まだ辞めたくない――。そんな思いがにじむ会見だった。
日産自動車で社長兼CEO(最高経営責任者)を務める西川広人氏が、2019年9月16日付で辞任する。同月9日夜に開いた記者会見で「今が次世代に任せるタイミングと考えた」と述べつつも、「道半ばでのバトンタッチ」や自身の想定よりも「やや早いタイミング」など、言葉に端々に辞任に追い込まれた悔しさが表れた(図1)。
「辞める意思はずっと持っていた」という西川氏。それでも、CEO職を最長であと数年続ける意向だったようだ。2019年5月の決算発表会では「2年か3年で(日産を)元に戻す」(同氏)と述べ、続投の意欲を示していた。
事態が急転したのは2019年9月9日の午後に開催された日産の取締役会。西川氏の進退が議論されることになり、「取締役会全員の一致」(同社社外取締役で取締役会議長の木村康氏)で辞任を要求することが決まった。西川氏には、受け入れる以外の選択肢はなかった。
取締役会は同日午後9時から横浜本社で記者会見を開き、西川氏の辞任を発表(図2)。午後8時の開始だった予定が1時間遅れたことからも、取締役会の議論が熱を帯びた様子がうかがえる。「西川氏はなぜ会見に参加しないのか」――。同席するのが“筋”だと問う記者に対し、議長の木村氏は「この後会見する」と明かした。
辞任を要求した取締役会メンバーによる会見が終了した後、午後9時45分ごろから西川氏は単独で会見を始めた。冒頭に「全てを整理して次の世代に渡すはずだったが、それがやりきれず、大変申し訳ない」(同氏)語り、無念さをにじませた。
ケリー氏の告発で風向き変わる
辞任のタイミングが一気に早まったのは、西川氏が株価連動型報酬制度「SAR」の悪用を同年9月5日に認めたからだ。本来より4700万円多い報酬を受け取っていたことが判明した。
日産の関係者によると、「グレッグ・ケリー氏が告発するまでは、SARは不正の社内調査の対象に入っていなかった」という。日産の元代表取締役のケリー氏が2019年6月に、月刊誌のインタビューで西川氏の不正を主張したのをきっかけに、日産が事実関係を調べることになった。これで風向きが変わった。
SARの悪用について、西川氏は会見で「ケリー氏に頼んでおり知らなかった」と主張。それでも、日産の取締役会は「社内外の求心力を考えると、このタイミングで辞任するのが適切」(木村氏)と判断し、西川氏に引導を渡した。