いよいよ「人生の諸問題」の区切りの最終回となりました。前回からの続きです(こちら)。

 みんなで2018年を振り返っています。2018年といえば、平昌冬季オリンピック・パラリンピックから幕が開き、そこからサッカーのワールドカップが続きました。前回は相撲と野球の話で終始してしまいましたが、スポーツ好きのお二人には、いろいろ話したいことがいっぱいあった年だったと思います。

:平昌冬季五輪って、今年だったんだ。

 (ガクッ)

写真左:<span class="fontBold">岡康道(おか・やすみち)</span>1956年佐賀県に生まれ東京に育つ。早稲田大学法学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとしてJR東日本、サントリーなど時代を代表するキャンペーンを多く手がける。97年、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。99年、日本初のクリエイティブ・エージェンシーTUGBOATを設立。NTTドコモ、TOYOTA、ダイワハウス、サントリーなどのCMを手がける。ACCグランプリ、TCC最高賞ほか多数受賞。エッセイ集『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fgp%2Fproduct%2F430902159X%2F&tag=nikkeibusines-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">アイデアの直前</a>』、小説『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fgp%2Fproduct%2F4093863660%2F&tag=nikkeibusines-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">夏の果て</a>』などがある。近著は『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fgp%2Fproduct%2F4334039251%2F&tag=nikkeibusines-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">勝率2割の仕事論</a>』。小田嶋隆氏とは高校時代の同級生。<br / ><br / >写真右:<span class="fontBold">小田嶋 隆(おだじま・たかし)</span>1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。日経ビジネス本誌で「パイ・イン・ザ・スカイ」、当日経ビジネスオンラインで「<a href="/article/life/20081022/174784/" target="_blank">ア・ピース・オブ・警句</a>」を連載中。近著は、『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fgp%2Fproduct%2F4909394036%2F&tag=nikkeibusines-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白</a>』岡康道氏とは高校時代の同級生。
写真左:岡康道(おか・やすみち)1956年佐賀県に生まれ東京に育つ。早稲田大学法学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとしてJR東日本、サントリーなど時代を代表するキャンペーンを多く手がける。97年、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。99年、日本初のクリエイティブ・エージェンシーTUGBOATを設立。NTTドコモ、TOYOTA、ダイワハウス、サントリーなどのCMを手がける。ACCグランプリ、TCC最高賞ほか多数受賞。エッセイ集『アイデアの直前』、小説『夏の果て』などがある。近著は『勝率2割の仕事論』。小田嶋隆氏とは高校時代の同級生。

写真右:小田嶋 隆(おだじま・たかし)1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。日経ビジネス本誌で「パイ・イン・ザ・スカイ」、当日経ビジネスオンラインで「ア・ピース・オブ・警句」を連載中。近著は、『上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白』岡康道氏とは高校時代の同級生。

小田嶋:いや、もう、なんか、遠い。この間、流行語大賞で、「そだねー」という言葉が受賞していたけど、俺は5年前の流行だった、みたいな感覚で聞いた。

:昔は広告のコピーでも、2~3年はもっていたものだけど、最近は1年前、半年前がすごい昔に感じられるようになって、コピー自体も一瞬で流れていって、全然もたなくなっていますからね。

 でも小田嶋さんは、平昌五輪のときにコメンテーターとして「報道ステーション」にちゃっかり出演していたじゃないですか。満面の笑みで、「いや、感動した」とか何とか言っていましたよね。

:そんな小泉純一郎みたいなことを言っていたのか。

小田嶋:あれね。

 出張先でテレビを見ていたら、いきなり小田嶋さんが出てきて、飲んでいたお茶を吹いちゃいましたよ。

小田嶋:うっかりと、何かよくないことを言っちゃわないか、自分的には大変だったのよ、実は。

:そうだよね。とりわけ小田嶋の場合は。

 危ない。

小田嶋:だから、我ながら、すごい官僚答弁になって(笑)。普段、切れ味のいい人が官僚答弁になるときは、どうしてああも切れ味が鈍るのかというと、ある種の事情を抱えているからだ、ということがよく分かりましたね。

:うーんとか言っていても、だめだしね。

小田嶋:たとえば、ちょっとはしゃいでしまいがちなフィギュアスケートの感想にしても、難しい。うっかりしたことを言えない。

:フィギュアだとコアなファンの反応が、結構大変なんだよ。前回、前々回冬季五輪のキム・ヨナね。あれ、僕は、応援したいな、なんて思っていたんだけど、なんか日本でそれを表出するのは、難しい雰囲気だった。とりわけキム・ヨナが出ているときに、家の中で応援するのは、はばかられた。

 家の中、とは?

