吉本興業グループが、地方創生の取り組みに拍車を掛けている。2021年11月1日には、吉本興業ホールディングス(HD)と岩手県紫波町、同町のまちづくりなどを手掛けるオガール(岩手県紫波町)が包括連携協定を締結した。同日明らかにされた提携の狙いと新プロジェクトの概要を2回に分けてリポートする。
吉本興業ホールディングス(HD)、岩手県紫波町、オガール3者連携の下、教育事業「ノウル プロジェクト」が始動する。21年度末に閉校する紫波町立小学校の跡地を活用。高校生や社会人を対象とし、地域の農業と連携する技能やビジネスを実践的に教える場をつくる。
高校生向けには、吉本興業グループが既に持つ通信教育のプラットフォームを併用する。また、新会社として吉本興業、オガール、岡崎建設(岩手県紫波町)の3者による「吉本・オガール地方創生アカデミー」を設立。公民連携による地方創生事業に先駆的に乗り出して15年になるオガールの実績に基づき、宿泊事業や住宅事業などの実践を教育内容に含むものとする。
既に21年9月には紫波町が、「町有財産活用事業(長岡小学校)」の優先交渉権者にオガールを選定。土地面積1万5183m2の物件に貸付予定期間50年を設定した事業として、23年4月の開校を予定する。
地方創生の”本丸”として教育事業に踏み込む決意
プロジェクトの目的には、「持続可能な地方創生の実現」を掲げている。高齢化や若い人材の流出、産業・雇用の縮小といった課題の解決に「教育」の面から取り組み、いずれは同様の悩みを抱える全国各地に展開するビジョンを持つ。11月1日には東京都新宿区の吉本興業HD東京本部で連携協定の締結式を行い、関係者が、連携に至る経緯や事業に対する思いを語った。
紫波町で展開されてきた民間主導による公民連携の発展形として、3者の連携は下記のような関心を呼ぶはずだ。順にみていく。
「吉本興業+紫波町・オガール」連携の理由
1)なぜ吉本興業が地方の小都市と組むのか?
2)農業と連携し、どう地方創生を図るのか?
3)教育事業がまちづくりにどう関係するか?
1)なぜ吉本興業が地方の小都市と組むのか?
地方に目を向けた吉本興業グループの取り組みとしては、11年開始の「あなたの街に“住みます”プロジェクト」が知られる。47都道府県にエリア担当社員と芸人が住み、地域密着型の芸能活動を積み重ねてきた。さらに、22年3月に開局するBS放送局では、ほぼ全ての番組を全国の市町村を紹介するものとし、地方創生型の放送事業として始動させると決めている。
一方、人口3万3000人の紫波町は、JR紫波中央駅前10万7000m2の遊休町有地の活用に、民間主導型の公民連携を導入。07年にプロジェクトに着手し、図書館や産直施設、飲食施設、宿泊施設、バレーボール専用体育館、町役場などを建設した。オガール代表取締役の岡崎正信氏が「PPPエージェント」と呼ばれる自治体の代理人の役割を果たし、それぞれの事業を推進してきた。
吉本興業と紫波町・オガールをつなぐ存在として、地域再生プロデューサーの清水義次氏(アフタヌーンソサエティ代表取締役)がいる。共同記者発表会では、トークセッションのゲストとして登壇した。
清水氏は、2000年代に吉本興業HD東京本部の新宿区誘致に関わった。現在は、吉本興業グループの地方創生の取り組みにアドバイザーとして協力している。吉本興業HDの大崎洋代表取締役会長と坪田塾の坪田信貴塾長(『ビリギャル』著書)による20年発行の共著『吉本興業の約束〜エンタメの未来戦略』(文春新書)のワンパートに清水氏がゲストとして登場し、一連の取り組みを紹介している。
同書の中で詳しく紹介されたのが、紫波町における公民連携事業だった。清水氏は、オガールの岡崎氏が社会人として東洋大学で公民連携を学んだ際の指導教員の1人で、「オガール」プロジェクトではデザイン会議の座長を務めてきた。その縁で大崎会長と岡崎氏、熊谷泉・紫波町長が出会い、町長が小学校の跡地活用に対する協力を呼び掛けたという経緯がある。
岡崎氏は、「全ては、『吉本興業の約束』という本から始まった物語だ。関係者の協力のたまもので、大崎さんたちに紫波町にお越しいただいてから、たった1年でここまで来た。重い務めであることは重々承知している。日本の教育に選択肢を与えられるような事業に仕上げていきたい」と語った。