本当に「働く時間を選びやすいパートなどが増えている」のか(写真:PIXTA)
本当に「働く時間を選びやすいパートなどが増えている」のか(写真:PIXTA)

――「女性が輝く社会」をつくることは、安倍内閣の最重要課題のひとつです。
すべての女性が、その生き方に自信と誇りを持ち、活躍できる社会づくりを進めてまいります。
 2014年10月10日――
官邸HPより

 「すべての女性が輝く社会づくり推進室」と書かれた看板を、安倍首相と自称「トイレ大臣」こと有村治子氏が掲げたツーショットから、4年。

 確かに「まぶしいほど輝いてる!」写真が、ウォール・ストリート・ジャーナルに掲載された。

「Japanese Leader’s ‘Society Where Women Shine’: One Woman, 19 Men in Cabinet--Satsuki Katayama’s responsibilities include promoting gender equality--」
と題された掲載記事に使われた写真の「シルバーのドレス」である。

 むろん記事の内容はNHKまでもが流した、どーでもいい「キラキラドレスハプニング騒動」についてではない。

 第四次安倍内閣の女性閣僚は1人。安倍首相が記者会見で、女性記者から(外国人記者と思われる)「もっと女性閣僚が入ると思っていたのに、なぜか」といった趣旨の質問され、「女性活躍はまだ始まったばかり」とはぐらかし、「(入閣した女性閣僚は)フットワークがよくガッツもある。2人分、3人分の発信力を持って仕事をしてもらいたい」などと答えたことを取り上げ、日本が女性活躍後進国であることを伝えている。

 欧米ではこのご時世、女性大臣が「オンリーワン」は時代遅れ。13年の国連総会では、安倍首相自身が「Society Where Women Shine」という言葉を連発していたことへの皮肉を存分に込めた、と個人的には理解している。

 「女性議員はスカートをはいたジジイばかりだから、女性議員を登用しても意味がない」

 そういった意見もある。

 ならば民間で活躍している女性を招聘する手立てだってあったはずだし、専門性の高い、優秀な女性をノミネートすればいい。

 3カ月ほど前、自民党の参院政策審議会が、女性に関する政策を総合的に推進する「女性省」の創設を検討しているとの報道があったように、安倍政権にとって「女性」という単語は、「ナニカやってます!」とアピールするための道具でしかない。

 現在進行形であれば、それでよし。いまだに「始まったばかり」ってことは、安倍首相自身が格差是正する気もなければ、解決する気もないことを暴露した格好である。

 本来であれば、長期政権だからこそ解決に時間がかかる社会問題をきちんと進展させられるのに。なんだか本当に絶望的な気持ちになってしまうのです。

 ついでに申し上げれば、メディアもメディアだ。

 「用意したドレスがどう」とか、「認証式では長袖じゃないとダメだ」とか、「銀座の百貨店に直行してギリギリ間に合った」とか報じてないで、もっとやるべきことがあるのではないか。

 例えば、16年2月18日に「内閣総理大臣 安倍 晋三」の名前で公示された
「男女共同参画基本計画を平成二十七年十二月二十五日付けで次のとおり変更したので、男女共同参画社会基本法(平成十一年法律第七十八号)第十三条第五項の規定により準用される同条第四項の規定により公表する」とした文書では、改めて強調している視点として、「女性の活躍推進のためにも男性の働き方・暮らし方の見直しが欠かせないことから、男性中心型労働慣行等を変革し、職場、地域、家庭等あらゆる場面における施策を充実させる」とし、22年までの到達目標が詳細に記載してある。

 これを見れば「女性活躍は始まったばかり」じゃないし、現段階での到達目標との齟齬を指摘したり、検証することだってできる。

 しかも、
  ・国家公務員
  ・地方公務員
  ・民間企業
などの上位職の数値目標は詳細に列挙されているけど、国会議員は存在しない。

 なぜ、国会議員だけないのか? ツッコミどころは満載である。

 候補者数に関しては、「30%」と書いてあるが、そこに以下の注釈がある。

 「政府が政党に働きかける際に、政府として達成を目指す努力目標であり、政党の自律的行動を制約するものではなく、また、各政党が自ら達成を目指す目標ではない」

各国議会の女性進出で日本は158位

 なるほど。

 5月、国会議員や地方議員の選挙候補者数をできるだけ男女均等になるよう促す、政治分野の男女共同参画の推進に関する法(議員立法)が成立した際に、あくまでも努力義務であり、女性を当選しやすくするための策(比例名簿の上位に入れるなど)もなかったのは、こういう理由なわけだ。

