「原発ゼロ」は可能なのか。再稼働が続く中で、原子力発電所は日本からなくなることはないのか。政策にも強い影響力を持つエネルギーの権威、橘川武郎・東京理科大学大学院教授に聞いた。「政も官も正面から原子力問題に取り組んでいない」。原発の危険度を下げる「ノーベル賞級」の研究を進めなければいけないが、それが頓挫すれば2050年に原発ゼロを目指す――。そんな“超現実シナリオ”を披露する。

<span class="fontBold">橘川武郎(きっかわ・たけお)氏 </span><br />東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。1951年和歌山県生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授などを経て、2015年より現職。専門は日本経営史、エネルギー産業論。著書に『石油産業の真実』『電力改革』など。
橘川武郎(きっかわ・たけお)氏
東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。1951年和歌山県生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授などを経て、2015年より現職。専門は日本経営史、エネルギー産業論。著書に『石油産業の真実』『電力改革』など。

3・11から7年、原発の将来像が見えません。

橘川:エネルギーの今を見ると、非常に不思議なことが起きています。システム改革は3・11以前では考えられないほど進みました。電力と都市ガスが自由化になり、法的分離までいくことになりました。

 一方で、進んでないのが原子力政策です。7年たっても何も変わっていない。規制委員会はできたけど、それは安全行政の話であって、肝心の原子力政策は混迷している。

誰も原発をまじめに考えてない

 システム改革は進んだが、原子力政策は止まったまま。このアンバランスをどう読み解くかがカギです。この答えを言うと嫌われるんだけど……。

そこを、ぜひ教えて下さい。

橘川:要するに、政治家や官僚が「叩かれる側」でなくて、「叩く側」に回っていて、そのポジションを取り続けていることが問題だと思います。

つまり、責任を取っていない、と。

橘川:(原発は)民営でもあり、また国営でもある。つまり、「国策民営方式」でやってきたわけです。だから、福島の事故で、まず東電(東京電力)が土下座に行くのは当たり前です。だけど、国策だったわけだから政治家も官僚も行って土下座しなきゃいけないんですよ、本当は。だけど、それが嫌だから、そこで巧妙に論点をすり替えるために、「自分たちは叩かれる側じゃなくて、叩く側なんですよ」というポーズを取り続けた7年だと思うんです。

 東電を法的処理しないで生き残らせたのは、そういう政治的意図があったと僕は思っています。悪者がいないと叩けませんから。

なるほど。東電がいないと困るわけですね。

橘川:もろに、自分たちが批判の対象になっちゃう。だから東電を残した。東電だけだと悪者が持たなくなったから、電力業界全体を悪者にしてシステム改革をやった。それでも厳しくなったら、今度は都市ガス業界まで悪者の方に回して、「自分たちは叩いているぞ」「国民の味方なんだぞ」というポーズを取り続けてきた。そうすると票になるわけですよ。

選挙で有利になると。

橘川:逆に、原子力でまともな政策を打とうとすると、票が増えないどころか、むしろ減っちゃう可能性があるので、逃げ回っている。そして先延ばしを続けているのが本質です。叩く側に回ることばかりを政官が考えている。だから、すごく事は深刻で、誰もエネルギー政策をまじめに考えてないんです。

その方が自分たちにとって得策だと。

橘川:目先の票ですから、政治家は3年先ぐらいまでしか考えてない。エネ庁(資源エネルギー庁)の連中はもう少し長期で考えたいんですが、森友問題でも明らかなように、官邸に逆らえませんから。端的に言うと日下部(聡・資源エネルギー庁長官)氏、嶋田(隆・経済産業省事務次官)氏より、今井(尚哉・首相秘書官)氏の方が力を持っているんですよ、(経産省の)同期だけど。

 例えば原子力政策は、(原発を)使い続けるならば、危険性最小化のために新しい原子炉がいいに決まっています。だから、リプレース(建て替え)と言わないのは無責任だと思うんですね。(原発)依存度は下げるべきだと思っていますけど、リプレースは言うべきだと思うんですが、それを絶対言わないんですよ。

