全3248文字

 防戦一方の日本の電機業界にありながら、韓国メーカーや中国メーカーを寄せ付けない強さを見せるダイキン工業。同社取締役会長兼グローバルグループ代表執行役員の井上礼之氏の発した「二流の戦略、一流の実行」の号令の下、社員が現場で格闘しながら販売力と生産力、そして開発設計力を高めてきた結果だ。今回は、「売れる製品」を創る上で最も大きな責任を負う開発設計に焦点を絞り、韓国メーカーを蹴散らして中国メーカーを迎え撃つダイキンの「戦略と戦術」を見ていきたい。同社を取材すると3つの戦略と4つの戦術が見えてきた。

* 二流の戦略、一流の実行 たとえ戦略やマーケティングの出来があまり良くなかったとしても、現場で徹底して実行することで得られるものがあると、社員に挑戦を促す井上会長の言葉。

 まず、ダイキンが繰り出した第1の戦略は「市場のボリュームゾーンから逃げないこと」だ。

戦略1 低コストで真っ向勝負

図1 「ベースモデル開発」と「アレンジ設計」
図1 「ベースモデル開発」と「アレンジ設計」
コスト競争力を引き上げる戦術と、世界の顧客ニーズを捉えた製品を創るための戦術。(作成:日経 xTECH)
[画像のクリックで拡大表示]

 韓国・中国メーカーの強みは、なんと言ってもコスト競争力の高さにある。日本と比べて低い人件費の利点を生かしつつ、1カ所で集中生産することで量産効果による大幅なコスト削減を実現。こうして韓国・中国メーカーは市場のボリュームゾーンに攻め込んでくる。たまらず日本メーカーは高価格帯へシフトするが、規模が小さい故にコスト競争力が上がらない。そうこうしているうちに、ボリュームゾーンを押さえた韓国・中国メーカーは豊富な資金を投じて技術力や品質力を高め、やがて高価格帯にまで進出して日本メーカーを瀬戸際まで追い詰める──。これが、よくある日本メーカー敗北のシナリオだ。

 ここでダイキンが家庭用エアコンで打ち出した戦術が、モジュラーデザイン「ベースモデル開発」である(図1)。日本と欧州、アジアから市場情報を集約。顧客ニーズの「最大公約数」とも言える世界共通のエアコン母体構造「ベースモデル」を開発設計した。クルマで言えば、複数の車種間をまたいで共用できるプラットフォームを創ったのだ。

 ベースモデルは世界共通のため、販売する市場ごとに造り分ける必要がない。すなわち、同一のものを大量生産できる。これにより、ダイキンは量産効果を存分に引き出し、製造面でのコスト削減を最大化した。加えて、開発工数や部品調達、生産準備の負荷を最小化し、トータルのコスト競争力を大幅に引き上げることに成功した。

 威力は絶大だった。韓国メーカーがボリュームゾーンに攻勢を掛けたのは、インバーターを搭載していない安価な家庭用エアコン(以下、ノンインバーター機)。これとインバーターを搭載したダイキンの従来の家庭用エアコン(以下、インバーター機)をコストで比較すると、ノンインバーター機のそれは30%も低かった。ここにダイキンはベースモデルを投入し、インバーター機のコストをノンインバーター機と同水準にまで引き下げた。省エネ性能が付いた製品を、そうではない製品と同等のコストで造れるコスト競争力を身に付けたのだ。