こんにちは、千葉功太郎です。12月20日にホンダのビジネスジェット機「HondaJet Elite(ホンダジェットエリート)」の国内初の個人オーナーになることを発表しました。それに先立ち、ホンダジェットの米国本社にて、特別な許可をいただいた上で副操縦席に座って飛行する体験をしたので、日本初となる副操縦席からの試乗レビューをお届けしたいと思います。

国内初納入のセレモニーが12月20日に開かれた
国内初納入のセレモニーが12月20日に開かれた

夢の国内1号機

 ホンダジェットとの出会いはテレビCMでした。日曜日の夜にテレビを見ていると、ONE OK ROCKの「Change」をBGMに、赤い美しい機体が街の中から離陸するCMが流れてきました。まさにため息が出るような美しさでした。まさか、テレビCMを見て飛行機を買うことになるとは思いもしませんでしたが。

 今年6月には、新型のホンダジェットエリートが発表され、同時に日本国内でも販売を始めるというニュースが飛び込んできました。ホンダジェットは米国を中心に海外で飛ぶように売れて、小型ビジネスジェット機の市場で世界首位になっていましたから、日本上陸のニュースにはワクワクしかありませんでした。Facebookにそんなワクワクした気持ちを投稿したところ、様々な方のご縁をいただき、結果としてなんと日本1号機を買うことになってしまったのです。

自分で操縦してみたい

 私は個人投資家としてスタートアップ企業への投資支援活動を行っています。特に空に関する分野では、Drone Fundの代表パートナーとして、ドローンや空飛ぶクルマ、エアモビリティ関連分野での投資を国内外で行っています。

 そして何より空にハマってます。今年、ホンダジェットを買うと心に決めてから、いつかは「ホンダジェットを自分で自由に操縦してみたい!」と思っていました。この夢を実現するために、自家用航空免許の取得に向けた訓練をスタートしました。練習用に小型練習機も個人で買って(意外と安くて車の値段くらい)、元航空自衛隊の訓練教官と毎週4〜5時間ほど飛行訓練をしてます。実際に飛行訓練すると、日々、新しい発見があります。

訓練用に購入した飛行機と訓練中の風景
訓練用に購入した飛行機と訓練中の風景

 今はまだ「自家用機パイロット訓練生1年生」くらいですので、基本的な離陸や飛行、着陸など、ひたすら基礎訓練を続けています。しかし実際にパイロットシートで操縦桿を握り、大空を立体的に飛ぶ爽快感と開放感は、今まで乗ったどんなクルマより、どんな乗り物より、エキサイティングな経験でした。

 12月14日には、米国のホンダジェット本社(ホンダエアクラフトカンパニー)にて引き渡しセレモニーを開いてもらいました。

引き渡しセレモニーの様子
引き渡しセレモニーの様子

 ちなみに、日本納入後の「ナンバープレート」となる機体番号も日本1号機にちなんで「JA01JP」にしました。

 このセレモニーに合わせて、ホンダジェットのコックピットを体験する機会をいただいたのです(ただし操縦は禁止、座っているだけ)。セレモニーには着物と下駄で参列したのですが、ホンダジェットの副操縦席には不向きでした(笑)。

着物姿で副操縦席に
着物姿で副操縦席に

まるで空飛ぶスポーツカー

 まず驚いたのがジェットエンジンをONにしたのに音が全く聞こえないこと。まるで高級車のような静かさです。機長がおもむろに滑走路に向けて移動開始した際に「あれ?エンジンかけてないのに、モーターか何かで動かしてるの?」と勘違いしたほどでした。そしていよいよ滑走路からの離陸です。

 あいにくこの日のシカゴは雨でしたが、機長がフルスロットルにした瞬間に、スリップすることもなく、すぐに離陸速度である110ノット(時速204km)に達して、ふわりと軽くテイクオフ。スムーズ!

 ホンダジェットと並行して開発された双発ジェットエンジンから放たれる圧倒的なパワーと共に、毎分4000フィート(約1220m)以上というとんでもない速度(僕の練習機は1分間に500フィート上昇するのでいっぱいいっぱい)で、スムーズに上昇。あっという間に最大高度43000フィート(約13100m)、最大速度422ノット(782km/h)に到達しました。まるで空飛ぶ「スポーツカー」です。最大航続距離は約2661kmと、この機体クラスとして最長。東京から上海まで飛ぶことが可能です。

 43000フィートという圧倒的な高さからの景色は、宇宙を感じる深い青の空と、下に広がる白い雲海。これが個人所有の小さな飛行機で実現しているなんて夢の世界です。

 飛行計器には様々な最新機能が搭載されていますが、特に便利なのは、25マイル以内を飛んでいるほかの飛行機をリアルタイムで、高度差とともに映し出す機能。画面の黒いダイヤマークが近くを飛ぶ飛行機の位置。数字は100フィート単位の自機との高度差。例えば「+48」とあれば、自機より高度4800フィート(約1460m)上方に、その飛行機が飛んでいるという意味です。とてもわかりやすい!