リプレースとは、今の原発を潰して、その場所に新しい原子炉を作るという意味ですね。

橘川:その通りです。原発の新規立地なんて、ありえませんから。

「使い続けるなら、新しい設備で」ということをエネ庁や経産省が言えないということですね。

橘川:エネ庁は言いたかったけど、官邸に言えないようにされている。

そんなことを言うと……。

橘川:次のポストがないよと。だから政治家は次の選挙、官僚は次のポストを考えて、数年先しか考えない。自分の任期中は、無難に原子力問題を先送りしていこうというのがずっと続いているんですよ。そこが問題の本質だと思います。

原発の建て替えは、使い続けるなら急務ということですね。

橘川:使い続けるならば、原発依存度を何パーセントにするにしろ、早くリプレースすべきです。原発は、基本的に危険なものなんです。その危険性最小化のためには、新しい原子炉にした方がいいに決まっている。これは脱原発派も認めるロジックです。

 ところが日本の原子炉は今、加圧水型(PWR)18基のうち、1基も最新鋭の設備がないんです。古いのばっかり。(次世代型の)AP1000もなければ、APWR(改良型加圧類型軽水炉)もない。沸騰水型(BWR)が22基あって、4基が最新鋭のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)です。しかし、今はPWRばかり動いていて、古いのばっかりなんですよ。

 建て替えの話がない原子力政策なんてありえないと思う。逆に言うと、古いものは40年に達しなくてもガンガンたたんでいくべきです。それで、原発依存度は政府が2030年に20~22%だというが、私は多くても15%ぐらいだと思っています。

原発依存度が政府の想定以上に下がる。

橘川:依存度を下げながらリプレースするというのが、僕は責任ある原子力政策だと思う。

 そもそも、バックエンド(発電後の処分)は「もんじゅ」の代わりをどうするのか。それはオンサイト(発電現場)中間貯蔵で時間を稼いで、やっぱり高速炉技術を使って核種変換(他の種類の原子核への転換)に取り組まざるを得ないと思うんです。核種変換で(半減期を短縮して)危険な期間を短くしないと、最終処分場なんて見つからない。

 オンサイト中間貯蔵をやっている間は、地元に保管料を払うことを考えなければいけないと思うんだけど、このような原子力政策が何も語られていない。議席とポストを守ることばっかり考えている。

現実を見て見ぬふりをしている。

ベクトルは再稼働ではなく、廃炉

橘川:3・11の時、原発は54基あったんです。そして、3基が建設中だった。だから、57基だったんですね。それが、現状どうなっているか。稼働しているのが、伊方3号機も入れて7基です。それから、規制委員会の許可を得ているけど、動いていないのが7基ある。申請しているけど許可が出てないのが12基。いまだに申請さえしてないのが17基で、この多くは廃炉になるでしょう。そして、すでに廃炉が決まったのが14基あります。

 政府は「7基が再稼働」としか言わないことで、再稼働していくベクトルを強調するんだけど、どっちかというと着実に廃炉に向かっているというのが客観的な見方なんですよ。

申請していない原発と、すでに廃炉が決定した原発を足すと31基ですからね。

橘川:申請している12基からも、活断層などの問題でいくつかは廃炉になると思うし、さらに言っちゃうと、(許可を得ながら動いていない)7基の中で、高浜1、2号機は追加投資2500億円をして再稼働しても、(動かせる)期間が短いから採算が取れるかどうか、かなりクエスチョンです。柏崎刈羽6、7号機は(新潟)県知事の反対があって、動く見通しが立っていない。

 今のところ廃炉は14基ですが、2030年には25基ほどになっていそうで、もしかすると30基をうかがう勢いかもしれない。そうなれば、政府が言った(原発比率)20~22%なんて動くはずがない。

なぜ、こんなでたらめな数字を言い張るのでしょう。

橘川:原発政策に戦略がないし、司令塔もいないということですよ。

2030年までに、政と官が真剣にエネルギー政策に取り組むシナリオというのは?

橘川:きわめて難しい。というのは2012年12月から今日までが、唯一のチャンスだったわけです。「安倍1強」だったから。これ以上の強い政権は、たぶん出てこない。

森友問題もあって安倍政権が揺らいでいるから、これまで強かった時にやるべきだったと。

橘川:原子力を正面から議論する絶好のチャンスだった。憲法改正まで議論しようというほどの政治状況なんだから。だけど、このチャンスを事実上逃してしまった。だから原子力問題って混迷するだけだと思いますよ。

橘川さんは、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会のメンバーですが。

橘川:これは変な会議で、電源ミックスを見直すための審議会なんですよ、建前は。だけど、去年8月に集められた時に、世耕(弘成)経産大臣が出てきて、「見直しません(変える段階にはない)」といきなり結論を言っている。「何のために僕らは集められたんですか」と思わず聞き返した。まあ、その時には世耕さんはもう席にいなかったけど。

与党は原発推進の立場ですが、原子力政策を動かせそうな人はいますか?

