メガネのフレームやハードコンタクトレンズ、CDのケースなどの原料である有機ガラス。一度割れてしまえば、どれだけ力を加えて破断面を合わせても、元の形には戻らない。しかし、そんな常識を覆す技術が登場した。東京大学大学院工学系研究科の相田卓三教授と同研究科の柳沢佑学術支援専門職員らの研究グループが2017年末に開発した世界初の「自己修復ガラス」だ。
割れた有機ガラスの破断面同士を室温で圧着するだけで、ものの20秒で元通りにくっ付く(図1)。加熱も溶融も不要だ。
有機ガラスは、一般的な窓ガラスに使われる無機ガラスとは異なる。アクリル樹脂のような有機化合物で生成した透明な物質だ(図2)。
ゲル状・ゴム状の軟らかい材料であれば、破断面を押し付けておくと融合して再利用が可能になる例は、10年ほど前から報告されていた。ただし、メガネのフレームのように硬い材料が自己修復することはこれまでの常識ではあり得なかった。「硬いという物性と、くっ付くという性能は相反する。科学的には両方を満足させるデザインはないと言われていたが、研究の過程で偶然見つけた」。相田教授はこう振り返る。
自己修復材というと、基本的にはあらかじめ何かの材料を埋め込んでおき、それを修復材として使う手法が一般的だ。コンクリートにカプセルや微生物を入れておくのは「いよいよ市場に、微生物がコンクリートを勝手に修復」でお伝えしたとおり。ところが、相田教授らが開発した自己修復材は、いわゆる “ゲスト”に頼っていない。
「ポリマーそのものの性質を使っているという点が、これまでの自己修復とは大きく違うところだ」。東京大学大学院の柳沢氏はこう指摘する。