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 こんにちは、Cadetto.jp管理人の増谷です。「救急車を断らない救急医療を提供する」――。この理想の実現のために医師採用サービスを立ち上げた救急医、田真茂氏にお話を聞きました。

――救急医療の課題を解決する医師採用サービスを立ち上げたとのことですが、課題とは具体的にどんなものなのでしょうか?

田真茂(でん・まさしげ)氏。ドクターズプライム代表取締役社長。聖路加国際病院(東京都中央区)で初期研修を行ったのちに、同病院救命救急センターで、当直帯責任者として断らない救急を実践。2017年4月から現職。

 多くの二次救急病院は、夜間は非常勤医師に来てもらわなければ救急医療を提供できない状況にあります。最近は医師の働き方改革などの流れで常勤医の勤務時間も厳しく制限されるようになりつつありますので、非常勤医師の必要性はより高まっています。

 ただし、非常勤医師には救急車を受け入れる意欲が低くなる傾向があります。そもそも実際の臨床現場では、救急車を受け入れることによる医療トラブルのリスクがあります。それに対し、時給や日給で雇用されている非常勤医師の倫理観のみを拠り所とした対応には限界があるため、結果的に救急車を断ってしまう事例が多いのが現状です。

 また、時給や日給で雇われている非常勤医師は、その時間を過ごせばお金が得られるため、救急車を受けるよりも寝ていた方がいいという発想に陥りがちです。

 とはいえ、病院側は、お金を払って夜間の非常勤医師を確保しているのに、救急車の受け入れを断ってしまうと赤字になってしまうため、医師には救急車を受け入れてほしいと思っています。しかし、非常勤医師が勤務してくれないと夜間の救急外来を維持することが難しくなるため、病院側から医師に対し、救急車の受け入れを強く求めることができないのです。こうした病院の悩みに課題を感じてきました。

 そこで、救急車を断らない非常勤医師を採用したい病院が求人広告を載せるドクターズプライムを作りました。ドクターズプライムの求人広告を見られるのは、ドクターズプライム会員の医師たちです。救急車を断らない医師を採用したい病院が、救急車を断らない会員医師に向けて、求人情報を公開できるサービスになっています。

図1 ドクターズプライムの求人画面※クリックして拡大

――救急車を断らない医師が欲しいのはどの病院も同じだと思いますが、どうやって医師のクオリティーを担保しているのでしょうか。
 二次救急病院に搬送される患者さんは、初期研修を終えた医師のスキルがあればほとんど対応可能です。非常勤先では救急車を受け入れない医師たちも、自分の常勤先では受け入れています。常勤先はサポート体制が整っているからというのも理由の1つですが、救急車を断った際に上司や先輩から理由を問い詰められてしまうため、受け入れる方向に意識が向くケースが多いと感じます。また、非常勤先の当直では、医師の管理体制もなく、受け入れるか断るかの判断を当直医一人で決めることができるため、「専門ではないので」という理由で断ることができてしまいます。つまり、救急車の断りは、スキルではなくマインドの問題なのです。

 例えば、二次救急病院に搬送されてくる骨折患者さんの多くは、救急外来では緊急性を判断した上で、固定・安静にし、翌日整形外科の先生に引き継ぐことで一次対応ができるはずです。骨折の固定に関しては、初期研修で学んだスキルでまかなえるため、やはり救急車の断りは、スキルの問題ではなく、マインドの問題によるところが大きいのです。

 ドクターズプライムでは、このマインドを変えるべく、報酬とルールの仕組みを作っています。医師の報酬面では、一般的な求人の給与に比べ、2万円高く設定しています。例えば、他の求人サイトで非常勤医師の求人広告を1泊6万円で出している病院の場合、ドクターズプライムに出す求人広告は1泊8万円としてもらいます。また、その医師が救急車を受けたら1台当たり5000円、さらに入院につながったら1人当たり5000円と、追加のインセンティブを支払うよう病院に依頼しています。基本料金に2万円が上乗せされ、合わせて受け入れインセンティブが得られるため、医師の救急車を受け入れるモチベーションが高まると考えています。

