(その1から読む→こちら

介護は家事を含めた「日常」との戦いとも言えますよね。松浦さんも本の中で「介護の話に見えて、これでは家事に弱音を吐いているように見えて、主婦の方に怒られそうだ」といったことを書いていて。

松浦:料理にしても、自分で作ったのを「まずい」と思いながら食っていました。

ジェーン・スーさん(以下スー):私はラジオで「ジェーン・スー 生活は踊る」という生活情報番組(TBSラジオ)のパーソナリティーをやっているんですが、番組を通して、中高年の男性は女性に比べて生活情報にリーチしづらい環境に生きているのかもしれないと思いました。

<b>ジェーン・スー</b><br />1973年、東京生まれの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。現在、TBSラジオ「<a href="https://www.tbsradio.jp/so/" target="_blank">ジェーン・スー 生活は踊る</a>」のパーソナリティーを務める。『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4344424646/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=n094f-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4344424646" target="_blank">貴様いつまで女子でいるつもりだ問題</a>』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4591146553/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=n094f-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4591146553" target="_blank">私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな</a>』(ポプラ文庫)、『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4163904611/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=n094f-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4163904611" target="_blank">女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。</a>』(文藝春秋)、『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4023315788/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=n094f-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4023315788" target="_blank">今夜もカネで解決だ</a>』(朝日新聞出版)など。コミック原作に『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4107719685/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=n094f-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4107719685" target="_blank">未中年~四十路から先、思い描いたことがなかったもので。~</a>』(漫画:ナナトエリ、バンチコミックス)がある。
ジェーン・スー
1973年、東京生まれの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のパーソナリティーを務める。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ文庫)、『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)など。コミック原作に『未中年~四十路から先、思い描いたことがなかったもので。~』(漫画:ナナトエリ、バンチコミックス)がある。

例えば?

スー:例えば「生ごみを捨てるときにこうやると臭くないよ」とか、取るに足らないと思われがちなことです。でも介護で親と同居をするとなると、そういったことが結構肝になってくるじゃないですか。

そうか、そうですね。生活そのものの質や、かかる時間を左右するノウハウですものね。

スー:松浦さんが、そういうノウハウを1つひとつ宝を掘り当てるように探ってやっていく様子を読ませていただいて、「うわっ、これは大変だったろうな」と思って。

松浦:男性の側が生活情報から切り離されたって、たぶんそんなに古いことじゃないような気もするんです。たとえば、山に入る猟師は、山中で自活ができることが仕事の条件ですよね。アイルランドではフィッシャーマンズセーターって、漁師がセーターを編んでますよね。あれは、自分の防寒のためのセーターを自分で編めなけりゃ海に出られないわけですよ。

スー:なるほど。

松浦:男性にとっても、家事と生活と仕事が強く結びついていた時代がかつてはあったわけです。映画で、離婚したお父さんが子供を育てる「クレイマー、クレイマー」ってのがありました。あの中でもやっぱりお父さんが、ものすごく生活情報がなくて苦労するシーンがあるんですけどね。あれが1970年代ですから、やっぱりサラリーマンが増えた結果なんでしょうか。

スー:どこかのタイミングで、「生活なんて“取るに足らない”ことは、自分たちのやることではない」というふうに思い込まされてきちゃったんでしょうね。

松浦:お金は自分が稼いでくる。だから生活は奥さんに全部負担してもらう。そういうライフスタイルは、効率がいいと思われてきたけれど、前提が崩れると大変なことになる。

スー:理想を言ってしまうと、仕事も家事も、男女両方ともそこそこできる、という状態が一番いいと思います。時期によって役割が変わっていくことも可能な形。

松浦:そう考えると「ものすごく会社に一途」って生活態度は非常にまずいと思います。

スー:「生活は踊る」のスタッフ間で共有しているテーマの1つに、「ルーティンをわくわくに」というのがあるんです。

ルーティン、決まり切ったことで、わくわくを。

スー:繰り返しの生活をエンジョイしていくためには、効率化もそうですけど、ちょっとでもわくわくするような方向にもって行けるか否かが重要になってくるので。松浦さんの本を読んで改めてそう思いました。

在宅勤務がルーティンになってあたりまえ

この連載(「人生の目的は『親の介護』。それでいいのか。」)や「日経ビジネス」でも、最近介護離職の問題を取り上げていますが、これって、基本的にはさきほどの「会社一途」では育児も介護も無理だよ、というお話ではないかと。

松浦:それはその通り。介護する人がこれから増えてくるとしたら、それに合わせて働き方自体が変わらなくちゃいけないと思っています。本にも出てきますけど、僕の妹は今ドイツ在住で、現地企業に勤務しつつ子育てしています。去年の11月に暇を見つけて彼女のところに遊びに行ったら、もう完全に在宅勤務がルーティンとして組み込まれていて、「今日は子供が熱を出したから」と家でネットワークを介して働いていました。それで完全に出勤したのと同等の状態になっている。朝会社に行って始業、というのが必須ではない。テレワークに適した職はいっぱいあるわけで。

