米朝首脳会談開催に暗雲が漂い始めてきた(写真/AP/アフロ)
米朝首脳会談開催に暗雲が漂い始めてきた(写真/AP/アフロ)

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 6月12日に予定される米朝首脳会談。本当に実施されるのか、疑問視する向きが増える。

核放棄を強要するな

5月16日、北朝鮮が米朝首脳会談を開かない、と言い出しました。

鈴置:北朝鮮は「米国が一方的に核放棄を強要するなら、首脳会談は再検討するしかない」との金桂官(キム・ゲグァン)第1外務次官名義の談話を発表しました。

 北朝鮮の対外宣伝サイト「わが民族同士」の「朝鮮外務省第1次官が談話を発表
」(5月17日、日本語版)で全文を読めます。

 なお同じ5月16日未明に、北朝鮮は同日に予定されていた南北閣僚級会談もキャンセルしました。5月11日から始まっていた米韓合同の空軍演習「マックス・サンダー(Max Thunder)」が自分に圧迫を加えているとの理由をあげました。

 これを通告したのが朝鮮中央通信の「朝鮮中央通信社が朝鮮に反対する大規模の連合空中訓練を行った米国と南朝鮮当局を糾弾」(5月17日、日本語版)という記事です。

 記事の最後には「米国も、南朝鮮当局と共に繰り広げている挑発的な軍事的騒動の局面について考えて、日程に上っている朝米首脳の対面の運命について熟考すべきである」とのくだりがあります。

 「こっちは本気だ。南北閣僚級会談もドタキャンした。米朝首脳会談だってやめたっていいのだ」と、この記事を通じても米国に肩をそびやかして見せたのです。

電光石火で非核化

「一方的に核放棄を強要」とは?

鈴置先ほど引用した記事からその部分を拾います。

・ボルトン(John Bolton)をはじめホワイトハウスと国務省の高官らは「先核放棄、後補償」方式を流しながら、いわゆるリビア核放棄方式だの、「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」だの、「核、ミサイル、生物・化学兵器の完全廃棄」だのという主張をはばかることなくしている。

 2003年12月、サダム・フセインの逮捕を見てショックを受けたカダフィ大佐は米英の情報機関に核放棄を通告しました。すると両国は直ちにリビアに査察チームを送りこみ、電光石火の早業で核施設を国外に持ち出しました。ミサイルや化学兵器に関しても同様です(「米朝首脳会談は本当に開かれるのか」参照)。

 ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はこうしたやり方――リビア方式を北朝鮮でも実施させると宣言しています(「『米韓同盟破棄カード』を切ったトランプ」参照)。

 一方、北朝鮮は「段階的な解決」を主張しています。譲歩するかに見せて見返りをかちとり、最後はうやむやにしてしまう、これまでの成功を再現したいのです。

●非核化の約束を5度も破った北朝鮮
▼1度目=韓国との約束▼
・1991年12月31日南北非核化共同宣言に合意。南北朝鮮は核兵器の製造・保有・使用の禁止、核燃料再処理施設・ウラン濃縮施設の非保有、非核化を検証するための相互査察を約束
→・1993年3月12日北朝鮮、核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言
▼2度目=米国との約束▼
・1994年10月21日米朝枠組み合意。北朝鮮は原子炉の稼働と新設を中断し、NPTに残留すると約束。見返りは年間50万トンの重油供給と、軽水炉型原子炉2基の供与
→・2002年10月4日ウラニウム濃縮疑惑を追及した米国に対し、北朝鮮は「我々には核開発の資格がある」と発言
→・2003年1月10日NPTからの脱退を再度宣言
▼3度目=6カ国協議での約束▼
・2005年9月19日6カ国協議が初の共同声明。北朝鮮は非核化、NPTと国際原子力機関(IAEA)の保証措置への早期復帰を約束。見返りは米国が朝鮮半島に核を持たず、北朝鮮を攻撃しないとの確認
→・2006年10月9日北朝鮮、1回目の核実験実施
▼4度目=6カ国協議での約束▼
・2007年2月13日6カ国協議、共同声明採択。北朝鮮は60日以内に核施設の停止・封印を実施しIAEAの査察を受け入れたうえ、施設を無力化すると約束。見返りは重油の供給や、米国や日本の国交正常化協議開始
・2008年6月26日米国、北朝鮮のテロ支援国家の指定解除を決定
・2008年6月27日北朝鮮、寧辺の原子炉の冷却塔を爆破
→・2009年4月14日北朝鮮、核兵器開発の再開と6カ国協議からの離脱を宣言
→・2009年5月25日北朝鮮、2回目の核実験
▼5度目=米国との約束▼
・2012年2月29日米朝が核凍結で合意。北朝鮮は核とICBMの実験、ウラン濃縮の一時停止、IAEAの査察受け入れを約束。見返りは米国による食糧援助
→・2012年4月13日北朝鮮、人工衛星打ち上げと称し長距離弾道弾を試射
→・2013年2月12日北朝鮮、3回目の核実験