小田嶋:だから、浅田真央さんじゃなくて、キム・ヨナを応援するって、ある種、何というか、キャバクラ嬢にお熱みたいな、そういうニュアンスが出てしまうから。

:もちろん僕はアスリートとして応援しているんだけど、キム・ヨナはバブルのときに、いちばんもてたタイプなんですよ。だから、応援したいけど、応援しちゃいけないって、気持ちにブレーキがかかる。

小田嶋:韓国の女子プロゴルファーとか、あと、ロシアのフィギュアスケーターにも、その匂いがある。キム・ヨナって顔立ちがきれいだ、というきれいさじゃなくて、動きだとか、振りだとか、表情だとか、彼女がつくり込んだものが大衆にアピールする、というきれいさだったんだよね。

:だから、セクシーということはいえる。

小田嶋:「彼女はセクシーである」というのは日本語だと、そのまんま「セクシー」なんだけど、中国語だとセクシーって「性感」って字になるんだよね。だから、そういうスケーターの記事には性感女王とか書いてある。

 それで?

小田嶋:いや、だから、その、中国語ってそういうふうに書いちゃうんだ、というお話です。

 どこで見たの?

小田嶋:いや、その、どこで見たのか思い出せないけど。ただ、ああ、中国では性感なんだ、こういうふうに言うんだ、って。

  違うかもしれないよ。

小田嶋:いや、でも、セクシーということを中国語で表現すると……

 官僚答弁になっていますよ。

:まあ、だから、次、行きましょう。

小田嶋:はい、次に。サッカー・ワールドカップですかね(やれやれ)。

ハリルホジッチ解任は禍根になる

:ワールドカップも、僕の中ではかなり昔感が出てしまっちゃっているね。

小田嶋:いや、ハリルホジッチを辞めさせたことについては、俺はいまだに納得していないぞ。その点については、俺は昔のこととして、流していない。あれはひどい話だった。きっとこの先、10年、20年にわたって、日本サッカーの禍根になると思います。

:ただ、今、森保一監督が結果を出しちゃっているでしょう。

小田嶋:そうなんです。森保さんが結果を出していることも、かえってよくないような気がするんだけど。もちろん、彼はすごく優秀な監督です。ただ、ハリル解任の問題というのは、試合に勝った負けたのことではなくて、日本のサッカー協会の指示系統の問題なんだよ。これまで、あらゆることを全部、外国人監督のせいにして乗り切ってきたという、そのアンフェアなガバナンス体質が、いまだに直ってないで、そのまま進んでいるということが、俺としてはとても引っ掛かるのね。

:ハリル解任劇を広告業界的に説明すると、結局、ハリルが本田圭佑選手を切ろうと思っていた、というところに焦点がある。本田を切ることだけはできないよ、というのが、広告業界の総意だったんです。

オシム監督の強烈なメッセージ

小田嶋:それはあり得る話だよね。もちろん広告業界の後ろには、有名なスポーツメーカーがいて、一番マネーを生んでくれるのは、やっぱり本田選手だったから。そのことはハリル以外の歴代外国人監督にとっても、昔から根深くある問題で。オシムさんが来たとき、最初の代表戦に招集したメンバーは、13人しかいなかった。それが全員スポンサーの付いてない選手で、偶然とはとうてい思えなかった。

