今週のはじめ頃だと思うのだが、ツイッター上で2人の弁護士への組織的な懲戒請求が話題になった。

 タイムラインに流れてきたいくつかの書き込みを眺めて、私は

 「まあ、よくある話だわな」

 と判断して、以後、たいして注目していなかった。
 というよりも、すっかり忘れていた。

 ところが、しばらく私が注視を怠っているうちに、この件はちょっとした事件に発展しつつある。
 なるほど。
 よくある話だと見て軽視したのは、私の考え違いだったようだ。

 よくある話だからこそ、重要視していなければならなかった。
 よくある不快ないやがらせだからこそ、めんどうがらずに、的確に対応せねばならない。
 肝に銘じておこう。

 話題の焦点は、インターネット上で挑発的な言論運動を展開しているブログの呼びかけに応じる形で、特定の弁護士に対して集団的な懲戒請求を送った人々が、その懲戒請求の対象である2人の弁護士によって逆に損害賠償の訴訟を示唆されているところだ。

 バズフィードニュースの記事が伝えているところによれば、そもそもの発端は2017年の6月で、10人の弁護士に

《「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は、日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重の確信的犯罪行為である」》

 という内容の懲戒請求が届いたことだった。

 この懲戒請求はしだいに数を増し、このたび訴えを起こした2人の弁護士に届けられた件数を合わせるとのべ4000件以上に達する。被害者は2人に限らない。2017年12月の日弁連会長談話によると、全国21弁護士会の所属弁護士全員に対し、800人近い人たちから懲戒請求が送られている。

 2人の弁護士は、この5月16日に記者会見し、請求者にそれぞれ60万円の賠償を求める訴訟を6月末をめどに起こす方針を明らかにしている(こちら)。

 今回の騒動を通じて、私自身、はじめて知ったのだが、弁護士への懲戒請求は、弁護士法に基づくもので、基本的には誰にでも送付可能なものであるのだそうだ。つまり、懲戒に値する事実に心当たりがあるのなら、誰であれ、当該の弁護士が所属する弁護士会に対して懲戒を請求することができるということだ。

 請求を受けた弁護士会は、調査の上、当該弁護士の「非行」が判明すれば処分するわけだが、今回のケースのように根拠が希薄であったり、当人の活動と無縁な請求は、当然のことながら、無視される。

 今回の件で、ネット上の扇動に乗って実際に懲戒請求を送った人たちにとって誤算だったのは、請求者の氏名と住所が相手側(つまり懲戒請求を起こされた弁護士)に伝えられることだった。

 であるからして、不当請求をしていた何百人(1人で何通も書いていた人間も含まれていると思うので、現時点では正確な人数はわからない)かの人々は、先方の弁護士たちに、自分たちの個人情報を把握されることになった。
 これは、当人たちにとって、いかにも不都合な展開だったはずだ。

 ともかく、結果として、彼らは、自分たちが懲戒請求をした弁護士に反撃の損害賠償請求の訴訟を示唆され、訴訟を受けて立つのか、和解に応じるべくそれなりの誠意を示すのかの選択を迫られている。

 以上が現時点でのおおまかな状況だ。
 よくできた4コママンガみたいな話だ。

 基本的には、
 「自業自得を絵に描いたような」
 とか
 「自己責任ワロタ」
 てな調子で一笑に付しておけばそれで十分な話題であるようにも見える。

 が、思うに、この事件の示唆するところは、単にお調子者のリンチ加担者が返り討ちに遭ったというだけの話ではない。

 というのも、ネット上のリンチ的言論行為の被害者が、反撃に打って出た今回のようなケースは、むしろ例外的な展開なのであって、多くの場合、被害者は泣き寝入りしているはずだからだ。

 ということはつまり、われわれの社会は、すでに、数を頼んだ匿名の集団クレーマーが様々な立場の少数者に対して思うままにいやがらせを仕向けることの可能な私刑横行空間に変貌してしまっているのかもしれない、ということだ。

 今回、弁護士たちを血祭りにあげようとした人たちが、ふだんターゲットに選んでいると思われる在日コリアンや生活保護受給者は、自前の専門知識と資格を備えた弁護士とは違って、有効な反撃の手段を持っていない人が多いだろう。

 してみると、リンチに加担していた人たちは、今回こそ旗色が良くないように見えるものの、全体としては連戦連勝だったはずで、むしろ、これまで好き放題に気に入らない人々をやりこめてきた実績があるからこそ、今回のヤマで調子に乗って墓穴を掘ってしまった、と考えたほうが実態に近いのだと思う。

 おそろしいことだ。
 事件の経緯を眺めていて、半月ほど前に伝えられた内閣府の「国政モニター」の事件を思い出した。

 その「国政モニター」の事件について、毎日新聞は、以下のように伝えている。

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