目の上のたんこぶ

北朝鮮にとって、ボルトン氏は目の上のたんこぶですね。

鈴置:だから、北朝鮮はトランプ(Donald Trump)大統領に対し「ボルトンを外せ」「外さないと、対話は進展しないぞ」とも威嚇しました。金桂官次官の談話はこう続きます。

・われわれは、すでにボルトンがどんな者であるかを明白にしたことがあり、今も彼に対する拒否感を隠さない。
・トランプ行政府がこれまで朝米対話が行われるたびにボルトンのような者のため紆余曲折を経なければならなかった過去史を忘却して、リビア核放棄方式だの何のと言う、えせ「憂国の士」の言葉に従うなら今後、朝米首脳会談をはじめ全般的な朝米関係の展望がどうなるかということは火を見るより明らかである。

トランプ大統領はどう答えましたか?

鈴置:「非核化に応じれば、体制は保証する」と頭をなでました。一方で「首脳会談に応じないと強硬策――空爆という意味でしょうが――に出るぞ」と脅しました。

 5月17日のホワイトハウスでの会見で「ボルトン氏が主張するリビア方式が北朝鮮を怒らせたが」との質問が出ました。トランプ大統領は「北朝鮮にリビア方式を当てはめるつもりは全くない」と答えました。

・the Libyan model isn’t a model that we have at all, when we’re thinking of North Korea.

 そして、「米国はリビアを滅ぼした」「カダフィ体制を維持するとの取引はなかった」などと付け加えたのです。

・In Libya, we decimated that country. That country was decimated. There was no deal to keep Qaddafi. The Libyan model that was mentioned was a much different deal.

2011年のリビア方式

話が変ですね。

鈴置:その通り、話がずれているのです。2003年、米国はリビアを攻撃しなかったし、滅ぼしもしなかった。では、大統領の言及した「リビア方式」とはいったい何なのでしょうか。

 CNNの「President Trump dismisses "Libyan model" on North Korea」は、トランプ大統領が語ったのは「2011年のリビア方式」のようだと解説しました。

 中東で独裁打倒運動が盛り上がった「アラブの春」――。2011年にはリビアでもカダフィ政権が転覆しました。当初は内戦でしたが、途中から米英仏などが「反政府派への弾圧」を理由に、政府軍を空爆するなど軍事介入しました。

・But while Bolton was referring to the dismantling of Libya's weapons of mass destruction program, Trump appeared to refer to the "Libyan model" as the subsequent military intervention in Libya years later that removed Moammar Gadhafi from power.

 トランプ大統領は金桂官談話が「2003年のリビア方式」を持ち出したのを利用して、独裁者カダフィが殺された「2011年のリビア方式」に話を振った。そして、対話に応じず滅ぼされたカダフィになりたいか、と脅し返したのです。