:それは間違いなく、偶然ではないよ。

小田嶋:オシムが発したメッセージは、俺は企業とひも付きの選手は使わないよ、ということだったと思うんだよ。

:強烈なメッセージだよね。

小田嶋:それで、あのときもメンバー選出で揉めに揉めたわけです。これは日本に限らず、どの国でもそうなんだけど、スター選手にはファンがたくさん付いていて、スポンサーもたくさん付く。テレビ局も、一番数字が取れるぞ、という話になる。もちろんそういうスター選手は、そこそこの実力もあるし、ある程度の堅実な結果は得られる。でも、監督がスポンサーの意向を受け入れてしまうと、望ましいチーム改造はできない。

:だから西野監督って、最初から苦渋に満ちていたじゃないか。「俺のチームじゃない」と言っていたし、「終わったら辞めるんだ」ということもずっと言っていた。あれほどはっきり「辞めたい」と言いながら、就任する人はいないよ。

小田嶋:事情絡みを俺はのみ込むよ、ということだったんだろうけど。

:協会とか関係者とかに十分に言い含められてしぶしぶ表に出た、という感じだったものね。

小田嶋:とにかくハリル解任の責任が、どこに帰するのか、まるで分からなかった。あらゆる意味で日本的なやり方でしたね。

:その後、森保監督になって、チームが若返ったら、試合運びは断然速くなったよね。

小田嶋:そもそもハリルホジッチは「デュエル(1対1の競り合い)」ということを掲げて、速いチームを作ろうとしていたんです。今、サッカーは身もフタもなくスピードアップされているから、チームに速さがあるということは、勝ち方としてすごく気持ちがいい。

:森保ジャパンでは、スピード感のある、気持ちいい攻め方になっているよ。

小田嶋:森保監督は賢い人だから、ハリルホジッチがやろうとしたことの、いい部分をちゃんと拾っているんです。だから、今は戦術的には穴はないんだけど、あの協会のガバナンスのひどさというのだけは残っていて、これからもいろいろな影響を及ぼすんじゃないかと思います。

:僕はサッカーに詳しくないんだけれど、ワールドカップでは日本‐ベルギー戦で日本が2点を先取していたのに、後半、相手のなすがままに3点を取られて負けた試合がありましたよね。試合に際しては、事前にいろいろなシミュレーションをやっていると思うんですよ。1対0、1対1、あるいは逆転されたらどうするか、とかね。でも、あれを見ていた限りでは、「後半に2対0で勝っている状況」は想定されていなかったんだな、という感想を持ちました。

小田嶋:そうかもしれない。格上相手に後半、2対0で先行している、というシミュレーションはね。先行していたのに、後半でひっくり返されるという状況は、サッカーではあまり起きないことではあるんだけどね。

:ラグビーでは弱いチームが前半をリードして、後半にぼろぼろになるということはよくあるよね。この間のラグビーのテストマッチでも、イングランド代表を相手に、日本代表が前半15対10でリードしていたのに、後半はぼろぼろに負けた。

小田嶋:ラグビーでは、おなじみの展開だよね。あのパターンはアメフトも同じなのか?

:同じですね。実力のあるチームは後半に強い。

小田嶋:そうか。コンタクトの強いスポーツは、強いチームほど後半に強くなるんだね。ただ、サッカーは比較的それが表に出ないんだけどね。

:昔を振り返ってみると、「ドーハの悲劇」だって、同じパターンだったよね。最後の最後、よりによってロスタイムで気が抜けた瞬間に、ぼろぼろになったというのは、何だったんだろう、あれ、と、ずっと不思議に思っている。

 ということで、ある意味で岡さんにとって本丸、日大アメフト部事件に行きましょう。

:うん、これは話せば長くなる。

小田嶋:岡はアメフトについては一家言がある人だからね。

ついに岡康道が日大アメフト部事件を斬る

:僕たち、今、早稲田大学で偶然、同じ日に講義を受け持っているから、今年は小田嶋ともよく会ったよね。

小田嶋:講義後、麻雀になだれ込んだときの話題だったね、日大アメフト事件は。

 それ、同じ日に講義というのは、偶然ではないですね。先に麻雀ありきが見え見えです。

:いや、そんなことはない。

小田嶋:偶然です。

:それで、日大アメフト事件では、まず加害者と被害者がいるという前提で、犯罪シーンと目されるものがテレビやネットで流れたんです。あれは衝撃でした。僕は長い間、アメフトの選手としてプレーもしたし、プレーも見てきた。けれども、あのようなプレーは見たことがなかった。

小田嶋:やっぱりなかったか。

:ない。生涯で初めて見た。そのぐらいひどい。

小田嶋:だって明らかに、プレー時間が終わってからタックルしているものね。

:ただ、被害者の選手がその後23プレーをこなしたことは、みんな知らないでしょう。

小田嶋:知らない。そうだったの?

