米アイロボット(iRobot)は、1990年に創業し、2002年からは「Roomba(ルンバ)」で家庭向けロボット掃除機の市場をゼロから開拓してきたパイオニアだ。ただ最近は、競合メーカーが増えてきた。しかも、米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)の「Amazon Echo」や米グーグル(Google)の「Google Home」といったAI(人工知能)スピーカーが続々登場するなど、生活にインパクトを与える主役の座を他社に明け渡しつつあるように見える。アイロボットがこの状況をどう考えているのか、そしてルンバの今後の方向性、AIスピーカーなどが構築するスマートホームとの関係はどうなるのか。アイロボット CTOのChris Jones氏に話を聞いた。(聞き手は、野澤 哲生=日経 xTECH/日経エレクトロニクス)

iRobot Chief Technology Officer(CTO)のChris Jones氏
iRobot Chief Technology Officer(CTO)のChris Jones氏

米国などでは、各種の家電がネットワークにつながったいわゆるスマートホーム市場が活況と聞くが、何か課題はないか。あるなら、アイロボットはそれにどのように対処しようとしているか

ロボット型思考で家の中を完全把握

Jones氏 スマートホーム市場は拡大しており、各種センサーやAIスピーカーなどの導入が増え続けている。ただし、家の中にそうした端末が増えることで、利用者側がそれらをうまく使いこなせないという課題が出始めている。当社としてはまずは、それらの利用体験(usability)を高めていく必要があると考えている。

 そしてそれができるのは当社が進める「Robotics Thinking(ロボット型思考)」だといえる。ロボット型思考とは、センサーで家の中の物理的状況を知ると同時に、モーターで移動しながら空間を認識することで、家の中の状況を詳細に把握することだ。家のどこにどんな家具、家電、端末などがあり、どのような状態になっているかを把握しながら自律的に考え、行動する。それができれば、例えば、家のドアの鍵が閉まっているかどうか、なども含め家電や端末の状態が統合的に分かるので、利用者にも最適な使い方を提案できる。それにはルンバのようなロボットが最適だといえる。

近い将来にSLAMと深層学習を統合へ

それには、ルンバの現状の位置認識および地図作成技術である「vSLAM(visual Simultaneous Localization and Mapping)」では足りないのではないか。競合他社の中には、Deep Learning(深層学習)で家の中のモノの位置を常に把握できるようにすると発表した企業もある。近い将来、vSLAMを別の技術に変える可能性があるか

Jones氏 vSLAMにはこれまでかなりの投資をして技術開発してきたし、今後も技術開発を続ける方針だ。つまり、当社のvSLAMは進化し続ける。近い将来に出すルンバに搭載するvSLAMでは、家の中の部屋をそれぞれ認識、記憶することで、特定の部屋だけ掃除させることができるようになる。

 さらにその先では、家の中の家具や家電製品なども認識できるようにする計画だ。これは、vSLAMに深層学習を取り入れ、物体認識ができるようにすることを考えている。深層学習に切り替えるのではなく、vSLAMに深層学習が加わる格好だ。