橘川:まあ、いないんじゃないですか、自民党の中には。やっぱり怖いんですよ。そんなことを言うと議席を失う可能性もあるから。要するに国を思っている人がいないんです。

河野(太郎)さんは?

橘川:一番詳しいのは河野さんぐらいです。ただ、この人は、どちらかというと原発ゼロの人なんだけど。

いずれにしても、エネルギー政策を正面から取り組む政治家が必要ですね。

橘川:そうですね。僕、河野さんは「即時ゼロ」ではないと思います。バックエンド反対派だと思っていますけど、この河野さんよりも(エネルギーに)詳しい自民党議員がいないんですよ。だから、どうにもならない。

河野さんも最近はエネルギーを語らない。

橘川:河野さんは飯田哲也氏とか菅(直人元首相)さんのブレーンを集めて、まあ僕の友達が多いんですけど、それで再生可能エネルギーのことをやりだした。あれは、自民党に対する批判が高まった時に、自民党内で「野党は嫌だな」というのを(結集することを)狙っているんだと思いますけどね。河野さんが語っている中で、原子力問題が一番シャープだったし、それも政治の論理だと思いますけど。

政治の論理があってもいいので、正面から議論してほしい。

橘川:まあ、対案が出てこないんですよ。反対派は、問題点の指摘は正しい。端的なのは小泉シニア(純一郎元首相)です。「トイレのないマンション(核のゴミ問題)」は最高の問題提起です。まったくその通り、よくぞ気付いてくれました。だけど、彼の結論は「原発即時ゼロ」。これ、答えになってないんです。

 だって即時ゼロでも、1万7000トンも使用済み核燃料があるんですよ。小泉さんは5年5カ月も政権を維持して、当時動いていた原発の数を数えたら、日本で一番、使用済み核燃料を作った総理大臣なんです。その人が、後で気付いたことはいいんです。ならば、どうトイレを作るのか、それが政策です。

 具体的なやり方は、僕は3つあると思っている。

どう核のゴミ問題を解決するんでしょうか。

橘川:1つは根本的な解決策である「核種変換」です。今はプルトニウムの半減期が2万年ぐらいですが、この危ない期間を短くする。最終処分場として国があの地図(候補地)を出したけど、みんな海岸線を(候補地として)塗っているんですよね。だけど1万〜2万年前の日本列島の地図を見ると、海岸線がまったく違うんですよ。

「ノーベル賞5つ」級の研究が必要

2万年も、同じ海岸線の場所に埋めることはできないわけですね。

橘川:つまり、推進派の言う通り地層処分が安全だとしても、地表がなくなっちゃう可能性があるんです。そんな万年単位の危ない状態では、最終処分場は絶対見つからないと思います。それを数百年単位に、危ない期間を短くする技術が確立されれば、捨てる場所も見つかります。

 その突破口が、もんじゅでやっていた高速炉技術だったんです。危ない期間を短くする「毒性低減」として使うと明記していたのに、政治的な理由で廃止しちゃった。

 では、どうやって高速炉技術から核種変換の技術に持っていくのかというのが、まず一番の(政策の)柱だと思います。フランスのASTRID(アストリッド:高速炉)を使うとかいうけど、これもどんどん(計画が)延びていますから、やっぱり自国のゴミは自国で処分できないといけない。そのための核種変換の具体的なシナリオを立てるというのがまず1つですね。ただ、これにはノーベル賞5つぐらいの価値がある。つまり人類全体の価値になる。

かなり難易度が高い研究になりますね。

橘川:だから時間がかかるんですね。そのために2つめの方策は「オンサイト中間貯蔵」です。(核のゴミを)プールに入れておくと、エネルギーを追加しないと冷えないので、そのために(震災時に)水素爆発しちゃった。(発電に)使った直後は水じゃないと冷えないが、ある程度冷えたら空冷式のキャスク(容器)に入れて追加エネルギーなしで冷やしていく。むつの中間貯蔵もこの方式ですし、これをやるしかないと思うんです。