:うん。だから、いろいろ騒がれたけど、結局、傷害罪とかそういったものは成立しなかったじゃないですか。

小田嶋:日大の内田さんに対しては、タックル指示が認定できないとして、不起訴処分が決定した。

:いったい誰がどういう犯罪を構成できるのか、という話に落着したんです。

小田嶋:でも、あのタックルのシーンは衝撃的だった。被害者の体だって、ありえないほどしなっていた。

岡さんの深読み、宮川選手の深謀遠慮プレー説

:それを逆に言えば、宮川選手は相手がひどいダメージを受けない程度にタックルを加減した、ということなんだよ。ああいう派手なタックルをかければ、ベンチも納得するだろう。だけど、相手に決定的なダメージは負わせない、という超絶技巧のタックルだったわけ。

 本当ですか?

:いや、僕の推測ですけどね。

小田嶋:ということは、宮川選手って腕が立つんだね。

:これは本当ですが、宮川選手は、学生ではほとんどナンバーワンといっていいほどのタックラーなんですよ。彼は断然うまいのよ、日本一。

小田嶋:そうだったのか。彼は記者会見でも立派だったでしょう。この人、すごいと思いました。

:彼は記者会見だから立派だったんじゃなくて、大学に入ったときから立派だったんです。そもそも高校時代から選手としての評判は高かったんです。

小田嶋:ただ、日大フェニックスのあの監督とコーチは、明らかにばかじゃないですか。

:そこなんだよ。あくまでも僕の推測という前提で聞いてほしいんだけど、だから、あんなばかなやつらの指示を、宮川君のような優秀な選手が納得して聞くわけはないんです。ということは、彼はそれまで、上からの指示は上手にかわしていたんだと思う。

 すると、ばかな監督とコーチは内心、面白くないですよね。それで「相手をつぶせ」とか、異常に感情的な指示を、あのゲームで出すに至ったわけです。「オマエは次の全日本に出るのは禁止だ」とまで言われてしまったら、選手はばかばかしいと思いながらも、形だけやって見せるしかない。これでいいんだろう、というのをやったのがあのプレーだったんです。

小田嶋:なるほど。

 だとしたら、すさまじい「人生の諸問題」の解決法ですが……あくまでも岡さんの推測です、ということを、ここでもう一度お断りしておきます。

小田嶋:その後、日大側は学生がさらし者にされちゃうからうんぬんという、おためごかしの理由で記者会見をすごく止めていたけれど、彼はちゃんと表の場に出てきて、見事に説明したでしょう。あの記者会見を見て、ああ、この選手はただ者じゃないな、とびっくりした。

:ただ者じゃないですよ。本当のことを自分の言葉で言っているし、感動したもん。

小田嶋:とても20歳とは思えない。今は大谷翔平にしても、ゴルフの松山英樹、石川遼にしても、今の宮川君にしても、あの年齢で、ああいう立場に立つ選手が、身体的にも反射神経的にも精神的にも、非常にしっかりしていますね。そうじゃないと一流にはなれないんだろうけど。

:みんな、自分自身と、自分を取り巻く状況をマネジメントができる頭脳を持っているんですよ。

大谷選手のインタビューに感動

小田嶋:大谷翔平のインタビューを聞くと、完成度が高くて、ひっくり返るものね。

:今年の夏、僕、アナハイムのエンゼル・スタジアムで3試合見てきたんだよ。

小田嶋:おお、バーランダーからホームランを打った場面か?