スー:そうですよね。

松浦:そういうものをもっと取り入れなくちゃいけない。

スー:いままでは、会社にいることが誠意と思われてしまう時代でしたものね。

松浦:そうそう。

スー:そこを変えていかないと、もう物理的に無理です。介護は当然、妻が手伝ってくれると考える人もいるかと思いますが、実際には難しいかもしれません。

松浦:すくなくとも、相談もしないうちから「介護の戦力」と奥さんをカウントするのは危険でしょう。

スー:そうですよね。松浦さんの本を読んで「これが介護だ」と知ってほしい。自分の妻に一手に引き受けさせていいのか? と。

読者の皆さんからの、コメント欄とか、はがきの熱量と数がすごいんです。特に女性からは、「先に夫に読ませておかないと」とか、「夫の親の介護で大変でした」みたいな方からすごくたくさんいただきます。

スー:そうなんですね。

 生活情報に上手にリーチできることが、身近な人や自分のクオリティー・オブ・ライフを左右するとさきほど言いましたが、そこが分かってないと、たぶん、介護が文字通り「人ごと」になっちゃうんだろうなと思います。手を出したくても出せない。やり方を知らないから。

 私は末期がんの親の介護しかしてないので認知症の介護とはまた異なりますが、松浦さんも前におっしゃった通り、介護や看病にって、生きるパワーが吸い取られていくんですよね。それは身に染みて理解しています。

松浦:あります。通常の仕事とはそこが違う。

スー:あの負荷は、やっぱり1人だけではなかなか難しいものがあると思うんですけど、家族がいる人でも、その家族が「いや、それは俺の仕事じゃないし」という感じになっちゃうと……ちょっときついだろうなと。

家庭内分業はトラブルに非常に脆弱だ

松浦:サラリーマンモデルというか、戦後の日本には家庭内セクショナリズムみたいなものがあって、女性からしても何か都合がよかったところがあるのかもしれません。

スー:そうでしょうね。

松浦:たとえば、「台所は自分のテリトリー」と。そういう区別がはっきりしたから安定したということは言えるかもしれない。でも……。

スー:役割分担自体は、双方が納得していればいいと思います。でも、非常時にどう対応するか。手が足りなくなってやり方の分からないラインについたら、工場の作業工程がすべて崩れてしまった、というようなことになりかねない。そう考えると、スペシャリストというよりゼネラリストの方が、もしかしたら家族はうまく回る。

松浦:分業って楽なんですよ。

スー:あ、そうなんですよね。役割分担すると。

松浦:本当は、分業ができるのはもっと大きなシステム、例えば会社ぐらいの人数がいるとかなり成り立つんですけど、家庭内で分業を成立させるのは、継続性を考えると実はかなり難しい事業なんじゃないか。2人とか3人。多くても5人、6人、せいぜいそのレベルですから、そこで何かの理由で1人欠ければ、家庭内分業は破綻するんですよね。

スー:しかも家族の数はどんどん減ってきているわけですから。

松浦:ということは、通常から家庭分業で回していくのは、介護のような有事を考えるとあんまり賢くないのかもしれない。でも会社というか、社会というかが家庭内分業を前提に回っているから、みんな分業で対応せざるを得ない。本当は、介護が始まる前から家庭内分業の是非をきちんと考えて対応を考えておくべきなんでしょう。介護は突然始まって、始まってしまえば最中はもう必死ですからね。

スー:本当に大変でいらっしゃったんだろうなと、読みながら思いました。先に出た(こちら)「人に話す」こともそうですが、「人に頼る」ことも、多くの男性は練習しておいたほうがいいのかもしれません。

人に頼る練習。それはスーさんの本に出てくるお父様の。

スー:そう、うちの父親はそれがとても上手で、「人に頼る技術」の講師か何かやった方がいいと思うんですよ(笑)。

松浦:どういうところがお上手なんでしょうか。

スー:父はてらいなく、気取りなく人に頼れるんです。だから娘にも素直に頼ってくる。でも、おおよその男性にはなかなかそれをよしとしない文化があるじゃないですか。

松浦:そうですね。

スー:うちの父が生き延びている理由は、人に頼ることに対して屈託がないからという1点だと思いますよ。すっからかんになっても、これだけ楽しそうにやれているのは。

すごいさわやかな笑顔で。

スー:そうなんです。さわやかな笑顔で、「お金がない」と言ってきて。

松浦:本心から、屈託がない方なんですね。

スー:まったく屈託ないです。おいしいものが食べたければ「おなかがすきました」というLINEが来ます(笑)。

(次回に続きます。来週月曜日掲載予定です)

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