「行き場を失うシュレッダーダストが心配だ」。廃棄物処理やリサイクルサービスを手掛けるリーテムの中島賢一相談役は顔を曇らせる。

国内で廃棄物余りが顕在化

 中国の習近平政権は昨年7月、一部の廃棄物の輸入停止を世界貿易機関(WTO)に通告。8月に輸入の禁止や制限をする廃棄物の目録を公表した。雑品スクラップに該当するものも、異物混入率を基準に輸入を厳しく制限することが明らかになった。

 産業用機械や家電、電子機器などが雑多に混じる「雑品スクラップ」。昨年まで、中国に年間約150万~200万t輸出されていた。未解体の機器を含むスクラップには鉄や銅などの金属、製品の筐体やケーブルの被覆に使うプラスチック、鉛やカドミウムなどの有害物質が混在する。

 今年、中国の事業者に許可する雑品スクラップ輸入量は約100万tに絞られるという。輸入制限は昨年12月末から。前後して輸出が激減した。

 残る約100万tのスクラップは国内循環させなくてはならない。リサイクル工場のシュレッダーで粉砕し、鉄などの有用な資源を回収する。その後に残るのがプラスチックやゴムが主体のシュレッダーダストだ。ざっと見積もって排出量は年間約30万t。中島相談役が案じるのは、これを国内の設備で処理しきれないからだ。

 シュレッダーダストは、廃棄されたクルマの処分過程からも出る。国内で適正処理するための仕組みが整っている。ところが、これまで中国に頼り切り、輸出されていた電気製品由来のダストを引き受ける設備の余裕がない。

 行き場を失った廃棄物は、単に焼却するか、埋め立て処分するしかない。業界では早くも廃棄物処理業者が便乗値上げをする動きもあり、野積みのまま放置されたり、場合によっては不法投棄されたりする事態も起こりかねない。「環境立国」を標榜してきた日本の資源循環システムに、危機が迫っている。

 かねて米国などが大量輸出する「E-waste(廃電気電子機器)」が中国で不適切に投棄され、現地の環境汚染や健康被害が指摘されてきた。中国による規制の導入は想定できたことだ。廃棄物を大量に飲み込んできた中国が不在となった今、日本の資源循環を立て直す必要がある。

中国・浙江省にある金属スクラップ処理現場の様子。地面に直に置かれた金属ゴミを作業員が手選別している (写真:大橋信胤)
中国・浙江省にある金属スクラップ処理現場の様子。地面に直に置かれた金属ゴミを作業員が手選別している (写真:大橋信胤)

 中国政府は2016年に始まった第13次五カ年計画で廃棄物の輸入規制に言及。4月には、習近平国家主席を長とする委員会が輸入ゴミの規制強化と廃棄物の輸入管理制度の案を公表した。

 同時期、環境行政を担う環境保護部が輸入廃棄物の加工業者による環境汚染などの違法行為を摘発。全国約1800社に立ち入り、約1070社で環境モニタリングの不備や不適切な廃棄物保管などを指摘した。一部の事業者は、事業に必要な許可証が取り消されたという。

 今回輸入を禁じた主な品目は、生活由来とされる使用済みの廃プラスチックや未選別の紙ゴミ、紡績原料の廃棄物、廃金属くずなどだ。鉄や銅、鉛、カドミウムを含むスクラップ、エアコンや洗濯機、複合機、電話、蓄電池やプリント基板なども輸入基準が厳しくなる。

中国が海外のゴミを締め出したワケ

 中国が規制強化に踏み切った目的は、国民の健康と環境の保護、そして国内の廃棄物処理体制の確立だ。

 現地では、野積みされた雨ざらしの廃棄物から労働者が手で金属類やプラスチックなどの資源を選り分ける。その過程で電子機器の水銀や鉛、カドミウムなどの有害物質などが飛散し、大気や土壌、地下水の汚染や健康被害も生じている。

 米国などの分別の粗い廃棄物は、市民の不満の的になってきた。異物が多くリサイクルしきれずに焼却され黒煙を上げたり、河川に投棄されたりする光景が目に付くという。「習政権には、健康被害や環境破壊に終止符を打つ規制方針を示すことで、国民の支持を得る狙いもありそうだ」とNTTデータ経営研究所の王長君マネージャーは話す。

 規制により中国の製造業は安価な原料を失う。習政権は不足を賄うため、国内で生じる廃棄物の回収とリサイクル産業を強化する。7月、国務院が発表した廃棄物輸入管理制度には資源回収体系の強化を明記した。2015年度に2億4600万tだった回収量を2020年度に3億5000万tにする目標を掲げた。

日本から中国に輸出された雑品スクラップ。分別が粗く、プラスチックが混在している
日本から中国に輸出された雑品スクラップ。分別が粗く、プラスチックが混在している

 中国規制の影響が及ぶのは、雑品スクラップに限らない。
 廃プラスチックは日本国内で排出される約900万tのうち約150万tが輸出される。その半分の約75万tは中国向けだ。自動販売機に併設した回収ボックスなどで集める事業系廃PETボトルを粉砕したフレークの場合、2017年で輸出量が最も多かった8月の約2万5000tから同12月に6000t、今年1月には270tに激減した。代わりにベトナムや台湾、韓国などへの輸出が増えている。

