ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は40代の夫が末期がんと診断された女性から。別居婚を長く続けてきたことを後悔しています。父と弟をがんで亡くした上田さんは、2人で過ごす時間の大切さを説きます。

悩み:夫が末期がんになり、余命4カ月と診断されました。これまで別居婚でしたが、週末は2人で楽しく過ごしてきました。「なぜ私たちなの?」と怒りもこみ上げてきます。この先、どう過ごすべきか悩んでいます。 日々病と闘い弱っていく夫に対してきちんとケアできる力を下さい。

上田様 いつも拝読し励みにさせて頂いております。是非ご意見をお聞かせください。

2週間前、いきなり夫(48)が末期のすい臓がんと診断されました。余命4カ月、5年生存率1.3%とのことです。5月から腰の痛みが始まり整形外科を受診していました。首のヘルニアがあったのでその延長かな~とばかり本人は思っておりました。腰のMRIをとっても異常なく、湿布と処方箋をひと月飲んでいました。

しかし、6月になってもあまり効果がなく、食欲もめっきりなくなってきため、内科の受診を勧めました。やっと7月に詳細な検査をしました。

結婚して18年、私の事情もありずっと別居結婚という形で生活してきました。週末に会える時はいつも楽しく、会えない分の時間もお互いを思い充実していました。しかしこうなってしまった以上、やはり単身赴任にしておいたからだとか、自分たちが悪いとか、まわりの意見以上に自分を責め、悲しみ途方に暮れました。

なぜ私たちなの? と怒りもこみあげました。日々病と闘い弱っていく夫に対してきちんとケアできる力を下さい、と思う反面、苦しくて正直忘れたい時間も欲しく、まだ自分の会社の上司には夫ががんになったことを告げていません。

最初の病院はたらい回しにされた後、ウチでは治療出来ない、と言われ、今は私の職場近くの病院へ転院しています。今は痛みと不眠で入院していますが、最近では抗がん剤や放射線治療も通院でするそうで、痛みが落ち着けば夫の実家にお世話になると思います。

ただ、実家は認知症の母(81)とそれを許せない厳しい父(82)が居て、はたして安静な治療が出来るのか、というのも心配です。ずっと入院してればいいとも言われます。近所や親せきの手前もあるのでしょうが……。

東京に夫の社宅のマンションがありますが、それも早めに解約を打診されています。ひとつひとつ、と言い聞かせながら混乱と動揺をいつも抱えております。

末期のすい臓がんと言われてもまだ信じられず、諦めておりません。しかし、夫がいなくなった生活を思うと動悸がし、震えます。仕事がなかったら反対に気が狂いそうですが、好き勝手にふるまっている周囲の人たちを見ると、妙に腹立たしくなります。

(54歳 女性 会社員)

1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)

上田 準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):実は、僕の父親も弟も、がんになったんだよね。この方の気持ちをお察しすると、本当に言葉も出ない。

大竹 剛(日経ビジネス 編集):これほどの悩みを上田さん打ち明けてくださっているということは、それだけ思い詰めていらっしゃるのだと思います。上田さんのご経験など少しでもお答えできるようなことがあれば、勇気が湧いてくるかもしれません。

上田:そうだね。

 もちろん、回復することもあるから、希望は捨てちゃダメだよ。だけど、医者の意見も踏まえて、今できることは何かを冷静に考えてみることが大切じゃないかな。

 旦那さんは今、彼女の職場近くの病院に転院したということだよね。

大竹:そうですね。

2人で過ごす時間を大切にする

上田:これまでは仕事の関係で、単身赴任のように週末に会うということが続いてきたようだけど、今は彼女の近くの病院に入っているということは、これまで以上に2人での時間、会う時間を持てるわけだね。それは大変いいことだと思う。

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 僕としては、この先、実家に面倒を見てもらうというのではなく、あなたが近くに寄り添っていられる方法を考えたほうがいいのではないかと思う。あなたも言っているように、旦那さんが実家に戻っても安心して治療を続けられるかどうかわからないという状況なら、残りの人生、年老いた両親のところに行くことは、決して夫にとっていい環境ではないと思う。

 従って、取りうる方法としては、入院を長期にできるように病院側と話をしてみてはどうかな。もし、旦那さんがそれは嫌だということであれば、退院してあなたの家に来てもらったらどうでしょうか。最後の時間をできるだけ多く、一緒に過ごしたらいいと思う。

 週末、旦那さんと一緒に過ごすことが楽しかったと言っているのだから、心は通い合っている、愛し合っているということでしょう。残された時間をできるだけ2人で過ごしてください。

 もし、自宅に連れてくるのが難しいということなら、セラピーなどを受けられる施設に入るということも考えられるかもしれない。ただ、経済的な負担も考えると、やはり退院したら自宅に来てもらう方がいいんじゃないかな。在宅ケアを支援するサービスなどもあるでしょうから、旦那さん、それと病院と相談してみてはどうでしょうか。

 お互い、もう顔も見たくないとか言っているのであればこんなことは勧めないけど、愛し合っているのなら、とにかく2人の時間を大切にしてください。

大竹:在宅でお世話をすることになると、この方は休職なり、長期休暇を取るなりすることが必要ではないでしょうか。

上田:いや、休暇を取る必要ないと思うよ。

大竹:普通に仕事をしながら?

