「車載セキュリティ技術を提供できるサプライヤー(自動車の部品メーカー)は、ティア1(1次請け)ではウチしかいない」。パナソニックの社内カンパニーの1つであるオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社(AIS)で車向けのセキュリティ技術を担当する安齋潤氏は、こう言って胸を張る。

パナソニックのオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社で自動車向けのセキュリティ技術を担当する安齋潤氏
パナソニックのオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社で自動車向けのセキュリティ技術を担当する安齋潤氏
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 つい最近まで、クルマに対するサイバー攻撃は映画やSFの世界だけの話と思われてきた。ところが2015年に事件が起きる。欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の乗用車「ジープチェロキー」でセキュリティの脆弱性が発見され、リコールに至った。ここから大きく、自動車業界の風向きが変わった。

 ここに来てパナソニックに対し、取引先の自動車メーカーからはセキュリティに関する問い合わせや提案依頼が急増しているという。だからといって「自動車メーカーに『言われたことだけをやる』のではなく、セキュリティの要望に対してこちらからもっと能動的に動ける態勢を作らなければ、ほかのサプライヤーとの競争には勝てない」(安齋氏)。

 クルマのセキュリティに関心が高まっている背景には、IT企業なども巻き込んで自動運転の開発が急ピッチで進められているという業界構造の激変がある。そんななか、人が操作をしない自動運転車がサイバー攻撃でハンドル制御などを乗っ取られると「安全の確保において影響は甚大だ。自動運転の開発に乗り出している企業は皆、その点を非常に警戒している」(同)。

セキュリティの高さで、車部品メーカー間の競争に勝つ

 とはいえ、まだ車載セキュリティ単独では、事業として成立しにくい。パナソニックは2021年ごろの製品化を見込む。現在、自動車メーカーは数年後に投入を計画している新型車の開発を進めており、パナソニックはそこでの車載セキュリティの採用に向けて、今から提案活動を強化しているところだ。

 すぐに事業化できなくても、小型電気自動車(EV)向けの電動プラットフォームや電子コックピットを含む、ほかの製品とセットで、自動車メーカーにパナソニックの強みを訴求し、競合のサプライヤーに差をつける狙いがある。