:もう、素晴らしかったですよ。見ていて泣きそうになった(泣)。

小田嶋:バーランダーはアメリカ球界のエースですからね。そのエースからホームランを取ったというのは、とんでもない話で。

:次の日に、大谷が報復のデッドボールを受けたでしょう。

小田嶋:そうそう、その報復デッドボールについて記者が質問したときの、大谷の返しも見事だったね。

:「私もピッチャーをやるし、もちろんミスピッチもある。気にしていない」と。

小田嶋:相手は報復の話を聞いているんだけど、ピッチング技術にうまくすり替えていてさ。

:そのあたりのスマートさはどうだ、と、記者まで絶賛している。あっちでは3塁側がホームなんだけど、ベンチを見ていると、ベンチから身を乗り出しているのは大谷選手だけなんです。だからもう、すでにチームを引っ張っている感じ。

小田嶋:おお。

:日本から、かわいい男の子が来たぞ、というレベルではなく、すでに大谷がチームをまとめるリーダー格になっている。4番バッターでバーランダーからホームランを取って、ピッチャーもやって、ベンチから1人だけ身を乗り出すというのは、これはどうよ。これまでの日本人のすごい選手でもできなかったことですよ。

「日大アメフト立て直し」という美談へのシフト

 もう一度、日大問題に戻しますか?

:そうだ。戻そう。それで、日大の監督とコーチはクビになった。それは当然だと僕も思う。次に、だめだめになった日大を立て直すために、京都大学でアメフトチームを甲子園ボウルに連れていった水野弥一監督を、日大が受け入れようとした。それは日大の父兄も了解して、選手も盛り上がったんです。ペナルティで1年のブランクがあっても、次は水野さんの下で甲子園ボウルへ行くぞ、とね。

 ところがここで、日大の新監督候補者を審査する選考委員会という、不思議な会が立ち上がっちゃって、そこに関学大のOBが送り込まれたんだよ。

小田嶋:どういうこと?

:日大は自浄力が機能しない状態だから、外部の目も入れましょう、その際は被害者側にも入ってもらって管理しましょう、という話になった。その選考委員会で、水野さんの日大新監督就任について、高齢であるとか何とか、いろいろな反対が唱えられて、結局、立命館出身の、実績が薄く、僕も知らない人が日大の後任監督になっちゃったわけ。

小田嶋:京大の老監督が乗り出して、日大を復活に導くってことになったら、それはものすごくアングルのいい話だよね。

:そうなんだよ。水野さんと、亡くなった日大の篠竹監督というのは、かつて甲子園ボウルで熱闘を繰り広げ、永遠のライバルと称されていた。となると、かつて伝説のライバルだった京大の水野監督が、日大フェニックスを、文字通り不死鳥のようによみがえらせる――という、すごいメディア映えのする話になる。完全に日大サイドのストーリーになっていっちゃうんです。

小田嶋:そうか。そのようないい話として着地されちゃあ、関学としては穏やかではなくなるね。

:主人公が、被害者である関学じゃなくて、加害者の日大になってしまう。こんなばかな話があるか、と。

小田嶋:それは、笑って見過ごせないだろうな。

:ということで、最大のライバルの立ち直りをつぶしにかかった。これは全部推測ですよ。でも、そうとしか読めないんだ、この話は。事実、日大は強いから、すでにもうフェニックスは、復活劇の主人公になりつつある。

小田嶋:不起訴処分になったことで、内田さんは懲戒解雇は無効だと、日大を訴えているよね。

:今度はまた、そういう泥沼に発展している。

小田嶋:こういうことって、メディアでばーっと騒がれて炎上するでしょう。そこで炎上して、半年ぐらいたった後に、ところで、あんなに炎上したあの事件ですけど、結局、不起訴になりました、みたいなことになっても、世間って、「ああ、そう」ぐらいしか反応しない。

:現時点では、もうどうでもよくなっている。

おっさん猿山問題はつづく

小田嶋:事件の消費サイクルが、すさまじく早くなっているんだよ。それで、輪島も死んだしな、とか、関係ないことがくっ付いてくる。輪島と日大アメフト部事件はもちろん全然関係ないんだけど、日大のあの、内田さんの上の田中理事長とツーカーだったという人も、この世からいなくなったんだからということで、いろいろ話が済んでいく。