 単に勘違いしただけだったかもしれませんが、結果は同じことです。

 「リビア」という単語を使ってトランプ大統領の真意を説明すれば「2003年のリビア方式を拒否するのなら、2011年のリビア方式を適用するぞ」ということになります。

トランプ大統領は譲歩したわけではないのですね。

鈴置:もちろんです。譲歩したとの誤解が広まったのは、2つの「リビア方式」をごっちゃにした記事が流れたからです。

 例えば、AFPの5月18日の日本語版の記事の見出しは「トランプ氏、北朝鮮非核化の『リビア方式』否定」でした。

 「リビア方式否定」との見出しを付けるのなら「トランプ氏、空爆を実施した『2011年のリビア方式』を否定」とすべきだったのです。

 この記事の更新された本文では、2011年のリビアの状況にも触れていますが、トランプ大統領の「リビア方式」がそれを指すとははっきり書いてない。そこで編集者は「非核化のリビア方式」との見出しを付けたままにしたのでしょう。

猫なで声と棍棒

「一方的な核放棄には応じない」と言い出した北朝鮮に対し「だったら空爆するぞ」と言い返した……。

鈴置:ただ、トランプ大統領は棍棒を見せるだけではなく、猫なで声でささやきもしました。以下です。

・ The Libyan model that was mentioned was a much different deal. This would be with Kim Jong-un ─ something where he’d be there, he’d be in his country, he’d be running his country.
・His country would be very rich. His people are tremendously industrious.

 「言及された(2011年の)リビア方式は、取引とはほど遠いものだった。一方、金正恩氏には取引を持ちかけている。それに応じれば彼は国に留まり、国を統べ続けることになる」と誘ったのです。

 金正恩氏に体制存続の保証を与えた――所領を安堵したのです。加えて「国は豊かになる。北朝鮮の国民は勤勉だ」とニンジンも提示しました。

猫なで声というか、脅しと言うか……。

鈴置:猫なで声を使うからこそ、棍棒に凄味が出るのです。さらにトランプ大統領は、カダフィやイラクのサダム・フセインになりたいのかと金正恩委員長を問い詰めました。

・We never said to Qaddafi, “Oh, we’re going to give you protection. We’re going give you military strength. We’re going to give you all of these things.” We went in and decimated him. And we did the same thing with Iraq.

 我々はカダフィには「保護を与えるし、軍事的な強みも渡す。何でもだ」などと言わなかった。我々は彼を滅ぼした。同じことはイラクでもやった――。これを聞いた金正恩委員長は震えあがったことでしょう。

米朝同盟はあり得るか

核放棄の見返りとして示した「軍事的な強み」とは?

鈴置:会見に出た記者は「在韓米軍の削減」を指すと考えたようです。「Reduce U.S. troop level is a possibility in South Korea?」と聞いています。

 大統領はそれに対し「今は明かせないが十分な保護だ」「かつてない取引だぞ」などと、思わせぶりな回答をしています。

・Well, I’m not going to talk about that. We’re going to say that he will have very adequate protection, and we’ll see how it all turns out. I think this: The best thing he could ever do is to make a deal.

 トランプ大統領は「朝鮮半島すべての非核化」つまり「米韓同盟の廃棄」の可能性を示唆するようになりました(「『米韓同盟廃棄カード』を切ったトランプ」参照)。

 「核を捨てたら、米韓同盟を廃棄してもいい」とまで持ちかけている可能性が高い。北朝鮮に対するこれ以上の保護はないのです。

 もちろん、米朝が同盟を結ぶという手もありますが、それはさすがに中国が許さない。一方、米国内からも強い反対が起きるでしょう。北朝鮮は名うての人権蹂躙国家だからです。トランプ大統領自身も2017年11月8日の韓国国会演説で、金正恩政権の悪行の数々を列挙しています。

■トランプ大統領の韓国国会演説(2017年11月8日)のポイント(1)

北朝鮮の人権侵害を具体的に訴え

  • 10万人の北朝鮮人が強制収容所で強制労働させられており、そこでは拷問、飢餓、強姦、殺人が日常だ
  • 反逆罪とされた人の孫は9歳の時から10年間、刑務所に入れられている
  • 金正恩の過去の事績のたった1つを思い出せなかった学生は学校で殴られた
  • 外国人を誘拐し、北朝鮮のスパイに外国語を教えさせた
  • 神に祈ったり、宗教書を持つクリスチャンら宗教者は拘束、拷問され、しばしば処刑されている
  • 外国人との間の子供を妊娠した北朝鮮女性は堕胎を強要されるか、あるいは生んだ赤ん坊は殺されている。中国人男性が父親の赤ん坊を取り上げられたある女性は「民族的に不純だから生かす価値がない」と言われた