廃棄物の「質」を高めよ

 新聞や雑誌、段ボールを除くその他の紙を束ねた「ミックス古紙」も同様だ。中国政府は今年、異物混入率に基づく制限を適用し、事業者に許可する輸入量を絞ると発表。昨年最大となる8万8000tを4月に輸出したが、今年1月は1万4600tに減った。

 日本に残る古紙を国内循環しようにも製紙会社の設備能力が足らない。古紙業者の古紙ヤードに売り先の定まらない古紙が滞留し始め、買い取り単価も下落した。一方、昨年末からインドやインドネシアなどへの輸出を伸ばしている。

 中国に頼れない今、日本に必要なのはリサイクルの品質を高めることだ。それには回収した廃棄物の分別品質を保ちながら、バージン材に伍する品質とコストのリサイクル素材を実現しなくてはならない。

 関東製紙原料直納商工組合の大久保信隆理事長は、「市民の協力を得ながら高めてきたミックス古紙の質は日本の強み」と話す。日本では、家庭で分別した紙ゴミを回収後、作業者が手で異物を取り除く。異物混入割合の低い、質の高い資源だ。一方、欧米では家庭ゴミをひとまとめに回収し、分別工場で機械選別することが多い。異物が残留し、特に米国のミックス古紙は容器や金属に加え、食品残渣が多いと指摘される。

 大久保理事長によれば、「質の高いミックス古紙が新たに中国に輸出されるケースも見られる」という。

 横浜市内で回収された古紙の選別などを手掛けるリサイクルポート山之内。中国などへの輸出手配も請け負う。2017年度の売上高は前年度比で約4割減に落ち込んだ。だが、運営を担う横浜市資源リサイクル事業協同組合の宗村隆寛理事長は、「中国の製紙業界は引き続き、我々が手掛ける質の高いミックス古紙に関心を寄せている」と明かす。

 昨年末、中国製紙大手の子会社で輸入を担う買い付け担当者がリサイクルポート山之内の古紙保管庫を訪れた。「この質の高さなら中国の検査当局も納得するだろう」と、買い付けたミックス古紙が今、横浜から中国へと海を渡っている。

横浜市資源リサイクル事業協同組合が保管・輸出する質の高いミックス紙
横浜市資源リサイクル事業協同組合が保管・輸出する質の高いミックス紙

 中国で廃PETボトルを材料にペレットやシートを製造していたリサイクル事業者が、日本の廃PETボトルを求めて日本に進出し、工場建設を進めているとの情報もある。

 「日本の廃棄物は、欧米の廃棄物と比べても高い競争力を維持できそうだ」と東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)の小島道一シニア・エコノミストは話す。

リサイクルの競争力を鍛えるEU

 「質の高い廃PETを原料に、質の高いリサイクル素材を供給したい」と協栄産業(栃木県小山市)の古澤栄一社長は話す。メカニカルリサイクルと呼ぶ技術を確立し、廃PETボトルを原料に使ってPETボトルにリサイクルする「ボトルtoボトル」を実現。飲料向けに供給してきた。

 今年3月にはサントリーホールディングスなどと共同開発した新技術を発表した。PETボトル製造工程のエネルギー消費を抑えられ、従来の技術と比べてボトル1本の製造におけるCO2排出量を25%減らせる見込み。茨城県の協栄産業グループの拠点にサントリーと協栄産業が合計約20億円を投じて専用設備を導入する。

 古澤社長は、「中国に依存せず、国内でリサイクル事業を強化するには、バージン材に負けない機能性や付加価値の高い製品の製造技術を磨く必要がある」と話す。

 リサイクル品質の向上へ欧州も動く。EU(欧州連合)の欧州委員会は廃棄物法案の改正を発表した。現在4割程度にとどまるプラスチック容器リサイクル率を2025年に50%、2030年に55%に高める方針だ。

 「域内で競争力の高いリサイクル素材産業を育成し、雇用を拡大するが狙い」と地球環境戦略研究機関の粟生木千佳主任研究員は話す。

 今年1月には、域内におけるプラスチック製品・容器の製造を効率化し、リサイクルやリユースなどを促進する「プラスチック戦略」を発表。欧州委員会は今後、リサイクル素材の品質基準などを設定する計画である。EUの域内循環を政策で加速する。

 世界で廃棄物リサイクルの質を高める技術とインフラ、制度の強化が加速する。日本もリサイクル産業の競争力をいっそう高める時だ。

中国から他の国に切り替えが始まった日本からのPETボトルくず(PETフレーク)の国別輸出量<br/>出所:貿易統計(HSコードは3915.90-110)
中国から他の国に切り替えが始まった日本からのPETボトルくず(PETフレーク)の国別輸出量
出所:貿易統計(HSコードは3915.90-110)

 本記事は、「日経ESG」2018年5月号(4月8日発行)に掲載した内容を再編集したものです。

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