この中間貯蔵を原発と違う立地でやってほしいという声もあります。

橘川:これは僕、現実性がないと思います。実際、スウェーデンやフィンランドの最終処理場(オンカロなど)もオンサイトなんですよ。しかも離島です。

そうだとすると、日本の核のゴミ処分はかなり厳しい局面を迎えますね。

橘川:日本では原発をつくる時に、「ここは発電に使うけど、核のゴミを捨てる所には使わない」とか約束して建てているから、これからも問題になるんです。でも、そこはやっぱりオンサイト中間貯蔵しかないと思うんです。だから、3つめは、その中間貯蔵をしてくれた所に対して、東京や大阪の人は保管料を払う。

 この3点セットで小泉さんが言う「トイレのないマンション」問題を解決していくぐらいしかないと思うんですよ。こういう話が全然出てこない。

これが実現すれば、原発の今後が見えてきます。

橘川:僕は「中間派」と非難され、推進派と反対派の両方から叩かれている。3・11後の討論番組では、当時は民主党政権だったから、推進派の側に座らされていた。でも、自民党政権になったら、同じことを言っているのに反対派の方に座らされているんです。

 僕はどう解決策を言うのかが一番大事だと思っていて、原発依存度を下げてリプレースしていくしかないし、(危険期間を大幅短縮する)核種変換がうまくいかなければ、もう原発はやめるしかないんです。ただ、今の時点で「やめる」と決め打ちをするのは早いと思います。だから「2050年原発ゼロ」というのは、すごく「あり得る話」だと僕は思っているんですけど。

30数年後にゼロですね。

橘川:今は決める時じゃなくて、たたむこと(原発ゼロ)もあるよと。それで「リアルでポジティブなたたみ方」と言っているんですけれども。

まずは、核種変換の技術が進むかどうか見極める。

橘川:そうです。

進まなかったら、もう2050年ぐらいにゼロにするしかない。

橘川:たたみ方も考えなきゃ。

核種変換がうまく成功していけば。

橘川:(原発を)続ける。

いずれにしても、2030年に原発依存度を15%以下に落として、稼働させるものはリプレースして安全性を高めていく。

橘川:そうです、リプレースです。それで、あんまり原発依存度は上げてはいけないと思います。あれは「打ち出の小槌」みたいなもので、儲かっちゃうんですよ、既存の原発が動くと。新設は結構高くなったから(採算が)厳しいところがあるんだけど、既存のは儲かるから、どんどん依存度が上がっちゃう。

 ところが、これがやばくて、何かあったらすぐ止まるわけです。原発ほど、競争力があるけども不安定な電源はないんです。だって他社や他国で事故が起きても、止まっちゃうんだから。

立憲民主党が「原発ゼロ法案」を出しました。法の施行から5年で原発ゼロにするといいます。

橘川:僕は即時ゼロというのは考えていないんです。ちゃんと時間をかけて、たたむにしろ、続けるにしろ、手を打たなきゃいけない。「極めて近い将来にゼロ」ということ自体が、思考停止なんです。

原発ゼロ派のリアルな戦い方

 「即時ゼロ」と言ってしまえば原発問題が解決するというのが、悲しいかな日本の反原発派。だって、広島と長崎、第五福竜丸を経験した国ですよ。にもかかわらず、ドイツの緑の党のような有力な脱原発政党が育ってこなかったのは、日本の反原発派が建設的な対案を言わないからなんです。

 ドイツの緑の党は当然「原発反対」です。そして石炭も反対なんだけど、現実は石炭を使いながら原発をなくすというリアルな戦い方をしている。ドイツは今でも十数パーセントは原発に依存しているけど、2022年になくしますよね。一方で、石炭の比率は46%ですよ。

原発をなくすプロセスが整備されている。

橘川:それに対して日本の反原発は、石炭も原子力もノーだと言っちゃうから、説得力がないんですよ。それでも今、その声が強いのは単純に原油価格が安いからです。

 これまで原子力が争点になった選挙が2つありました。2014年の東京都知事選は脱原発の細川・小泉連合が惨敗した。もう1つは2016年の新潟県知事選で、これは予想に反して(再稼働反対の)米山(隆一)さんが勝った。まったく逆だったわけです。じゃあ、どこが違ったか。端的な違いは原油価格です。都知事選は1バレル100ドルで、新潟知事選は40ドルでした。40ドルだったら発電コストなんて関係ないが、100ドルだと貿易赤字になっちゃう。今は60ドルぐらいで微妙な線になってきているけど。