北朝鮮の国際的な無法ぶりを例示

  • 米艦「プエブロ」の乗員を拿捕し、拷問(1968年1月)
  • 米軍のヘリコプターを繰り返し撃墜(場所は軍事境界線付近)
  • 米偵察機(EC121)を撃墜、31人の軍人を殺害(1969年4月)
  • 韓国を何度も襲撃し指導者の暗殺を図った(朴正煕大統領の暗殺を狙った青瓦台襲撃未遂事件は1968年1月)
  • 韓国の艦船を攻撃した(哨戒艦「天安」撃沈事件は2010年3月)
  • 米国人青年、ワームビア氏を拷問(同氏は2016年1月2日、北朝鮮出国の際に逮捕。2017年6月に昏睡状態で解放されたが、オハイオに帰郷して6日後に死亡)

「金正恩カルト体制」への批判

  • 北朝鮮は狂信的なカルト集団に支配された国である。この軍事的なカルト集団の中核には、朝鮮半島を支配し韓国人を奴隷として扱う家父長的な保護者として指導者が統治することが宿命、との狂った信念がある

「人間のくず」が語る真実

結局、北朝鮮は取引に応じるのでしょうか。

鈴置:北は核を簡単には手放せない。金正恩委員長にとって核は権力の基盤です。手放せば権力も維持できないと考えているはずです。

 2016年、北朝鮮から韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)という外交官がいます。駐英大使館公使でした。2018年5月16日、ソウルの国会議員会館で講演し、以下のように語りました。

 ハンギョレ新聞の「『人間ゴミ』…北朝鮮がテ・ヨンホ元公使を猛非難した理由は?」(5月17日、日本語版)から発言を引きます。

・北朝鮮が要求する「体制安全保障」は結局、金日成(キム・イルソン)家門の世襲統治が永遠に存在できるようにすることだ。
・核廃棄の過程が北朝鮮の絶対権力構造を崩す過程につながることは絶対に受け入れられない。(真の核廃棄のような)そんな奇跡は起こらないだろう。

 韓国では、南北閣僚級会談のドタキャンはこの発言も関係したとの見方があります。先ほど引用したハンギョレの記事もそう書いています。

 確かに「朝鮮中央通信社が朝鮮に反対する大規模の連合空中訓練を行った米国と南朝鮮当局を糾弾」は、名前をあげませんでしたが、太永浩元公使を「人間のくず」と決めつけ、韓国政府を非難しています。

・天下にまたといない人間のくずまで「国会」に立たせてわれわれの最高の尊厳と体制を謗り、板門店宣言を誹謗、中傷する行為を公然と強行するように放置している。

「金正恩除去」で困る国はない

図星を突かれると、狼狽して怒るものです。

鈴置:体制維持のためには核はなかなか手放せない――。それはトランプ大統領もよく分かっている。だからこそ「お前を殺すことに躊躇しないぞ。核を握りしめて死ぬつもりか」と脅すわけです。

殺されることへの恐怖から、核放棄を受け入れませんか。

鈴置:それが一番、平和的な解決法です。ただ、「殺されない」選択を選ぶにしろ、金正恩委員長には問題が残ります。

 核を放棄したら本当に、米国が「保護」してくれるのでしょうか。トランプ大統領が約束を守る保証はどこにもないのです。

 イラン核合意だって、国益に反すると判断したトランプ政権は世界の反対を押し切って離脱しました。米朝首脳会談を準備する最中のことでした(「北朝鮮の非核化を巡る動き」参照)。

