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 2018年7月の西日本豪雨に伴う土砂崩れで道路と鉄道が寸断され、一時は孤立状態になった広島県呉市。広島市へとつながる道路が緊急復旧した後も、呉市民の多くは普段の生活を取り戻せていなかった。通勤や通学で使う道路に慢性的な渋滞が発生し、安定した交通手段を確保できなかったからだ。

西日本豪雨で多くの道路や鉄道が寸断されたため、先に復旧した国道31号では渋滞が慢性化。通常は車で1時間ほどの広島市―呉市間が、3時間以上かかるケースもあった。県などは渋滞抑制のために公共交通の利用や相乗りを市民に呼び掛けた(資料:広島県)
西日本豪雨で多くの道路や鉄道が寸断されたため、先に復旧した国道31号では渋滞が慢性化。通常は車で1時間ほどの広島市―呉市間が、3時間以上かかるケースもあった。県などは渋滞抑制のために公共交通の利用や相乗りを市民に呼び掛けた(資料:広島県)
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 混乱する被災地で、1日も早い“市民の足”の回復に奔走した人物がいた。土砂災害によって一般車両が通行止めとなっていた有料道路「広島呉道路」の一部をバスに開放し、広島市―呉市間を定時運行させる「災害時BRT」を提案した呉工業高等専門学校の教授、神田佑亮だ。

 BRT(Bus Rapid Transit、バス高速輸送システム)とは、専用レーンなどを設けてバスで速く大量の人を運ぶ、バスと鉄道の中間に位置する交通システムを指す。交通工学や公共政策を専門とする神田は、18年7月13日に災害時BRTの運行を県や国土交通省に提案。その後の3連休の間に関係者間の調整を進め、翌営業日である17日の実現にこぎ着けた。

 「普段、電車で行くのと所要時間が変わらない」、「快適なバス旅。これなら車通勤やめるわ」――。災害時BRTの運行開始当日、利用者からは驚きの声が上がった。その日、災害時BRTはJR呉駅前からJR広島駅前までを平均50分程度で走った。同じ時間帯に国道31号経由で走ると渋滞で2時間以上かかるところを、半分以下に短縮していた。

 「交通の専門家として、自分にできることは何かを考え続けた」。神田は、災害時BRTの実現に向けて関係者間の調整役を買って出た理由をこう話す。

呉工業高等専門学校環境都市工学分野の神田佑亮教授(写真:日経コンストラクション)
呉工業高等専門学校環境都市工学分野の神田佑亮教授(写真:日経コンストラクション)
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