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 経営者の高齢化や後継者の不在などを背景に、建設業界のM&A(合併・買収)が活況を呈している。経営不振に陥った企業の「身売り」や「救済」といったかつてのマイナスイメージは薄まり、事業承継や成長戦略を実現する有力な手段として注目する建設会社は多い。中小企業のM&A仲介を手掛けるストライク(東京都千代田区)の荒井邦彦社長に今後の見通しを聞いた。

M&A仲介を手掛けるストライクの荒井邦彦社長(写真:日経アーキテクチュア)
M&A仲介を手掛けるストライクの荒井邦彦社長(写真:日経アーキテクチュア)
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ストライクの集計によると、建設業界における2018年のM&A件数は33件(上場企業の適時開示を集計)。15年以降、年々増加しています。今後もM&A件数は順調に推移していくでしょうか。

 そのようにみています。今は企業が資金調達をしやすく、M&Aに踏み切りやすい環境です。当社が仲介を手掛ける中小企業のM&Aについても、データには表れませんが、かなりの件数があります。

 建設業界では「人材不足」がM&Aを考えるきっかけの1つになっています。資格者を採用できない、現場監督ができる人材が足りないといった理由から、同業他社の買収を考えるケースがみられる。この他、新たな商圏の獲得を目指すケースも多いですね。

 建設業界には、まだまだ再編の余地が残されていると思います。市場規模を見てみると、建設投資は1992年の約84兆円をピークに半減しました。この数年でこそ、東日本大震災の復興需要などで再び50兆円台に乗せたものの、当時からすれば市場規模は大幅に縮小したのです。その割に、企業数は2000年のピーク時から2割程度しか減っていませんから。

 また、足元の建設市場は活況を呈していますが、長期的に見れば国内のマーケットは縮んでいくはずです。そのような市場で成長戦略を描くのであれば、M&Aは有力な選択肢になるでしょう。

建設業界のM&A件数の推移。上場企業の適時開示を集計した。2015年以降、増加傾向が続いている。19年は上期(資料:ストライクの資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
建設業界のM&A件数の推移。上場企業の適時開示を集計した。2015年以降、増加傾向が続いている。19年は上期(資料:ストライクの資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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建設業界には、後継者の不在に悩む経営者が多い。売り手側の企業が、事業承継にM&Aを利用する動きが盛んです。

 そうした動きは当面続くでしょう。当社の18年8月期の仲介実績は88組ですが、その5~6割が事業承継です。後継者の不在に悩む企業をM&Aで引き継ぎ、自らの成長につなげていく企業と、M&Aから距離を置く企業では成長の速度に差が出ると思います。

 M&Aで成長戦略を描こうとするのであれば、「買い手」として選ばれる努力が大切です。売り手側は自分の会社をどういう相手に任せたらいいか、真剣に考えている。M&Aというと、どうしても売買価額などに注目が集まりがちですが、会社を売る立場からすると、金額だけでなく信頼できる相手を選ぶことが重要なのです。

 買収した企業の社員を大切にする買い手は売り手から信頼されますし、仲介する我々からしても安心感がある。もちろん、経営状態を良好に保つことも信頼を得るうえで重要です。

1つの売却案件に対して、複数の買い手が名乗りを上げることは多いですか。

 多いです。当社はウェブ上に売却案件を掲載していますが、良さそうな会社が出ていると、掲載日に30~50社から問い合わせが来ることも珍しくはありません。そういう意味でも、買い手は売り手に選ばれる立場だと言えるでしょう。