 一方、不当に救急車を断った場合には1台当たり5000円の減額をする上に、不当な断りがあった医師は、ドクターズプライムの利用ができなくなります。

――「不当」かどうかは、どうやって判断されるのでしょうか。
 私たちは会員医師たちに、下記の3ケースは妥当な断りだと伝えています。

 一つ目は、医師が他の患者さんに既に対応中で、どちらかの患者さんが被害を被る可能性がある場合です。被害を被る可能性は、疾患の種類や緊急度、重症度を鑑みて判断します。例えば、かぜなどの場合、同時に対応したり、少し待ってもらって順番に対応しても、どちらかの患者さんが被害に遭う可能性は低いと考えられるため、受け入れ可能だと考えています。

 二つ目は、受け入れ要請の時点で、明らかにその疾患や症状への緊急対応ができないと分かるもので、受け入れることによって患者が著しい被害を被る可能性がある場合です。先ほど「二次救急病院に搬送される患者さんは、初期研修を終えた医師のスキルがあればだいたい対応できるはず」と言いましたが、その対象外となるようなケースです。例えば、脳出血が予想され、徐々に意識状態が悪くなっている、手術も必要そうだといった状況であれば二次救急病院ではなく三次救急病院への搬送が望ましいため、不当な断りとは考えません。

 最後は、病院側の都合により救急車の要請を断った場合です。ただし、ベッド満床という断り理由は鵜呑みにすべきではないと考えます。救急外来のベッドをオーバーナイトベッドとして使ってもいいですし、一度受け入れて診断をつけてからなら他病院も受け入れやすいため、転送するという手もあります。医師と看護師が協力してベッドコントロールをすれば、患者さんを診療するための空きベッドを作ることができると、救急医としての実体験から考えています。

 こうした判断が妥当かどうかは、病院側とドクターズプライム側、当該非常勤医師側の三者で話し合うことになります。病院側は受け入れ要請時の記録や事務の方、看護師、患者さんの話などから判断しますが、医師でなければ妥当性が判断できない場面もあるかもしれないので、ドクターズプライムの医師が非常勤医師本人にヒアリングを行います。その結果、不当な断りだったと認定されるかどうかが決まります。

 また、勤務後には病院側が非常勤医師に対する評価をつけ、医師がレーティングされる仕組みを作ることで、医師の質を担保しています。

――この仕組みで、実際にドクターズプライムの会員資格が停止された医師はいるのでしょうか。
 現在までに約160人の医師会員が登録しており、会員資格が停止されたのはそのうち2人です。いずれも不当な断りが数回認定された方でした。両ケースとも、停止判断の理由に納得していただけています。

――医師の質を担保する以外に、一般的な医師の求人広告媒体との違いはありますか?
 ドクターズプライムの収益は病院が支払う月額料金(30~50万円程度)から出ています。人材紹介会社との違いは、医師が1人応募したら日給のX割を支払う、といった成果報酬ではないので、医師を商品として病院に押し売りするような形になりません。

 また、ドクターズプライムに広告を掲出する病院付近の消防署とも連携するようにしています。救急隊に対し、私たちの思いを伝えたり、「今日はここの病院に、こういう医師がいます」と情報提供しています。救急隊に医師のシフト表を渡すといったことをする病院はありますが、それだけではどんな医師なのかが分かりません。事務の方から当直医のシフト表をもらい、救急隊がその病院に救急要請をしたときに、その医師が愛想なく断ったりすると、救急隊からの印象は悪くなります。救急隊の間で、医師の評価を共有することもあるようです。

 実際に、「月曜は断る医師がいる」と認識され、救急要請が減ってしまった病院がありました。その病院にドクターズプライムの医師が入った際、「今度から月曜は、救急車を受け入れることができる医師が来ます」と救急隊に伝えたところ、1日1台来るか来ないかだった救急車数が、1日18台にまで改善したケースもありました。

 病院は救急車を断らない非常勤医師を雇用でき、非常勤で働きたい医師は高い報酬を得ることができ、救急隊と患者さんはすぐに救急要請を受け入れてもらえる、四方よしのサービスになっていると自負しています。

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Cadetto通信
日経メディカル Online編集部の「Cadetto.jp担当」約2名(飛び入りあり)が、時に熱く時にまったりとつづるコーナー。取材のこぼれネタや企画の予告編、耳よりなイベント、面白い人&面白い話、編集部の秘密、困っていることや皆さまへのお願いなどなど、自由度高め、文章短めで参ります。時には「病院ランチ食べ歩き」などの特別企画に変身することも。

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