原油価格で選挙結果が決まったわけですか。

橘川:日本の世論ってバカじゃない。80ドルを超えてくると、もう圧倒的に「原発を動かせ」ということになります。今の水準だと「原発ゼロでもいいや」という方に振れます。

でも、橘川さんが言うように、原発の危険性を下げながら、オプションとしてゼロにもできる状態を作るべきですね。

橘川:そうなんです。国民は確かに再稼働イエスかノーかというと、ノーの方が多いんです。しかし、即時ゼロは少数派なんですよ。これは矛盾しているはずなんです。だって、再稼働反対って、要するに即時ゼロじゃないですか。国民の本当の心は、僕が言ったような感じで、長期的に原発を減らしていく方向であって、「すぐにはなくせないね」と。やっぱり、資源小国だから原発というオプションはまだ持っておいた方がいいねと。これが世論だと思うんだけど、政府が司令塔も戦略もないまま、こそこそと再稼働しているみたいだと(思われている)。だから再稼働を聞かれると、ノーと言っちゃう。

要するに古い原発の再稼働はやめると。

橘川:古くて小さいやつはノーに近いです。ただ、リプレースと再稼働で、例えば北海道だったら泊3号機だけだとか、東北だったら東通と女川の3号機とか。そうすると、たぶん15%ぐらいになるんです。そして、原発が比較的新しくて大きいものになっていく。それが、私が中間派と言われるゆえんです。この方が国民の支持は得られると思いますよ。

なぜ安倍政権はできなかった。

橘川:政治家は原発を語りたくない。それから電力会社は、今みたいなことを言えないんですよ。もう伊方2号機なんて事実上廃炉を考えていると思うんだけど、ぎりぎりまで言いません。大飯の1、2号機だって、廃炉だと言われていたけど、ぎりぎりまで言わなかったので。

 すごく不幸な話で、もう突破口はJR東海方式しかない。「国の助けを借りず、自分たちでリニアを造ります」と言うように、「自分たちで原発をリプレースします」と言うしかないんですよ。

政官が動かなければ、原発のリスクを下げるにはそれしかない。

橘川:僕は3・11からずっと同じことを言っているんだけど、「荒唐無稽な漫画家」とか言われている。でも、現実はそっちの方に向いているかもしれない。まあ、行かないかもしれないですよ。僕は阪神ファンだから、だいたい負けることになっているんです(笑)。

 でも、これしか解はないと思います。

原発ゼロ法案も、ここまで急ぐ必要はない?

後ろから矢が飛んでくる

橘川:「即時ゼロ」の主張は本当にお粗末なんですよ。たたみ方をきちんと説明して、時間をかけてたたむと言うんだったら、ほとんど僕の意見と違わなくなる。

 政治(目的)があるから原発ゼロとくっつけなきゃいけなくなる。それで後ろから矢が飛んでくるんですよ。もともと(脱原発派の)飯田哲也氏や、評論家だと金子勝でも、2030年に10%というぐらいのことを言っていたんですよ。(金子氏を)呼び捨てにするのは、中学からの野球部の後輩だからなんですけど(笑)。

「後ろから矢が飛んでくる」とは?

橘川:彼らがテレビとかで発言すると、(脱原発派から)「お前、何言っているんだ」と批判される。「即時ゼロだろ」と言われるから、どんどん過激になっちゃう。すごく不幸です。一方の推進派も、ちょっと廃炉のことを言うと、「全部廃炉だ」と言われちゃうんじゃないかと(心配する)。互いが互いにおびえている。そうして推進派も反対派も、ゴリゴリになっている。

飯田さんも現実解は分かっている。

橘川:と思います。

ただ、大衆に向けては分かりやすく切れ味よく「即時ゼロ」と言うわけですか。でも、期限を5年と決めず、30年ぐらい後にゼロというオプションもあるような法案とすれば……。

橘川:そうですよ。原子力を使うオプションと、ゼロのオプションと両方まじめに取り組もうという法案だったら、すごくいいと思いますけど。ゼロにするにも核種変換とか、やらなきゃいけないわけだから、それはちゃんとやりましょうよという話。

