってフィードバックしてきたはずだよ。だから、社長と現場の距離が近いことは問題視するような話ではないな。
それともう1つ、今後も意見を言い続けていいのか悩んでいるみたいだけど、それは今まで通り思っていることを言ったらいいよ。ただし、自分で言っているように、あなたは間違いなく未熟だからね(笑)。
だけど、未熟だから何も言ってはいけないということではなくて、逆にどんどん言ったらいいんですよ。それに対して、社長がどう言うかを聞いて、学んで、社長の考えを全部習得していくんです。それは、自分がいずれ跡取りとして会社を引き継いだ時に、大きな支えになります。そのうえで、自分がトップになった時に、自分ならどうするかを考えて、自分の方針を打ち出していけばいいんです。今はそのためのトレーニングの期間です。
大竹:まず自分は未熟だという前提に立って、もっと学びましょうと。
上田:そう。今は訓練期間です。ただし、未熟でも社長には何でも思ったことを話す。
社長にとっては間違ったことを言っているように聞こえるかもしれないので、中にはきっと正しいこともあったと思う。これまで社長の周りには、社長に対して耳の痛いことを言ってくれる人はいないので、は今まで通り、若い社員としっかりコミュニケーションをとって信頼関係を構築しながら、社長に対しては進言し続けてほしいね。
大竹:ちなみに、社長が現場に出て中間管理職を飛び越えて現場社員にいろいろ物を言うのは、小さい規模の会社では当たり前ですよね。
上田:はい。当たり前ですよ。僕は伊藤忠時代に、いろいろな会社と取引をしたけど、数百人規模くらいまでの会社なら、社長が現場に降りていろいろな形で話をしているというのが普通でしたね。
大竹:逆に、会社の規模がそれほど大きくないのに、社長が社長室に引っ込んでいたり、現場に対して思いや考えを直接、発信しなかったりするのはよくないということですか。
上田:それこそが大企業病だね。風通しが悪い、社長の顔が見えない、という会社になってしまうよ。今はやはりこの規模の会社であれば、現場から社長の顔がしっかり見えるというのが、大事でしょう。
大竹:組織の規模が大きくないのに大企業病にかかっているような会社ほど、たちが悪い。
上田:その通りだね。
大企業で学んだことは一回忘れよう
大竹:この方は2年半、大企業で勤めていたわけですが、そこで見てきた大企業のやり方はいったん、忘れたほうがいいのでしょうか。
上田:そうですね。おそらく、かつて勤めていた会社は大企業病にかかっていたでしょうからね。やはり同族会社、親族会社の経営というのは、大手上場企業とは全く違いますから、無理に大企業のやり方をこの会社に持ち込もうとする必要はありません。
大竹:この方は、何度か自分の考えを社長に否定されて、社長に対する信頼感を失いかけているのかもしれません。
上田:だから、社長と1対1で話すときは、感情的に話をしてはいけません。ちゃんと論理的に提案なり、指摘なりをできるように準備してやるべきです。社長も煙たく思っているようだということは、逆に言えば少なくとも、この方が言っていることの一部は社長にとって痛いところをついている可能性があるわけです。一応、社長も聞く耳を持っているということですよ。
大竹:なるほど。
上田:だけど今の段階においては、効果のある提案、意見というのは、社長にとっては、まだ物足りない部分があるように、僕は推測します。
大竹:なぜですか。
上田:未熟だからです。
MBAを取得するための準備を進めているそうですが、現場のことはまだ、あまり分かっていないのではないかな。観念的に大手企業のような組織を作っていこうとする必要はなくて、この会社の実態に合った組織の在り方とはどのようなものかを、社長との対話の中から考えてみてください。それこそ、MBA以上の教科書になるよ。
大竹:もっと現実を踏まえたほうがいいということですね。
上田:理想とする大企業のような経営と、親族経営の現実とのギャップに苦しんでいるようですが、現実にあったマネジメントを考えるのはあなた自身です。事業継承について書かれた本もたくさん出ているでしょうが、机上ではなく、現場を見て、社長の話を聞いて、自分なりの答えを必死に考えてみてください。それができれば、社長はもっと、あなたの話を聞いてくれるはずです。
*この連載は毎週水曜日掲載です。
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