 北朝鮮は人権蹂躙国家だし、約束を破り続けている。米国がそんな北朝鮮を攻め滅ぼしても、非難する国はないでしょう。抑圧されている北朝鮮の人々も大喜びします。

自業自得です。

鈴置:困るのは、金正恩政権とスクラムを組んでいるつもりの――北朝鮮から見れば「使い走り」の文在寅政権だけ。あとは韓国や日本、米国の北朝鮮支持グループぐらい。

●北朝鮮の非核化を巡る動き(2018年)
1月1日金正恩「平昌五輪に参加する」
1月4日米韓、合同軍事演習の延期決定
2月8日北朝鮮、建軍節の軍事パレード
2月9日北朝鮮、平昌五輪に選手団派遣
3月5日韓国、南北首脳会談開催を発表
3月8日トランプ、米朝首脳会談を受諾
3月25―28日金正恩訪中、習近平と会談
4月1日頃ポンペオ訪朝、金正恩と会談
4月17―18日日米首脳会談
4月21日北朝鮮、核・ミサイル実験の中断と核実験場廃棄を表明
4月27日南北首脳会談
5月4日日中と中韓で首脳の電話協議
5月7-8日金正恩、大連で習近平と会談
5月8日米中首脳、電話協議
  トランプ、イラン核合意から離脱を表明
5月9日ポンペオ訪朝、抑留中の3人の米国人を連れ戻す
  日中韓首脳会談
  米韓首脳、電話協議
5月10日日米首脳、電話協議
5月16日北朝鮮、開催当日になって南北閣僚級会談の中止を通告
5月16日北朝鮮、「一方的に核廃棄要求なら朝米首脳会談を再考」との談話を発表
5月20日米韓首脳、電話協議(米東部時間では5月19日)
5月22日米韓首脳会談
5月23~25日北朝鮮、米韓などのメディアの前で核実験場を破壊
6月8-9日G7首脳会議、カナダで
6月12日史上初の米朝首脳会談、シンガポールで
「米朝」の後、日米中南北の間で2カ国首脳会談か

習近平に60度のお辞儀

米国による所領安堵の保証人に、中国はなれないのですか?

鈴置:金正恩氏もそれに期待して、40日の間に2度も訪中したのでしょう。3月の訪中時には習近平主席の発言にメモをとって見せるなど恭順の意を示しました。

 5月の訪中では、同行した妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長が習近平主席と握手した際、60度ほど腰を曲げてお辞儀をしました。4月27日の南北首脳会談の際、文在寅大統領と握手した金与正氏は頭を全く下げなかったというのに。

 中央日報の「文大統領と直立で握手した金与正氏、習近平主席に腰曲げてあいさつした理由」(5月13日、日本語版)は頭の下げ方が完全に異なる2枚の写真を並べて載せました。金正恩一家はなりふり構わず、中国に保証人になってくれるよう土下座したのです。

効果はあるでしょうか?

鈴置:ないと思います。北朝鮮は自分が困った時はヘコヘコと頼んできますが、状況が変わるとすぐに掌を返します。そんな国を信用するほど中国はお人好しではありません。

 それに、中国には金正恩体制を支える積極的な理由がないのです。今は、米国が怒り出して空爆に踏み切らないよう「後ろ盾になるから米国との首脳会談に臨め」と金正恩氏の頭をなでている。

 でも、北朝鮮が核を放棄した後は「金正恩体制存続」のメリットは中国にない。強権的で常に不安定さをはらむこの政権よりも、もっと自分の言うことを聞く政権を押し立てたいと願うでしょう。

 もし米国が金正恩体制の打倒に乗り出せば、そのどさくさにまぎれて中国が朝鮮半島での影響力拡大に動く可能性が極めて高い(「しょせんは米中の掌で踊る南北朝鮮」)。

誰もが五里霧中

その中国の本心を北朝鮮も分かっている?

鈴置:もちろんです。だから金正恩氏は米朝首脳会談に容易には踏み切れない。これまで北朝鮮は「核をやめる」と周辺国を騙しては、援助を取り付けてきた。

 今度もそのつもりだったのでしょうが、「何をするか分からない」トランプ大統領が相手ではそうはいかないことにようやく気が付いた。下手に交渉すれば、我が身を滅ぼしかねないのです。

 会談まで1カ月を切る5月16日になって「首脳会談などしなくたっていい」と言い出したことからも、北朝鮮の困惑ぶりがうかがえます。

 トランプ大統領も5月17日の会見で「何が起こるか見守ろう(we’ll see what happens. )」と述べています。誰しもが五里霧中なのです。

次回に続く)

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