ラーメン店の経営をビッグデータから考察してみた
ラーメン店の経営をビッグデータから考察してみた

 150万社のビッグデータを活用し新しい切り口や問題意識からこれまで知られなかった日本経済の姿を明らかにする――。東京商工リサーチ(東京・千代田)と東京経済大学の山本聡准教授が共同研究をスタート。最新の研究成果をリアルタイムでリポートする(記事中のデータやグラフなどは東京商工リサーチの企業情報データベースに基づく)。

まずは中華料理店とそば・うどん店との比較から

 1回目のテーマはラーメン店。 ラーメンブームといわれるなか、人気店のランキングや行列店の情報はちまたにあふれている。個別の店についてラーメン1杯の価格から売上高、利益などをざっくり算出する事例は散見されるが、ラーメン業界全体の経営にまつわる情報は意外なくらい少ない。

 ラーメン主体の外食チェーンは日高屋、幸楽苑などが上場し、もちろん公開データはある。しかし、今回は非上場を含む全国のラーメン店の経営データを本格的に活用。これだけの規模で実際のデータに基づいた分析を行うのは今回が初となるはずだ。

 ただしラーメン店は個人経営が多く、こうした店は正確な企業情報を把握するのが難しい面がある。そこで今回は分析対象について、店舗数を増やしながら企業化するなど約800のケースを中心に据えた。店舗数を伸ばすのはそれに見合った事業モデルをつくる必要がある以上、対象のラーメン店はある程度の成功を実現しているラーメン店群とみなすこともできそうだ。

 まずは外食のなかでどんな位置かを知るために、ほかの業態と比べてみよう。比較するのは中華料理店とそば・うどん店だ。中華料理店とラーメン店は重なるところもあるが、中華料理店が多様なメニューの1つとしてラーメンを提供するのに対し、ラーメン店はあくまでもラーメンがメニューの中心という違いがある。区分けはいずれも東京商工リサーチの企業調査データに従った。

 3つの業態を比べたときにまず気づくのは、業歴や経営者の年齢からみたときのラーメン店の「若さ」だ。

ラーメン店は約3割が創業・設立10年以内

 創業・設立10年以内の比率をみると、ラーメン店は約3割を占めるのに対し、中華料理店は15%と半分にとどまる。そば・うどん店の場合はさらに低く約12%。逆にそば・うどんは100年を超える長寿店が4%ほどあるが、ラーメンは1店にとどまる。

ラーメン店の業歴分布
ラーメン店の業歴分布
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そば・うどん店の業歴分布
そば・うどん店の業歴分布
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 経営者の年齢で比べると、40歳までの経営者の比率はラーメン店が13%なのに対し、中華料理店は半分以下の6%。そば・うどん店は5%弱しかいない。

ラーメン店の経営者の年齢分布
ラーメン店の経営者の年齢分布
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そば・うどん店の経営者の年齢分布
そば・うどん店の経営者の年齢分布
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 経営面からはどうか。一人当たりの月間の売上高でみた場合、中央値で比べると、ラーメン店の119万円に対し、中華料理店は2割低い94万円、そば・うどん店は3割低い約82万円にとどまる。しかし、同じ中央値でも利益率をみたときは事情が違う。そば・うどん店が2.4%と高く、ラーメン店は1.5%。中華料理店は1%となった。

 分析を担当する山本准教授は他業態との比較について、「ラーメン店は経営者や店の若さが目立つ。これは創業したい人が多く、新規参入がしやすいことを示すのではないか。またラーメン店は売上高は上がりやすい反面、市場競争が激しいなどのため利益を確保しにくい傾向がある」と話す。

 一方でラーメンは店によって人気の差が大きい。行列の絶えない店もあれば、集客に苦労して経営が厳しいところもある。「儲かる店」はどのくらいの比率で存在しているのか。

 利益率を基準にした分布図から「儲かる店」の存在と比率を検証してみよう。

ラーメン店の利益率分布
ラーメン店の利益率分布
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 利益を公表する店は絞られるが、そのなかで利益率が10%を超えるラーメン店は約6%、15%を超える店は1.5%にすぎない。このあたりが儲かる店の1つの目安となりそうだ。

従業員数と利益率はリンクしない

 今回の共同研究では、従業員数は一人当たりの月間売上高と相関関係があることがわかった。一方、従業員数と利益率はリンクしないことも明らかになった。人を増やし経営規模を拡大することで売上高が伸びても、利益がついてくるとは限らない。

ラーメン店の利益率と従業員数
ラーメン店の利益率と従業員数
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 儲かる店は事業規模にかかわらず、一定数存在しているといえる。山本准教授は「店員が多くはやっているように見えるラーメン店が突然閉店したり、店主だけのラーメン店が生き残っていたりするのもこのためではないか」と話す。

 ラーメン店の経営者は男性が圧倒的に多く、女性の経営者は8%ほどにとどまる。ただし、経営者の年齢や業歴などの条件をそろえたうえで利益率を比べると、女性の経営者のほうが高い傾向がある。「詳しい状況はわからないが、男性の経営者とは違った経営アプローチをしている可能性がある」(山本准教授)。

 地域別にみた場合、売上高は地域による優位な差はなかった。東京は人口が多く経営環境に恵まれているが、その分競争が激しく、売上高は他地域との差があまりない。一方、店舗の運営面では、東京は物件の賃貸料や人件費などが他のエリアに比べて高い。このため、東京のラーメン店の経営を圧迫している可能性がある。

 山本准教授は「必ずしも売上高の大きい東京のラーメン店が優位なわけではない。むしろ競争の少ない地域を見出し、固定客を獲得することが重要ではないか。経営者は売上高を伸ばすのでなく、まずは利益率を向上させることを意識すべきだ」と話している。

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