 一般的な旅客機は、高度35000フィート(約1万m)くらいを飛行します。最大高度43000フィート(約13100m)のホンダジェットは一般的な旅客機よりもかなり高いところを巡行するため「ぶつかるかも」という心配がありません。

 上の映像は2000フィートの高度差で旅客機とすれ違った様子を撮影したものです。お互いに時速800kmくらいですれ違っていますので、相手の飛行機はまるでロケットのように見えます。とてもじゃないですが、目で捉えてから逃げるというレベルではありません。

 また空気が薄い場所を飛ぶため、風切り音もなく「とても静か」なのも特徴です。諸元スペック表だけでは分からない、藤野道格社長のこだわりがここにありました。

 また、圧倒されたのは、安定性。小さな機体にもかかわらず、着陸時に機長がマニュアルモードで操縦桿を操作しても、横風の影響や振動などを全く感じることなく、レールの上を飛んでいるかのように滑走路を目指し、下降します。

 機長も「オートパイロットをOFFにしても、これだけ安定しているのがホンダジェットの特徴なんだ。驚くよね」と話していました。

 着陸のための減速は主翼のフラップだけでなく、F1カーに搭載されているような尾翼下の「エアブレーキ」でも行うため、とてもスムーズです。目的地の空港の近くまで速い速度で巡行し、一気に減速して着陸できるので、飛行時間の短縮にも役立ちます。

 そしてなんといっても、この機体デザインの美しさ。ほかの小型飛行機では感じることができません。流線型であるだけでなく、イルカなど海の動物のような筋肉質な立体的曲線と、筋の通った鼻先、そして翼に上にあるエンジン、そのすべてのバランスが美しいのです。

 ちなみに、国内1号機として選んだ機体カラーは新色の「Ice Blue」です。

日本の「ジェネラル・アビエーション」

 私は今回、日本初の個人所有オーナーになるにあたり、日本では個人所有のジェット機を日常の移動で使うような文化も仕組みもルールもないという壁にぶつかりました。飛行機を買ったとしても、日常使いできないのです。

 「General Aviation(ジェネラル・アビエーション)」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。私たちが普段乗っている商業旅客機の逆で、一般個人が所有する飛行機及び運行の総称です。アメリカやヨーロッパでは当たり前のように個人が飛行機を所有し、空での移動を生活に活用しています。一方、日本には「General Aviation」文化が存在しないがゆえに、飛行機を置く場所を見つけることも、離発着手続きも、パイロットの養成も、非常に困難です。私がホンダジェットの購入を決めたのは、日本の「General Aviation」をオープンにしていきたいと強く思ったためでもあります。

 私自身は仕事であるDrone Fundを通して、「ドローン・エアモビリティ前提社会」の構築を目指しています。東京や世界の空を、たくさんの自動運転ドローンや空飛ぶクルマが、当たり前のように飛び交う近未来社会です。10年以内に実現させます。

 ホンダジェットのような小型航空機による「General Aviation」が普及し、さらに空飛ぶクルマが実現すると、日本全体が一つの都市圏になります。都市間移動に使うホンダジェットのような「リージョナルモビリティ」、都市内や地域の中での移動に使う「ローカル・アンド・アーバンモビリティ」が普及すると、日本中の全ての「点」と「点」を空でつなげることができ、個人が最短最速で移動できる未来社会が実現するのです。

 世界最初の国際定期航空郵便輸送が始まったのは1918年。
 旅客輸送専用に作られた航空機が初飛行したのは1919年。
 日本の中島式四型6号機が完全な飛行に成功したのも1919年です。

 それから100年後の2018年に、日本のホンダジェット国内1号機が実現しました。2018年12月20日は、日本の「空の移動革命Day1」だと確信しています。新しい経済、新しい社会をみなさんと加速させていきたいと思っています。

 最後にホンダエアクラフトカンパニーの藤野社長をはじめとした開発チーム、そして全ての関係者の皆様に、日本1号機納入のお祝いと貴重なファーストオーナーの機会を頂けたことへの御礼申し上げます。ありがとうございました。

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