 ちなみに、17年衆院選の当選者数に占める女性の比率は、10.1%。女性候補者数も少なく17.7%。世界の国会議員が参加する「列国議会同盟」がまとめた17年の各国議会の女性進出に関する報告書で、日本は193カ国中で158位だ。

 「政治に興味を持ってほしい」という言葉を、報道に関わるマスコミの人たちから何度も聞かされているだけに、「キラキラドレスハプニング騒動」に走ったことが残念で仕方がないのである。

 いずれにせよ、私の個人的見解の結論を申し上げれば、「男女半々内閣にすべし」と考えている。女性政治家に関してはこれまでさまざまな形で発信してきたし、コラムでも何回も書いた。その理由も、反対意見への意見も書いてきたつもりだ。なので詳細はここでは書きません。

 むろんコラムを読んでくださる方たちが、毎回読んでいるわけじゃないので、「知らんよ、そんなの」と叱られてしまうかもしれないけど。

 前置きがかなり長くなった。というわけで今回は女性議員問題ではなく、そもそも「活躍できていない女性たち」について考えてみようと思う。

 9月28日、「女性就業率過去最高」が大々的に報じられた。(以下9月28日付日本経済新聞より抜粋

――「女性就業率 初の70%台 8月求人倍率1.63倍、高水準続く」

 総務省が28日発表した8月の労働力調査によると、15~64歳の女性のうち、就業者の比率は前月比0.1ポイント上昇の70.0%と、初めて7割台に達した。

 働く時間を選びやすいパートなどが増えている。厚生労働省が同日発表した8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.63倍と前月から横ばい。44年ぶりの高水準を保った。人口減少を背景に人手不足が続いている。

 (中略)

 政府は22年度末までに子育て世代の女性(25~44歳)の就業率を80%まで高める目標を掲げる。8月は76.7%だった。

 (中略)

 もっとも、先行きを占う指標をみると、これまで続いてきた雇用情勢の改善が頭打ちとなる兆しも漂い始めた。

 例えば8月の新規求人数(同)は96万4103人と、前月から微減。2カ月連続の減少だ。産業別にみると、宿泊・飲食業は前年同月比3%減と5カ月連続で減っている。(以下省略)――

本当はもっと働きたいのでは?

 記事で、「働く時間を選びやすいパートなどが増えている」という表現と、「政府目標である22年度までの数値目標80%」が書かれているので、一見安倍政権の成果が強調されているように見える。

 でも、これって本当に「Society Where Women Shine」成果なのだろうか?

 そもそも「働く時間が選びやすい」から→「パート」というロジックで展開されているけど、本当はもっと働きたいのに、「パート」でしか雇ってもらえてないのではないか?

 おそらく私のこういった疑問に、
  「いやいや、正社員化が急ピッチで進んでるから大丈夫でしょ?」
  「だってパートを自分から選んでいる人って、マジで多いんだから問題ないでしょ?」
と、都合のいい妄想を並び立て口を尖らせる人たちは多いことだろう。

 が、実際には「労働力調査」のコーホート分析(特定の属性の人口グループが,次の時点でどのように変動したかを分析する手法)からは、「女性は無配偶者を含め正社員化が進みにくい」というファクトが明かされ、私のヒアリングでも40代以上の正社員化は、ほとんど進んでいないことがわかっているのである(男女含め)。

 以下、いくつかの論文で確認されている証拠を紹介する。

【時系列でみた変化】
 ●働いている女性

  • 1985年の女性の労働力人口は2367万人、2015年は2842万人で、20.1%増。労働力人口総数に占める割合は、1985年の39.7%から、2015年は43.1 %に増加
  • 1985年の女性の就業者数は2304万人だったが、2015年は2754万人で、19.5%増
  • 1985年の女性の雇用者数は1548万人、2015年は2474万人で、59.8%増。雇用者総数に占める女性の割合は、1985年の35.9%から、2015年は43.9%でほぼ一貫して上昇傾向
  • 1985年の女性の一般労働者の平均年齢は35.4歳だったが、2015年は40.7歳に上昇

