西村 仁=ジン・コンサルティング 代表、生産技術コンサルタント
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西村 仁=ジン・コンサルティング 代表、生産技術コンサルタント

 前回のコラムでは材料に力を加えると「弾性」→「塑性(そせい)」→「破断」の順に3つの現象が起こることを紹介しました。力を加えると変形(伸びやたわみなど)が生じます。弾性は力を除くと元に戻る性質で、塑性は力を除いても元には戻らずひずみが残る性質です。さらに力を加えると引きちぎれて破断します。どのような材料もこの3つの性質を持っています。

 これらの現象は私たちの身近でうまく活用されています。例えば、弾性を利用した代表例に文房具のクリップがあります。クリップを少し広げて紙を挟み込みます。これは元に戻ろうとする力を利用しています。

 塑性を生かした事例としては、薄板を金型で挟みこんで凹凸形状を付けるプレス加工です。大衆食堂などで見かける灰皿はアルミニウム(Al)合金板をプレスすることで凹凸のひずみをつけたものです。最後の破断は旋盤やフライス盤、ボール盤などの工作機械で加工を行なう際に、大きな力を加えることで材料表面を破断させて削っています。

 これらの3つの現象の境界となる力の大きさを表したものが「降伏点」と「引張り強さ」です。材料の特性表には必ず記載されており、「降伏点」は弾性の上限を意味し、「引張り強さ」は破断する力の大きさを意味します。

変形を抑える2つの方法

 製品や生産設備、治工具の構造部品は弾性範囲、すなわち降伏点以下で使用します。力が加わると変形するものの、元に戻れば問題なしと判断します。そのため、主な製品には許される力の大きさが記されています。例えば、皆さんが使っている椅子や机のカタログには「耐荷重」が記されています。これは弾性範囲を示しています。これを超えるとひずみが残ったり破損に至ったりするわけです。

 一方、変形量をできる限り小さくするには、[1]頑丈な材料を選ぶ、[2]材料の形状を工夫する、という2つの方法があります。[1]はAl合金よりも鉄鋼材料の方が変形が小さいことは肌感覚でも分かると思います。[2]の形状とは、例えば文房具の下敷きを横向きに持つと自重でたわんでしまいます。しかし、縦向きに持てば上下方向に力を加えてもビクともしないほど丈夫になります。このように軟らかいプラスチックでも、断面形状(下敷きの場合、横向きか縦向きかの違い)によって頑丈にできるのです。この形状については今後のコラムで詳しく紹介します。

 では、[1]の頑丈な材料について考えてみましょう。頑丈とは、(1)力が加わっても変形が小さいこと、(2)力を除けば変形はきちんと元に戻って破損もしないこと、です。理想は力が加わっても変形が「ゼロ」で、どんなに大きな力を加えても破損しないことなのです。しかし、地球上にこれを満たす材料はどこにもありません。そこで(1)の変形のしにくさを「剛性(ごうせい)」、(2)の大きな力に耐えられる度合いを「強度」に分けることで材料の選定をしやすくしています。

 次回も引き続きこの弾性と強度について紹介します。