上田:そう。自分の仕事を今まで通りやっていればいいと思う。

 なぜなら、仕事を続けているから、彼女はこういうつらい環境の中でも頑張っていられるわけであって、僕が旦那さんの立場だったら、女房に「お前、普通通りに生活してくれ」と言うだろうな。それで、「ただ、何かのときにちょっとだけヘルプを頼む」と。その方が旦那さんにとっても精神的に落ち着くと思う。「ずっとうちで俺の面倒を見ろ」なんていうことよりも、その方がいいと思うよね。

大竹:通院で治療できるようになるということのようですから、そういう生活もできるのかもしれません。

上田:うん。旦那さん次第だけれども、僕が旦那さんの立場であれば、両親のところへ行くよりは、嫁さんのところがいいと思う。ただし、嫁さんには今までの仕事や生活をそのまま続けてもらうことが、もっと救いになると思う。

「死期」は宿命で決まっている

大竹:ちなみに、上田さんの弟さんは何歳くらいにお亡くなりになったのですか。

上田:弟はこの方の旦那さんと同じぐらいの年齢のときに。

大竹: 40代?

上田:そう。ただ、本人も自覚していたけど、普通通りに仕事に出掛けていたね。

大竹:最期の方までですか。

上田:治療しながらだけどね。父親も最後の最後まで仕事していたな。

 生活態度から考えれば、僕ががんになってもおかしくないのに、なんで家族がなってしまったんだろうと、悩んだこともあった。

大竹:上田さんはたばこも吸っていらっしゃったし、酒も仕事も相当激しかったでしょうから。

上田:そうだね。だけどこう思うようにしたんだ。やっぱり人生、生まれたときにもう、いつ生が終わるというのは決まっているとね。

 いつ終わるのかは、本人も周りも分からないけれども、「死期」、つまり「生と離れる」というのは宿命的に決まっていると。だから、若くして亡くなる方もいるし、100歳以上も生きる方もいる。それは、生まれたときからの宿命であったと理解するしかないんだよ。だからこの方も、旦那さんは生まれたときからそういう宿命であったと、一回割り切って考えてみてください。そして、残りの期間、旦那さんとの時間を大事にするんです。

大竹:とはいえ、受け入れるのがつらいという気持ちもわかります。そう簡単なことではないですよ。

上田:だから、この方も、まだ諦めておりませんと言っているでしょう。この気持ちは大事です。でも、もし医者の言う通りだとしたら、2人の時間を大事にしたほうがいい。宿命だと思うことで、周りの人たちに対する怒りとか、自分の動揺といったものは、少しずつ解消されていくのではないかな。そのためにも、旦那さんと向き合う時間を大事にすることが必要だと思いますよ。

 やっぱり夫婦であったという思い出を作ることは大切だと思う。治療がうまくいって、医者が言うよりも長く余命を全うしたにしても、これまで離れて暮らしてきた時間を埋め合わせする意味でも、一緒にいたほうがいい。別居婚を続けてきたことを少し後悔しているようだけど、その気持ちを埋めるためにもね。

大竹:上田さんのご家族ががんになられたとき、闘病生活はどんな様子でしたか。

上田:好きなようにやらせていたね。特に、あれをやっちゃいかん、これをやっちゃいかん、とは言わなかったよ。

大竹:この方は旦那さんががんであると会社に言っていないようです。

上田:それは言うべきです。そうすれば会社だって、週末だけではなくて、途中で勤務時間に抜けたり、緊急で対応したりする必要があるときにも、周囲は理解してくれると思うからね。

 だから、まずは会社に言って、自宅に引き取るという選択肢を旦那さんや病院と相談してみてください。あなた自身は別居の結婚を続けてきたということで、旦那さんに対して十分に向き合ってこられなかったということを後悔しているのかもしれない。だからこそ、逆に今、それを取り返すんだと考えてください。

 希望は決して捨てず、かつ、旦那さんと2人の時間をこれまで以上に大切にする。それが、あなたにとっても旦那さんにとっても、今一番したいことなのではないでしょうか。

読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。

>>悩みの投稿<<

*この連載は毎週水曜日掲載です。

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