:「そだねー」の消費の早さと同じだね。

小田嶋:そこに戻ったね。テレビが流行語大賞のベースにあった昔は、年末にその1年を振り返るちょうどいいフックになっていたんだけど、今はネットで火がつくようになって、その燃える速度が速くて、消える速度も速いから、前半の6月以前の流行語って5年ぐらい前の話感になって、ちょっと振り返るには距離があり過ぎるみたいになっているね。

:流行語大賞というのは、もう年間ベースでは成り立たなくなっている。

小田嶋:ツィッターのトレンドワードなんて、3日ぐらいしかもたないですからね。

:流行、じゃないけれど、今年は日大の次に、レスリングもボクシングも体操も相撲も、ってパワハラ問題がずらずらと出ましたね。

小田嶋:スポーツ団体のガバナンス問題表出の年だったね。でも、世間は、スポーツ競技団体って軍隊かよ、ということで驚いてみせていたけれど、あれって別にスポーツ団体だけの話じゃなくて、日本の男の組織全体の問題だと思うわけだよ。よって、要するに、日本のスポーツ競技団体のガバナンスの問題というのは、日本の組織というもののホモソーシャル的パワーバランスの問題と、全部がひとつながりだと思うんだよね、ということを俺は考えていて。

 えっと、何を言っているのですか?

:いや、さらに一回りして、第2回のおっさん問題の話に戻ったんだよ(こちら)。

小田嶋:そうそう。日本のおっさんは、みんな猿山に生きているという。

:俺たちはサルか、と。

小田嶋:だから俺が入院で身をもって経験した話――女性はどんな人とも、入院患者として打ち解けられるけれど、男は猿山の関係性の中でしか生きられないので、入院生活で孤立するという問題とも、つながっているんだよ。

 根が深いですね。

:だから難しいんだよ、あれ。

 どこが難しいですか。

:いや、ちょっと言ってみただけだけどさ。

そしていつまでも「諸問題」はつづく

小田嶋:どこかのフェミの人たちが言っていたことで、それはそうだなと賛同できたのは、そういう組織は女性を強制的に入れないとだめだということだった。男って集まっちゃうとゴッドファーザーの世界になるんです、それこそ外国人でも(※そういえば、こんな回もありました→「男だったら、天下国家を語れるべき? 『ゴッドファーザー』と『おじさん』と『おばさん』と」)。

:そうね。陸上部と水泳部が比較的そうならないでいるのは、男女一様に練習をするからかもね。それと競技の性質からいって、個人競技が主体であるとか。

小田嶋:ともかく男だけ集めておくのはよくない。

:だから、この対談も清野さんがいるおかげで続いている。

小田嶋:そうそう、我々のいうところの上下関係とは違う、まったく別の立ち位置から、いつもナチュラルに説教してきますからね。

:うん。

 何ですか、その説教って。

小田嶋:いや、説教しているじゃないですか、いつも。

ヤナセ:いや、また、僕が途中入りしてすみませんが、説教じゃないですよね。オダジマさんの言葉の使い方が間違っています、すみません。

小田嶋:まとめの文面にも、説教感が出ているもんね。

ヤナセ:あ、せっかく僕が消そうとしたのに。

 しょうがない人たちだな、とは思っていますよ、おほほほ。

全員:……そうだね。

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院・柳瀬研究室にて
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院・柳瀬研究室にて

「人生の諸問題NBO編」は、ここでいったん幕を閉じますが、諸問題チーム一同、またどこかでお目にかかれますことを楽しみにしています。今まで、ご愛読いただき、どうもありがとうございました。

日経ビジネスオンラインきっての長寿コラムとなりました「人生の諸問題」。ここから生まれた単行本は、発売順に『人生2割がちょうどいい』『ガラパゴスでいいじゃない』『いつだって僕たちは途上にいる』と、3冊になりました。同級生のおじさん2人のゆるゆるな会話と、それを容赦なくぶった切る清野お姉さんのやりとり、ぜひ書籍でもお楽しみ下さい。(柳瀬教授、ご協力感謝します。皆様、最後までご愛読ありがとうございました! 担当編集Y)

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