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 新築の住宅や建築物の省エネ基準への適合義務化は、厳格には進めない――。国土交通省が2018年12月3日に開催した社会資本整備審議会建築分科会建築環境部会の会合で示した「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第2次報告案)」は、そんな慎重姿勢を浮き彫りにした。

国土交通省が2018年12月3日に開催した社会資本整備審議会建築分科会建築環境部会(写真:日経 xTECH)
国土交通省が2018年12月3日に開催した社会資本整備審議会建築分科会建築環境部会(写真:日経 xTECH)
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 政府のエネルギー基本計画では、20年までに新築の住宅や建築物の省エネ基準への適合義務化を段階的に進める方針を示してきた。しかし、建築物や住宅の生産プロセスに関わる団体、有識者の意見を集約するなかで、特に住宅については、省エネ基準への適合義務化で配慮を求める声が大きくなっていた。

 今回示した報告案では、建築物省エネ法に基づく省エネ基準への適合義務の追加対象を住宅以外の中規模建築物に絞ることが適当と結論付けた。中規模建築物とは延べ面積が300m2以上2000m2未満の建物を指す。現在は延べ面積2000m2以上の大規模建築物(住宅を除く)が適合義務化の対象となっている。

 住宅を除く中規模建築物が新たな義務化対象に適していると判断したのは、下記のような理由に基づく。まずは、省エネ基準への適合率が既に91%と高い水準にある点だ。これに加え、新築件数に占める割合が2.8%であるものの、合計エネルギー消費量に占める割合が15.9%に及び、対策の効果を期待しやすい点を掲げた。

建物種別 大規模 中規模 小規模
住宅 60% 57% 60%
建築物(住宅以外) 98% 91% 69%
2016年度における省エネ基準への適合率。大規模は延べ面積2000m2以上、中規模は延べ面積300m2以上、2000m2未満、小規模は延べ面積300m2未満。適合率は面積ベースで算定している(資料:国土交通省)

 中規模建築物は、大規模建築物に比べて数が多い。それでも、所管行政庁などでの審査対応が可能な範囲だと見立てた。既に届け出制度の対象となっており、省エネ基準などの浸透度も高いとみた。省エネ基準に適合させるために必要な追加投資が、光熱費の削減効果によって約10年で回収できる点も評価した。

 一方で、住宅と延べ面積が300m2未満の小規模建築物については、基準への適合義務の対象に加えることに慎重な表現となった。その理由として次のような項目を挙げている。

 まずは省エネ基準への適合率が57~69%と比較的低い水準にとどまっている点だ。この数字で義務化を図ると市場の混乱を招く恐れがあると説明している。そして、省エネ基準を満たすために必要な追加投資を光熱費の削減によって回収できる期間が、14~35年と長期にわたる点を問題視した。

 加えて、省エネ基準などに習熟していない中小規模の工務店、設計事務所がまだ多く存在する点や、新築件数が多いために義務化に伴う審査体制などを整えにくい点を列挙した。19年10月に予定される消費税の税率引き上げの影響も踏まえ、住宅投資への悪影響を懸念する意見にも配慮している。