という話を入れておけばいいわけですよね。でも、このままだと原発ゼロ法案が通るのは難しい。

橘川:そこが僕は心配でね。原発ゼロ法案と銘打ったものを勝手に出してコケてもらいたくないわけですよ。

これから議会でもんでいくという流れは。

橘川:そんなことを語れる人はいないと思いますよ。そういう形になっていけばいいと思いますけれども。

 ドイツの緑の党なんて、石炭も反対とか言っているんだけど、労働組合がバックの社会民主党と組むと、石炭ゼロをいったん下ろしていたわけですよ。将来は石炭もゼロだけど、今は引っ込める。その辺りのリアルさというか、時間軸の置き方が違うんですよね。

 (民主党政権の頃は)審議会に飯田哲也氏とか、反原発の論客がいたから、僕は「あなたたちはかっこいいよ。即、原発ゼロとか言っちゃって」と。僕なんて、ものすごく日和見に見える。

 でもイソップと同じだよと。「あなたたち、すぐにゼロと言っているけど、北風みたいなもので、いっそう原発というオーバーを着ることになるよ」と。「脱がせるには太陽が必要なんだよ」と。反原発派の集会に呼ばれるたびに、いつもそう言っているんですけど。

ゼロにするにも、その過程が重要なわけですね。

橘川:(電力会社の)準国営とかも考えました。準国営にしておいた方が原発をたたみやすいんですよ。

そうですね。民間会社では、どうしても株主利益の最大化を追求しなければならない。儲かるなら原発を拡大しようとします。

橘川:やっぱり核種変換がうまくいかなくて「原発、ちょっとやばいね」となったら、準国営になっていたら、やめられるんですよ。

 そういうことも全部考えての僕のストーリーなんですけど。西日本では、原発にさらに依存していくビジネスモデルの電力会社が出てくるかもしれない。東はどっちかというと、原発なしでやっていける会社が出てくるのではないか。僕は中部電力に期待しています。

 それで、ビジネスモデルの戦いになると思うんです。最終的には、原発なしの方が勝ってほしいと僕は思っているんだけど、少なくともビジネスモデル間の競争が起きるのが健全だと思います。

市場機能が働いて、エネルギー業界が新しい時代に向かっていくと。

橘川:もしかしたら核種変換がうまくいって、原発を15%ぐらい持っていた方がポートフォリオ上、強いということになってもおかしくないと思うんです。とにかく、「原発を語れば票が減る」ということで原子力政策が語られないのはよくないですから。オール・オア・ナッシングで考えちゃうと、今のような状態が続いてしまうと思うんですよ。

それには、国民も「推進かゼロか」の二項対立を超えた理解が必要ですね。

橘川:ドイツは参考になります。2022年に予定通り原発ゼロになると思いますが、一方で電気料金は家庭用が1.5倍に値上がりしました。だから、国民は怒るはずじゃないですか。ところが、6割の国民が「それでもいい」と言っている。原発をなくして、再エネを入れるのに賛成だ、と。これがドイツ人の民意なんですよ。

企業の競争力は大丈夫ですか。

橘川:実は、負担をほとんど家庭用の電力料金にかぶせているんです。産業用にはあまりかぶせていない。

 要するに「雇用は守る」と。あなたたちの家庭電気料金は高くなっちゃうけれども、雇用はちゃんと作ります、と。

そうして納得感を出しているわけですか。

橘川:結果、ドイツの産業用の電力料金って、比較は難しいのですが、例えば卸市場の値段でいうと、フランスよりも安いんです。原発を使い続けるフランスよりも。つまり産業用には負担が行かない仕組みにして、家庭用に負荷をかけて、我慢させているんですよ。これって、民度が高い選択でしょう。

当然、そのカラクリは国民に伝えているわけですね。

橘川:もちろんです。

こういう戦略的な政策なら、高い電気料金でもいい、と。

橘川:そう。日本だと今、中小企業がめちゃくちゃ悲惨な目に遭っているわけですよ。多少の電力料金の優遇措置はあっても、ドイツと比べると全然違いますからね。その辺が政策の力なんです。

政も官も、本当はやるべきことがたくさんある。

橘川:ドイツについてちょっと調べるだけでも、打ち手はたくさんあると分かるんですけど、(日本は)本当にまずいんですよ。戦略もなければ、司令塔もいない状態で。まあ、文句ばかり言っていてもしょうがないので、いくつかの対案をもっと広めていきたいと思います。

■訂正履歴
新潟県知事選の時期に誤りがありました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2018/3/29 17:00]
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