ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は44歳の零細企業の社長から。妻の実家の会社を継いだものの、ノイローゼ気味で潔癖な妻と義父であるワンマン会長の板挟みで心身ともに破綻寸前。上田さんが出した答えは?

今回は、日経ビジネスから女性編集者・日野なおみも参戦。トイレを巡る女性と男性の意識の違いも浮き彫りに。

悩み:嫁の実家の零細企業で5年前から社長をしていますが、業績が低迷し自宅は狭くて古いアパート暮らし。嫁がノイローゼになってしまいました。言葉の暴力を受けることもしばしば。肉体的にも精神的にも疲れてしまいました。

 精密機械製造業の中小企業で代表取締役社長をしています。

 10年ほど前、嫁が長女出産後に軽い育児ノイローゼになり、東北から北信越地方に引っ越して、嫁の実家がやっている零細企業に転職しました。5年前に社長に就任しました。会社の業績は入社時より多少は良くなりましたが、私の力不足もあり、利益がほとんど出ない状況がここ数年続いてしまっております。そのため、未だにマイホームも持てず、狭くて古いアパート暮らしが10年も続いています。

 そうしたことから、嫁が完全にノイローゼ状態になっています。私や娘に対して、怒鳴り散らすなど言葉の暴力をふるうこともしばしばあります。近くの嫁の実家にしばらく行って療養することを提案するも、いつの間にか両親とも不仲となっており、それもせず日に日にノイローゼが酷くなっています。家の中が汚いと言い、除菌スプレーを撒いては拭く、の繰り返しです。洗濯機は一日中回っています。外から家に帰った時や、トイレ(大)の後は必ずシャワーに入らないといけないという状況です。

 そのため、週末も私は家にいることもできず、車などで一日中時間をつぶしています。会社では、現会長(嫁の父)が仕事はしないが、ああでもないこうでもないと言って、私や社員のやる気を奪っています。

 毎朝7時過ぎに家を出て(幸い娘との関係は良く、朝は途中まで娘と一緒に歩いて登校)、嫁の許可が出る23時頃に帰宅。すぐに風呂に入り、晩飯が食べ終わると24時頃。それから嫁の床掃除、シャワーが終わるまで居間で一歩も動かず過ごし、寝るのは25時頃という生活です。社員やその家族の事を考え、何とか会社を立て直そうとしてきましたが、最近肉体的にも精神的にも疲れてしまい、何から手を付ければ良いのかわからなくなっています。アドバイスをいただけませんでしょうか?

(44歳 男性 会社役員)

上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役): 本題に入る前に、女性には、こういう方は多いのかな。

大竹剛(日経ビジネス 編集):こういう方というのは?ノイローゼですか。

上田:いや、そうではくて、トイレ……

大竹:トイレ?

男はトイレ(小)を立ってすべきか、座ってすべきか

1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)

上田:もうね、友人で家のトイレに行くのにビクビクするというのがいるんだよ。うちではできるだけトイレに行かず我慢していると。「何でだ」と聞いたら、基本的に男性は立ってするじゃない?

大竹:「小」のときですよね。

上田:だけど、嫁からしゃがんでしろと言われるらしいんだ。僕なんか立ったまましちゃうんだけど。

大竹:飛び散る可能性もあります。

上田:まあ、それはそうなんだけど、「小」でもしゃがんでしろと言われたうえに、「小」「大」関係なく、用を足すたびに「あなた、トイレを使ったら全部便器の周りから何から掃除してから出てこい」と言われるんだって。もうね、「お前は一軒家なんだから、自分専用のトイレを作れ」とアドバイスしているんだな(笑)。

日野なおみ(日経ビジネス 編集):トイレは、きれいに使わないとダメです。

上田:日野さん、お久しぶり。やっぱり女性はそう思っているの?

