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外壁タイルで多く採用されているのは、張り付けモルタルによる直張りだ。剥離事例が多いとも言われる。外壁タイルに詳しい学識者と経験豊富な調査会社に取材し、直張りで剥離を招く施工原因をまとめた。

 外壁タイルを張り付けモルタルで直張りした施工で多く見られる剥離箇所は、コンクリートとモルタルの界面だ。なぜここで生じるのか、福岡大学元教授の古賀一八氏は次のように解説する。「モルタルがコンクリートやタイルに拘束された状態で伸縮すると、伸縮特性の異なるコンクリートとの界面でせん断破壊が発生する。それが剥離だ」〔図1

〔図1〕界面がせん断破壊する
〔図1〕界面がせん断破壊する
コンクリートに張り付けモルタルで直張りしたタイルが、コンクリート界面で剥離するメカニズム。接着面がせん断破壊して剥離が生じる(資料:古賀 一八)
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 コンクリートの上にモルタル下地を追加する「モルタル下地張り」や、柔らかい接着剤を用いる「有機系接着剤張り」は、コンクリート界面で生じる応力が緩和されるので、直張りよりは剥離が生じにくくなる。

 外壁タイルの剥離を招く代表的な8つの原因を以下に解説する。

 下地の不適切な施工で多いのが、コンクリート面に施す目荒らしの不足だ〔写真1〕。椀状の研磨道具で行うカップ掛け、切削キズが粗く浅い不十分な超高圧水洗浄などが一例だ。日本建築学会の「建築工事標準仕様書・同解説JASS19陶磁器質タイル張り工事」では、吐水圧150~200N/mm²の超高圧水洗浄とMCR工法を例示し、超高圧水洗浄では切削キズを試験見本で示した密度や深さにすると規定している。

原因1 目荒らし
〔写真1〕切削キズが粗く浅い
〔写真1〕切削キズが粗く浅い
多くの鉄筋コンクリート工事で使われている塗装合板型枠(写真:古賀 一八)
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塗装合板型枠で打設した平滑なコンクリート表面と、カップ掛けした不適切な目荒らしの例(写真:古賀 一八)
塗装合板型枠で打設した平滑なコンクリート表面と、カップ掛けした不適切な目荒らしの例(写真:古賀 一八)
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超高圧水洗浄で目荒らしをしていたが、外壁タイルが剥離した例。超高圧水洗浄の特徴であるループ状の切削キズが付いていたが、粗くて浅かった。剥離後に実施した引っ張り試験の強度はゼロだった(写真:鈴木哲夫設計事務所)
超高圧水洗浄で目荒らしをしていたが、外壁タイルが剥離した例。超高圧水洗浄の特徴であるループ状の切削キズが付いていたが、粗くて浅かった。剥離後に実施した引っ張り試験の強度はゼロだった(写真:鈴木哲夫設計事務所)
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 下地ではコンクリート面に施す吸水調整材の塗り忘れと塗り過ぎも剥離原因になる〔写真2〕。塗り忘れはモルタルに含まれる水が下地に吸われて硬化不良(ドライアウト)を招く。塗り過ぎは接着力を低下させてしまう。不陸調整モルタルに張り付けモルタルを重ねる場合も、不陸調整モルタル面に吸水調整材が必要だが、塗り忘れが少なくない。

原因2 吸水調整材
〔写真2〕塗り忘れも塗り過ぎも施工不良
〔写真2〕塗り忘れも塗り過ぎも施工不良
剥離した張り付けモルタル面。吸水調整材が塗られていなかったため、水をかけると吸水した(写真:古賀 一八)
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吸水調整材を塗り過ぎていたコンクリート面を、トーチバーナーであぶっている様子。塗膜が厚い箇所は、濃い茶褐色になった(写真:鈴木哲夫設計事務所)
吸水調整材を塗り過ぎていたコンクリート面を、トーチバーナーであぶっている様子。塗膜が厚い箇所は、濃い茶褐色になった(写真:鈴木哲夫設計事務所)
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 吸水調整材の塗布状態を確認する方法として鈴木哲夫設計事務所が実践しているのは、トーチバーナーで塗布面をあぶった色による判定だ。塗り過ぎの場合は、濃い茶褐色に変化する。

 モルタルの塗厚不足も注意が必要だ〔写真3〕。不陸調整モルタルの場合は硬化不良を起こしやすくなる。張り付けモルタルの場合はタイルの裏足にモルタルが十分充填されず、接着不足になる。

原因3 薄塗りモルタル
〔写真3〕接着不足や硬化不良が生じる
〔写真3〕接着不足や硬化不良が生じる
タイルが剥離した箇所の張り付けモルタル。張り付けモルタルの塗り厚が不足していた箇所に、黒い目地モルタルがはみ出した跡が残っている(写真:古賀 一八)
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塗り厚が不足していた不陸調整モルタル。硬化不良が発生していたため、ドライバーで引っかくと容易に削れた(写真:さくら事務所)
塗り厚が不足していた不陸調整モルタル。硬化不良が発生していたため、ドライバーで引っかくと容易に削れた(写真:さくら事務所)
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