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 年間販売台数で同じ1000万台級のトヨタ自動車とドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)。だが、両社の電気自動車(EV)の普及に向けた積極性には、大きな温度差がある。この理由について、日産自動車出身でB3上級副社長の宮本丈司氏は自らの分析を、自動車用電池のシンポジウム「Advanced Automotive Battery Conference Asia 2019(AABC Asia 2019)」(2019年10月下旬に千葉県浦安市で開催)の中で披露した(図1)。

図1 日産自動車出身でB3上級副社長の宮本丈司氏
図1 日産自動車出身でB3上級副社長の宮本丈司氏
「AABC Asia 2019」で講演する様子。(撮影:日経 xTECH)
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 同氏によれば、その理由は2つある。1つは、欧州市場と中国市場への依存度の高さである。両市場は、いずれも環境規制が厳しい国・地域。欧州連合(EU)では2021年に新車の乗用車の平均二酸化炭素(CO2)排出量の規制値を95g/kmに強化する予定。加えて、2030年には同排出量を2021年比で37.5%減らすことで合意済みだ。

 95g/kmという2021年の規制値は、欧州の試験サイクルであるNEDC(New European Driving Cycle)モードを前提とした値である。2030年の規制値は、これを国際基準のWLTP(Worldwide harmonised Light vehicle Test Procdure)モードに換算し、37.5%減らした値になる見込みだ。ただ、現時点の比較のために95g/kmに対する37.5%減を計算しておくと59g/km。60g/kmを切る非常に厳しい値だ。

 この規制値がいかに厳しいかを物語っているのが、近年のEUにおける乗用車のCO2排出量の平均値である(図2)。EUでは2007年以来、2016年までは同平均値を着実に減らしてきたが、徐々に減少のペースは緩やかになり、2017年には前年比0.3g/km増の118.1g/km(NEDC)とついに増加に転じた。2018年は、前年比2.4g/km増の120.5g/km(同)とさらに同平均値を悪化させ、直近の4年間で最悪の値を記録している。

図2 EUにおける乗用車のCO<sub>2</sub>排出量の平均値の推移
図2 EUにおける乗用車のCO2排出量の平均値の推移
(出所:JATO Japan)
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 増加に転じた最大の要因は、VWの排ガス不正問題に端を発するディーゼル車離れだ。JATO Japanによれば、EUにおけるディーゼル車の販売成長率は、2017年には前年比8%減、2018年には同18%減。一方、ディーゼル車の同平均値はガソリン車のそれと比べて「3.2g/km低い」(JATO Japan)とされる(図3)。

図3 EUにおける乗用車の燃料タイプ別のCO<sub>2</sub>排出量の平均値
図3 EUにおける乗用車の燃料タイプ別のCO2排出量の平均値
AFVはAlternative Fuel Vehiclesの略で、代替燃料車のこと。(出所:JATO Japan)
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 EUのCO2排出量規制では、実際にはその規制値は車種構成や販売台数によって自動車メーカーごとに異なってくる。各メーカーは、課された規制値を1g/km超過するごとに、「95ユーロ×販売台数」の罰金を支払わなければならない。

 一方、国内で乗用車を3万台以上生産・輸入する自動車メーカーに対して、EVや燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)といった「新エネルギー車(NEV)」を一定比率販売することを義務付ける「NEV規制」を2019年1月から導入したのが中国だ。NEVの販売に応じて付与されるクレジットを、生産・輸入台数に対して2019年は10%、2020年は12%獲得しなければならない。

 所定の条件を満たしていることが条件だが、現状ではクレジットは大まかにはPHEVが2、EVが満充電時の航続距離によって2~5、FCVが5となっている。NEV規制を達成できなかった自動車メーカーは、クルマの販売制限という罰則を受けるか、同規制を達成した自動車メーカーから余剰分のNEVクレジットを購入して不足分を手当てしなければならない。

 しかも、同規制は年々強化される見込み。台湾・工業技術研究院の呂学隆氏によれば、2021~23年は獲得しなければならないクレジットは毎年2%ずつ上積みされていく案が出されている。付与されるクレジットを20~50%下げることも検討されており、さらに多くのNEVを販売する必要が出てくる可能性があるという。また、日本経済新聞の報道によれば、中国の工業情報化省は2019年12月3日、「新エネルギー車産業発展計画」の素案を公表、2025年にNEVが新車販売に占める比率を25%に引き上げる可能性を示唆している。