日野:男性だって座ってしなきゃ。飛び散るから。

上田:僕らの年代はね、座ってやるなんて信じられないわけよ。

日野:立ってしちゃ絶対ダメです(笑)。ダメダメ。

上田:やっぱりそうなのか。

大竹:若い世代は、男性でもそういう人は増えています。

上田:何か、最近はそんな感じだよね。

大竹:僕もあるときから、家では座るようになりました。一度慣れてしまうと、楽でいいですよ。新聞も雑誌もゆっくり読めますし。

上田:座ってすると、なんか元気が出ないじゃない。何か小さく、ちょろちょろと……。やっぱり、世代が違うのかな。

日野:奥様はたぶん、舌打ちしていると思いますよ。いいかげんにしてほしいと思っているかと。

上田:もちろん、汚さないように気を付けていますよ。

日野:気を付けるとかじゃなくて、女性は男性にトイレでも座ってほしいんです(笑)。飛び散っちゃうから。

上田:だって公衆トイレやオフィスのトイレでは、全部立ってしているじゃない。

日野:拭いてくれるならいいんですけど(笑)。終わった後に全部拭いて、きれいにして出てくれれば。

上田:俺は拭いているぞ。むしろ、女房に文句を言うくらいだ。「お前、いつも俺が拭いているじゃないか。お前もたまに、気が付いたらちゃんと拭け」と。

大竹:上田さんが拭くんですが。

上田:そう。

日野:偉い。

上田:僕は意外とそういうところがあるんですよ。トイレの扉を開けたときに、ちょっとこう汚れているとまず拭くよ。

日野:素晴らしい。すてきですね。

上田:それで、出掛けにひとつ、女房に嫌味を言うの。「おい、お前ね。トイレ拭いたところを見たことないぞ」と。「私はやっているわ」と言い返されるけどね(笑)。

大竹:トイレを巡る男女の確執は大きいですね(笑)。

 さて、そろそろ本題に移りましょう。

「破綻」を避けるために今すぐ別居の決断を

大竹:おそらく、この方の奥さんは、そもそもきれい好きだったのでしょう。それが、さらに拍車が掛かってしまうぐらいのノイローゼになってしまっているようです。

上田:相談の中身からすると、彼を取り巻く環境、すべての方々が負のスパイラルにどんどん入ってしまっているよね。

 嫁さんと実家の関係、夫婦関係、会社との関係、もうどれも負の谷底にどんどん、どんどん行ってしまう。ここで何か、打開策があるかという相談だ。

大竹:ありますか。

上田:これはね、全員でダメな方向に行っちゃっているわけだから、多少痛みを伴うリスクはあるけれども、ここは1回、そういうものを全て断ち切らなきゃいかん。じゃあ、何をもって断ち切るのかと。

 まずは、夫婦関係だ。この夫婦は、もうすでに崩壊状態だから、このままやっていったら、次は破綻状態になるよね。崩壊から破綻。経済的にも、精神的にも、愛情関係も破綻状態になってしまう。

 何か手を打たないといかんということだけど、まず、奥さんにとっては、この人が存在していること自体がノイローゼを悪化させる要因になってしまっているんだよ。どちらが悪いとか、良いとか、そういうことではなくて、とにかく、あなたが奥さんのそばにいることが、奥さんをますますノイローゼにさせている。だから、もう別居するしかない。

大竹:別居ですか。ずいぶん、はっきりしていますね。

上田:娘はこの人に馴染んでいるわけだよね。朝、学校に一緒に行ってあげるということは別居してもできるわけで。もし、あなたが娘も連れて行くことになったら、その苦労も背負わなきゃしょうがない。とにかく、奥さんと一緒にいること自体がもう双方にとってマイナスの部分ばかりで、いいことは1つもない。奥さんのノイローゼがどんどん悪化するだけ。だから、別居するしかない。

 考えてごらん。23時まで帰ってくるなと言われているんでしょう?

大竹:そうですね。

上田:ということは、あなたと一緒にいようなんていう気持ちはないんだよ、この奥さんには。むしろ、あなたがいると、ますます頭がおかしくなるというような感じでしょう。彼女はそう思っているわけだから、まず1回離れること。それくらいしないと、今の地獄のような状態から抜けられない。

 体力的にも、絶対にやっていけない。25時でしょう。寝るのが。

大竹:肉体的にもつらいですね。

上田:7時過ぎに娘を学校に連れていくということになると、6時には起きてなきゃいけない。睡眠時間は、せいぜい4~5時間ですね。こんな生活をこの先、何年も毎日続けられるかと。

 どこかで踏みとどまることを考えるのなら、まずは奥さんとの別居まで覚悟した方がいいでしょう。それは、彼女にとっても、その方がいいのかもしれない。

大竹:長女出産後の育児ノイローゼがずっと続いて、ひどくなってしまったのでしょうね。この方が、奥さんの実家の仕事を継いでいることも、こうした状況から抜け出しにくくしている原因の1つかもしれないです。

上田:社長になったけれども、オーナーである会長さんが仕事もしないであれこれ口を出す。社員も自分も、やる気を失ってしまっていると言っているね。であれば一度、「社長を退任します」と会長さんに言ってはどうかね。

 「会長、もう一度社長をやっていただけませんか」「会長の下では、私はこの会社のトップとして経営をやっていけません」と、はっきり言ってみて下さい。ただし、すぐに辞めるとこの会社はものすごく困るだろうね。

大竹:そうですね。

上田:こういう状況の会社なんだから、「当分の間は、生産本部長なり、営業本部長なり、社長になる前のポジションに戻ってこの会社のお手伝いをします」と。それと同時に、「奥さんと一緒にいるということがお互いもう非常に不幸な状態であるので、お嬢さんを会長のところでもう1回、一緒に住まわせてください」と頼んでみるのもいいかもしれない。不仲になったといったって、こういう状況にまで事態が悪化しているのだから、この会長だって奥さんの父親として、奥さんを引き取ってくれる可能性はある。もちろん、それは分からんけど。

大竹:分からないけれども、とにかく、そういう話をするということですね。

上田:そう。一日中、洗濯機が回っているのは、やはりちょっと異常でしょう。まあ、結構うちも洗濯機は常に回っているけどね(笑)。

早く社長の座を会長に返上しよう

日野:奥様が洗濯好きなんですか。

上田:いや、そういうわけではないよ。どちらかといえば、僕もいろいろやる方だからね。気づいたことは、面倒くさくても自分でやる。

大竹:洗濯物の仕分けをするとか?

