少数民族の生活を支える ベトナムのカルダモン

インドシナ半島の植民地経済を支えていたケシの栽培禁止に伴う代替作物

2020.02.02
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中国との国境近くに広がる、ベトナムのホアン・リエン国立公園。公園内では、現地語でタオクアと呼ばれ、フォーなどのベトナム料理に欠かせない香辛料、ブラックカルダモンが栽培されている。PHOTOGRAPHS BY IAN TEH

 険しい山と谷が連なるベトナム北部のホアン・リエン国立公園は、中国との国境近くにある。私は、ここで行われるカルダモンの収穫を取材しにやって来た。ブラックカルダモンはベトナム語で「タオクア」といい、標高の高い森林地帯の川沿いに育つ。乾燥させた香辛料は、ベトナムの国民食とも言えるスープ麺のフォーをはじめ、さまざまな料理に使われている。

 ホアン・リエン・ソン山脈に初めてブラックカルダモンが植えられたのは、1990年代のことだ。かつてインドシナ半島の植民地経済を支えていたケシの栽培の禁止に伴い、代替作物として栽培が始まった。

 だが国立公園は、植物の多様性を守るというベトナムの取り組みを象徴する場所でもある。そこで難問が生じる。どうすれば、自然保護と商品作物の栽培を両立できるだろうか?

 ホアン・リエン国立公園は2002年に設立された。ベトナムにある多くの自然保護区と同様に、ここにも国有地内の土地を利用して生計を立てている少数民族がいる。米ラトガーズ大学の准教授で、人間生態学を研究し、ベトナムの環境問題に関する著作もあるパメラ・マケルウィーによると、保護区の周辺には収入の少ない住民が多くいるため、自然保護の規則を厳格に守らせるのは難しいという。

双方にとって悪くない「カルダモン方式」

 公園内で村人がカルダモンを栽培して収穫し、レンジャーが見て見ぬふりをする「カルダモン方式」は、双方にとって悪くないやり方だとマケルウィーは言う。実際には、公園内でのカルダモンの栽培も、収穫した実を火にかけて乾燥させるための薪を集めるのも、違法行為だ。それでも、カルダモンはほかの多くの作物とは異なり、木々の間でも育てられるため、森林を丸ごと伐採することなく栽培できる点でまだましであり、今のところは、ベトナム当局も大目に見ていると、マケルウィーは話す。

 日暮れ近くに野営する場所へたどり着くと、カルダモンの収穫を指揮するチョがすでにキャンプを設営していた。周囲には高さ3メートルほどの数百本のカルダモンが並んでいる。厚みがある鮮やかな緑色の葉は、形も大きさもバナナの葉に似ている。その葉は、まるで川の曲線に沿ってうねりながら、森の中を進んで行くように見えた。

 小川沿いのキャンプの中にはたき火があり、乾燥させたタオクアの葉が敷いてあった。これから2日間、収穫作業をする仲間たちはここで寝食をともにし、ブラックカルダモンを火にかけて乾燥させる。

※ナショナル ジオグラフィック2月号「カルダモンの森へ」では、ベトナム北部に広がる豊かな森に分け入り、高値で取引される香辛料、カルダモンの収穫を取材しました。

文=マイク・アイブス/ジャーナリスト

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