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 コロナ禍にあってなお2020年度売上高が19年度比にして140%、金額にして7000億円到達という過去最高の成長を見込むなど、アイリスオーヤマの業績は絶好調だ。オンラインで開催中の「日経クロステック EXPO 2020」では10月19日10時から、同社の代表取締役社長の大山晃弘氏を招き、日経ものづくりの山田剛良編集長との公開取材形式でオンラインセッションを開催した。

アイリスオーヤマ代表取締役社長の大山晃弘氏
アイリスオーヤマ代表取締役社長の大山晃弘氏
(日経クロステック EXPO 2020の講演動画)
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マスクの製造販売で過去最高の成長を記録

 講演の最初に語られたのは同社の業績好調ぶり。コロナ禍でさまざまな企業の苦境が伝えられるなか、アイリスオーヤマは「過去最高の伸び」(大山社長)を記録し、グループ全体の売り上げは前年度比140%増、金額も過去最高の7000億円に届きそうだと顔をほころばせる。

 巣ごもり需要で自社EC(電子商取引)サイトを中心とした製品販売が好調なうえ、何より使い捨てマスク(以下、マスク)の製造販売が当たったという。深刻な供給不足に迅速に対応。マスクの供給が最もひっ迫していた3月に製造を国内回帰させると発表、5月には設備を導入、7月に国内工場からの出荷を始めた。

アイリスオーヤマ国内工場からのマスク出荷風景
アイリスオーヤマ国内工場からのマスク出荷風景
(出所:アイリスオーヤマ)
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 マスク本体だけでなく、中国国内では価格が約10倍になり、供給が不安定になった不織布など、マスクの材料についても国内工場で自社生産を始める。これに加え、米国やフランス、韓国でもマスクを現地で生産する計画を公表した。これに見られるように、同社のものづくりや販売における最大の特徴が、多くの製品を開発から製造まで自社で行っているという点だ。

 宮城県仙台市に本社を置くアイリスオーヤマは、養殖業で使われるブイや種苗箱などを造っていた町工場に端を発する。園芸用品などの製造を中心に培った樹脂成形技術を用い、家庭用収納用品などへ商材を拡大。現在では小型家電から大型家電、LED照明、さらにはサーマルカメラといった法人向け製品、米などの食品も取り扱うようになっている。新製品の開発は年間約1000アイテム、管理アイテムは常時5000を数えるというから驚きだ。

大連生活用品第1工場
大連生活用品第1工場
大連には生活用品を製造する工場だけで第4までの工場があるほか、木工製品やペットフードの工場なども持っている(出所:アイリスオーヤマ)
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 製品作りの中心となっているのは、やはり中国。同国・大連市を中心に蘇州市や広州市に大規模な工場群を有し、プラスチック成形から金属加工、木工までこなせる一貫生産の体制を構築している。もちろん今回のコロナ禍で大きな影響を受けたが、業績には大きなダメージを受けずに済んでいる。というのも、同社の製品はすべてが中国で作られているというわけではないからだ。

 中国では基本的には構造の複雑な家電製品などのほか、マスクのような製品単価が安く、大量生産が求められ、人的コストの低さを生かせる商品を中心に生産している。それ以外の製品、例えば小型家電などは日本をはじめ、米国、フランス、韓国などに構えた現地の工場で商圏に直結した「地産地消」体制を構築し始めている。

 今回のコロナ禍でマスクが深刻な供給不足に陥った背景には各国間の流通の停滞に加え、中国政府の輸出規制の強化によるサプライチェーンの混乱がある。アイリスオーヤマは早い段階でこの状況が当面は続くと判断。日本政府からの要請もあり、いち早くマスク生産の国内回帰を決めた。こうした決断の早さと、自動化が進み比較的技術移転が容易な生産体制、サプライチェーンを柔軟に組み替えられる体制がアイリスオーヤマの強みだと大山社長は胸を張る。