ネット関連のベンチャー企業が多く集まる東京・渋谷地域一体を指す。「渋い(Bitter)谷(Valley)」と、デジタル情報の単位である「ビット(Bit)」をかけ合わせた造語。米カリフォルニア州のシリコンバレーやニューヨークのシリコンアレーのように、東京にインターネット・ビジネスの集積地を作ろうという構想から生まれた。

 若者が闊歩する東京・渋谷。周辺の初台や青山を含めると、この地域には200~300社のネット関連ベンチャー企業がオフィスを構えていると言われます。

 その1社で、インターネット・ビジネスの事業化を専門にするネットエイジ(本社東京)の西川潔社長らが昨年3月に、「渋谷を日本のシリコンバレーにしよう」という構想を発表。その際に、渋谷を文字ってビットバレー(Bitter Valley)と名付けたことから広まりました。Bitterには「過酷な、ひどい」という意味があることから、今ではデジタルを意味するBitが使われています。

◆効果
共同事業に乗り出す

 このビットバレー構想の狙いは、ベンチャー経営者が交流することで新たなビジネスを生み出したり、投資を呼び込もうというものです。

 そこで、個人が自由に参加できる非営利組織であるビットバレー・アソシエーション(BVA)が設立され、会員同士が活発に情報交換するメーリング・リストや、毎月1回開く交流会(ビットスタイル)を主催。メーリング・リストの会員は5000人を突破し、交流会には2000人以上が参加するまでの規模になりました。

 こうした活動を通じて、株式公開を果たしたベンチャー企業が登場したり、共同事業に乗り出すといった成果も現れています。例えばシステム開発のベンチャー企業6社は、「モバイルベンチャークラブ」という新たな組織を旗揚げしました。各社の技術を持ち寄って、携帯電話用ソフトの開発に取り組んでいます。

 さらにビットバレーをまねて、名古屋や札幌など全国各地にベンチャー経営者が交流する組織が誕生しつつあります。インターネット・ビジネスへの関心を高めるという点では、ビットバレー構想は大きな役割を果たしていると言えるでしょう。

◆課題
実効性ある活動に軸足移す

 ところがその一方で、ネット関連ベンチャー企業の株式公開が相次ぐなかで、有望な投資先を探す金融関係者や一獲千金を狙う学生などが多く交流会に集まるようになり、VBAの活動そのものが本来の趣旨から大きくはずれつつあるのが現状です。

 そこでBVAは今年2月に、「人が集まりすぎ、話ができない」ことを理由に、定期的な交流会の開催を中止しました。今後はセミナーや分科会といった、より実効性が高い活動に軸足を移す考えです。

 “インターネット・バブル”という言葉に象徴されるように、一部のネット関連ベンチャー企業は過大評価され、必要以上の資金を集めている傾向が顕著です。一方で、株式公開を果たしたものの、株価が急落する企業もあります。

 ビットバレーが本当に日本のシリコンバレーになれるかどうかは、こうしたバブルに浮かれず、地に足が着いたビジネスを展開できるか否かにかかっています。

神保 重紀 sjin@nikkeibp.co.jp