 ●女性の雇用形態

  • 1985年は女性の「正社員」994万人、「非正規雇用」470万人、2015年は「正社員」1043万人、「非正規雇用」1345万人。「正社員」は1985年比4.9 %増に対し、「非正規雇用」は186.2%増
  • 「非正規雇用」のうちもっとも多い「パート・アルバイト」は1985年比152.5%増
  • 23~34歳の未婚女性の「正社員」の割合は1988年は71%だったが、2016年には57%まで下落

【賃金格差】

  • 同じスキルを持つ個人が「正社員」から「パート・アルバイト」に転職すると、女性の場合、時間あたりの賃金が2割減る
  • フルタイム労働者の賃金格差は72.2(男性=100)
  • 先進主要国に比べ、日本の男女間格差は大きい。スウェーデン88.0、フランス84.9、アメリカ82.5、イギリス82.4、ドイツ81.1

【初職が非正規から正社員への移行】

  • 大卒男子は経過年数とともに正社員移行が進むが、女性については未婚に限定してもほとんど進展なし

「働く時間を選びやすいパートなどが増えている」のではない

 ……ふむ。実態を理解していただきたくて、少々数字を並べすぎてしまった。

 つまり、アレだ。これらを簡単に言うと……

 「30年間で女性が働くのって、結構当たり前になったけど、非正規ばっかじゃん。3倍近くに増えてるってすごいよね~~。

 しかも、未婚で非正規の女性が半分近くいるって、大丈夫かな。せっかく大学出ても正社員かどうかで稼ぎも変わってくるってことでしょ?

 年収300万と240万じゃ、えらく違うよ~~。非正規はさ、給料あがらないし~~、結婚したくても男の人も大変だしさ~。これじゃあ、子どもなんか増えるわけないよね~~」

ってことだ。

 さらに、一橋大学名誉教授の大橋勇雄先生が「非正規雇用が増えた原因」について分析したところ、労働力の構成変化で説明できるのは36%程度で、企業の政策変化の影響が43.0%~46.3%と大きいことがわかった。

 具体的には、企業が女性パートタイマーの基幹化を進めたことが主たる原因であり、女性の労働市場参加で説明できるのは全体のわずか16.7%で、マスコミで指摘されるほど影響は大きくないと指摘。

 冒頭で引用した新聞記事の「働く時間を選びやすいパートなどが増えている」という文言は、イメージでしかないのである。

誰もが「下」に落ちるリスクを抱えている

 もし、「すべての女性を輝かせたい」のなら、非正規の女性たちの不安定さをいかに解決するかが大きな課題であることは、以上のいくつもの分析結果から明白である。

 全世帯の4分の1が単独世帯で、おそらくこれからますます増えるに違いない。

 貧困世帯率は男性単独世帯38.6%、女性単独世帯にいたっては59.1%。18歳未満の子と1人親の世帯に限ると貧困率は54.6%と半分を超える。

 単身女性の貧困の解消には、給与の男女格差の雇用格差の是正が求められるのは言うまでもない。

 ところが、先の「男女共同参画基本計画」では、以下の文言はあるが、具体的な数値目標や政策は記されていない。

――非正規雇用労働者やひとり親等、生活上の困難に陥りやすい女性が増加している中で、公正な処遇が図られた多様な働き方の普及等、働き方の二極化に伴う諸問題への対応を進めるとともに、困難な状況に置かれている女性の実情に応じたきめ細かな支援を行うことにより、女性が安心して暮らせるための環境整備を進める。――

 きめ細かな支援? 美しい言葉だ。

 これでは何年たっても「女性活躍」が進まなくて当たり前だ。

 本来、社会問題は科学的根拠に基づいた政策(Evidence-based policy)で解決すべき問題であり、政府が強調する「数字」だけをメディアが取り上げるのは愚劣の極み。その結果、救うべき集団が切り捨てられているのだ。

 「上」に立つ指導的地位の女性を増やすことがいっこうに進まないのも問題だが、非正規のシングル女性を減少させない限り、キラキラの未来は絶対にこない。

 誰もが「下」に落ちるリスクを抱えているのが、今の社会だ。

 20年には大人の10人に8人は40代以上、10人に6人は50代以上だ。

 政策の手立てにすべき貴重な分析は存在するのにそれを生かさない。日本の偉い人たちは、いつになったらファクトをみてくれるのだろうか。

 「人生100年時代を見据え、全世代型の社会保障制度へと大きく改革を行う」とは、

 「荒波に耐えて生きろ!」というメッセージにしか聞こえないのは、私だけだろうか。

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