上田:洗い物が洗濯機の前にどーんと山積みしてあったら、「お前、洗濯かごに入れておけよ」と言いつつ、洗濯自体はしないけれど、それを僕が全部洗濯機に入れてしまう。女房は「これから分けてから洗濯するんだからいいじゃないの」と女房は言うんだけど、「お前、俺のトイレのことをごちゃごちゃ言うが、洗濯物をちゃんとしろ」とか、そんなことを言いあっているわけよ(笑)。

 まあ、それはともかく、この方の奥さんは潔癖症なんだろうね。だけどこれが、夜中の12時に旦那の食事が終わってから、床掃除をしたりシャワーを浴びたり、しかもそれが終わるまで旦那は寝ることができないんでしょう。疲れてしまうよ。

 だからこれは、一緒にいちゃいけない。彼女にとっても、一緒にいること自体が楽しくないんだから。休みの日には、家にいられないから車で1日、やり過ごしているんでしょう? これなんかははっきり言って、一緒に住むべきじゃないことを示す証しだよ。

 だから彼に言いたいのは、もうこれは、すべての関係者が崩壊から破綻状態に落ち込んでいっている中で、その中心にいるあなた自身がまず決断してその流れを断ち切らなければいけないということです。それが、大前提だ。

大竹:会社はなかなか良くならなくて、マイホームも持てない、ということが書いてありますが、別居にはおカネもかかります。

上田:であれば、思い切って転職を考えるという道もある。

 彼は44歳でしょう、まだまだ若いじゃない。これからの人生の方が長いわけだ。しかも、苦しい会社の経営をしたというキャリアもある。だから、そのキャリアを生かした転職というのも、あると思う。

 いきなり別居も転職もするとなると、周囲も驚くでしょうから、手順をしっかり踏みながら進めていき、最後はもう、完全にこの状況から抜け出すという選択肢もあるでしょう。

大竹:まずは別居をし、次に、社長を退く方向で会長を説得し、そのあと、転職の可能性も探る、ということですね。

 この会長はあれこれ口を出すほど元気なようですから、まだ社長を続けていてもおかしくない。

上田:おそらくこういうオーナー会長というのは、70歳を超えてもギラギラしていると思うよ。

大竹:だからこそ、ああでもない、こうでもないと言うんでしょうね。

上田:そう。だからもう、早く社長の座を会長に引き取ってもらった方がいい。とにかく、いろいろな負の連鎖を断ち切っていかないと、問題は解決しません。そうしないと、これ以上、状況は悪くなるよ。

大竹:放っておいたら、破綻すると。家庭も会社も。

上田:すべての関係者が破綻状態になる。その前に決断をした方がいい。

 娘さんにとってはかわいそうな気もするけれど、今行動を起こさないと、もっとかわいそうな状況になりかねないと思うんです。この方が過労で倒れてしまうとか、奥さんのノイローゼがもっと悪化して変な行動を起こしてしまうとか。

業績の低迷は必ずしもあなたの責任ではない

大竹:奥さんの実家の仕事を継ぐというのは、一般的になかなか難しいものなのでしょうか。

上田:必ずしもそうではないと思うが、そういうケースは、結構多いでしょう。

大竹:大企業でも、自動車会社のスズキの例などは有名ですね。

上田:この方の場合は、自分が社長になってから業績は多少よくなったと言っているでしょう。つまり、そもそも先が見えない会社だった可能性があるわけで、状況が悪いのは、彼が社長になったからではないかもしれない。

 もともと先行きが厳しい会社を継いだということであれば、彼が責任をこれ以上負っていくというのは、考え直した方がいい。倒産したら、膨大な責任を負ってしまう。この方が、それに耐えられるでしょうか。難しいでしょう?

 それなのに、今のような状況をズルズルと続けていてはダメです。

大竹:そうですね。

上田:だから、オーナー会長さんがもう一度、従業員に対しても、会社に対しても責任を果たすというような気持ちになってもらわないといけません。

 会長に話したら、「お前、逃げるのか」と言われるでしょう。だけど、そこは上手に「会社を救えるのは会長だけです」とか何とか言って、「私も当面、お手伝いします」と逃げるわけではないということを理解してもらうよう、なんとか説得しないといけない。

 いずれにしても今の状況でただ突っ立っていると、どんどん、どんどん状況は最悪の状況に進んでいくよ。だから、決断してください。

 本当は「逃げろ」とでもアドバイスをしたいところなんですよ。だけど、家族や従業員に対する責任はある。だから、覚悟をもって、順序立ててしっかり、今の状況から抜け出す決断をしていってください。

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