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 「植木梁(うえきばり)」と聞いて、ピンと来る人は少ないはずだ。建築家の藤原徹平氏は江戸と東京の道や庭の歴史をリサーチするなかで、植木鉢の魅力に引かれていった。そこから生まれたのが、植木鉢を載せた梁(はり)を意味する植木梁だ。藤原氏の造語である。

植木鉢を載せた梁(はり)を意味する「植木梁」。藤原徹平氏の造語だ(写真:北山 宏一)
植木鉢を載せた梁(はり)を意味する「植木梁」。藤原徹平氏の造語だ(写真:北山 宏一)
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 藤原氏が設計したパビリオン「ストリート ガーデン シアター」は、東京・青山の旧こどもの城の入り口に設置された岡本太郎の作品「こどもの樹」を囲むようにつくった階段状の建築物だ。随所に植木鉢が置かれ、様々な植物がこの場所で育ち、姿かたちを変えていく。

 大きな木の梁に穴を開けて、そこに植木鉢をはめ込む。このディスプレー方法がまず面白い。

 植木鉢の脇を人が上り下りしたり、ベンチに腰掛けたりできる。多くの人が行き交う青山通り(国道246号)沿いに出現した、緑あふれるオアシスのようなパビリオンになっている。

藤原氏が設計したパビリオン「ストリート ガーデン シアター」の頂上から青山通りを見下ろす(写真:北山 宏一)
藤原氏が設計したパビリオン「ストリート ガーデン シアター」の頂上から青山通りを見下ろす(写真:北山 宏一)
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ストリート ガーデン シアターの全体像。岡本太郎の作品「こどもの樹」を取り囲むようにパビリオンを設置した(写真:北山 宏一)
ストリート ガーデン シアターの全体像。岡本太郎の作品「こどもの樹」を取り囲むようにパビリオンを設置した(写真:北山 宏一)
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 都内9カ所に、著名な建築家やアーティストが手掛けるパビリオンを建てるプロジェクト「パビリオン・トウキョウ2021」が、2021年7月1日に始まった。東京五輪に合わせて文化面から東京を盛り上げるプログラム「Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13」の1つとして、東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、パビリオン・トウキョウ2021実行委員会が主催するイベントである。

 会期は21年7月1日から同年9月5日まで。企画はワタリウム美術館が担当している。参加するパビリオン・クリエーターは建築家の藤森照信氏、妹島和世氏、藤本壮介氏、平田晃久氏、石上純也氏、そして藤原徹平氏だ。さらにアーティストの会田誠氏と草間彌生氏である。また、真鍋大度氏およびRhizomatiksも特別参加している。藤森氏と妹島氏のパビリオンは、このコラムで紹介済みだ。

 ストリート ガーデン シアターは、大小2つのパビリオンからできている。どちらにも坂道や階段があり、自由に内部を歩き回れる。

ストリート ガーデン シアターは大小2つのパビリオンで構成。後方の建物が旧こどもの城。東京五輪期間中はボランティア拠点として使われる(写真:北山 宏一)
ストリート ガーデン シアターは大小2つのパビリオンで構成。後方の建物が旧こどもの城。東京五輪期間中はボランティア拠点として使われる(写真:北山 宏一)
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向かって左側の小さいパビリオン(写真:北山 宏一)
向かって左側の小さいパビリオン(写真:北山 宏一)
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右側の大きいパビリオン(写真:北山 宏一)
右側の大きいパビリオン(写真:北山 宏一)
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 藤原氏がこの場所を選んだのは、「東京の文化・芸能はストリートから生まれたものが多い。青山通りを『道の劇場』に見立てたい」と考えたからだ。「道」「庭」「劇場」の3つが、パビリオンを読み解くキーワードである。

 そしてここには、こどもの樹が立っている。「こどもの城が閉鎖され、こどもの樹の回りは仮囲いで覆われてしまった。もったいないと思っていた」(藤原氏)。こどもの樹の隣にパビリオンをつくれば、「普段は見ることができない高さから、ゆっくり眺められる。それも面白い」(同)。こどもの樹にある幾つもの顔を、真正面の高さから望める場所ができた。

 パビリオンを2つに分けたのにも理由がある。旧こどもの城の建物は東京五輪期間中、ボランティアの活動拠点になる。ボランティアの人たちは2つのパビリオンの間を抜けて、拠点に通う。そんな場所に植物の彩を添えた。ベンチに座って、一休みすることもできる。

建築家の藤原徹平氏(写真:パビリオン・トウキョウ2021)
建築家の藤原徹平氏(写真:パビリオン・トウキョウ2021)
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