天然ガスは期待したほどクリーンでなかった、研究

カーボンニュートラルへの橋渡し? しかし過大評価だったかもしれない

2020.02.21
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メタンガスは、自然に地面から吹き出すものもあれば、石炭や石油、天然ガスの採掘で漏出するものもある。新たな研究により、大気中の化石燃料産業によるメタンガスが、従来考えられていたよりも多いことが示された。(PHOTOGRAPH BY KATIE ORLINSKY, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
メタンガスは、自然に地面から吹き出すものもあれば、石炭や石油、天然ガスの採掘で漏出するものもある。新たな研究により、大気中の化石燃料産業によるメタンガスが、従来考えられていたよりも多いことが示された。(PHOTOGRAPH BY KATIE ORLINSKY, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 2015年の夏、ベンジャミン・フミエル氏らの研究チームは、グリーンランドの氷床に深い穴を開け、氷のサンプルを掘り出した。この氷には、長らく科学者を悩ませてきた、ある問いに対する答えが隠されていた。その問いとは、「大気中のメタンのうち、天然ガスや石油といった化石燃料産業から排出された量はどれくらいか?」というものだ。メタンは、最も強力な温室効果ガスの1つである。(参考記事:「石油・ガス産業が直面するメタン問題」

 これまでは、大気中に毎年放出されるメタンの約10%が、火山などの地質学的発生源に由来すると考えられてきた。だが2月19日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された論文によると、自然に放出される地質由来のメタンの割合は、それよりも大幅に少ないことが示唆された。その分、産業由来の排出量が従来の推定より多いと研究者は考える。今回の論文では、化石燃料由来のメタン排出量は最大40%も少なく見積もられていたとしている。

 これは気候変動と闘ううえで不都合だが、好都合でもあると、論文の著者である米ロチェスター大学の研究者のフミエル氏は言う。不都合だというのは、石油や天然ガスの生産が、これまでの推定よりも多量の温室効果ガスを排出していたという点だ。一方、好都合なのは、人間の活動によるメタンの排出なら、様々な対策のしようがあるからだ。

「大気中のメタンの総量を1枚のパイと考えると、一つのピースは反芻動物(ウシなど)によるもの、もう一つのピースは湿地由来のもの……と分けられます。これまでは地質由来のメタンに割り当てられたピースが大きすぎたのです」と氏は話す。「つまり、化石燃料由来のピースは、思ったより大きいのです。そして私たちは、その大きなピースに対して、より大きな影響力をもっています。私たちが制御できるものだからです」(参考記事:「木がメタンガスを放出、温暖化の一因、証拠続々」

CO2より強力な温室効果ガス

 強力な温室効果ガスであるメタンは、炭素に4つの水素が結合した分子で、特に熱を吸収しやすい。メタンが大気中に熱を閉じ込める効果は、20年間のタイムスケールで比べると二酸化炭素(CO2)のおよそ90倍に上るため、長期的な地球温暖化の鍵を握っていると言える。

 大気中のメタン濃度は、産業革命以前に比べ、少なくとも2.5倍に増加している。温室効果が強力なため、大気中のメタン濃度が高くなるほど、地球の気温上昇を国際的な目標以下に抑えるのが難しくなる。(参考記事:「パリ協定の目標を達成できる国はわずか、報告書」

 また、メタンの由来をめぐる謎は、世界中の科学者を何十年も悩ませてきた。今の温暖化を引き起こしている過剰なメタンは、正確にはどこから来たのだろうか? ウシのげっぷや水田から発生したものか、それとも石油や天然ガスを生産する際に漏れたものか? あるいは泥火山や断層、プレート境界から吹き出したものなのだろうか?(参考記事:「温暖化に朗報か メタン排出少ないウシの秘密解明」

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