こんにちは、総合南東北病院外科医長の中山祐次郎です。外科医をちょいとお休みし、京都大学大学院でただいま勉強中です。

 私の今住んでいる京都の街は、9月の半ばを迎え涼しくなって参りました。驚いたことにある日突然、気温が下がり、あっという間に秋めいてきました。そんななか、外科医を休んで半年、家や大学でパソコンの前に座ってばかりいたせいか、私はなんと5kgほど太ってしまいました。身長と体重で算出するBMI(Body Mass Index)が28になり、ついに「肥満」のカテゴリに。そういえば日本人は25を超えると肥満なのですが、米国人は30以上で肥満なんですよね。アメリカ行こうかなあ、いやそういう問題じゃないよなあ、と思いつつ、ダイエットを始めることにしました。

 ダイエットっていろいろありますけれど、医学的にはIn(入ってくるカロリー)を減らしてOut(出ていくカロリー)を増やせば必ず痩せます。車の両輪のようなもので、このどちらともやることが大切です。私はサラダ中心の食事にして間食をなくすことでInを減らし、運動を始めてOutを増やすことにしました。運動については、週3日ほどこのアプリでやっています。無料ですし、家で20分だけと、簡単です。それに加えて鴨川沿いを妻とランニングです。まあ3カ月ほどで5kgはすぐ痩せるでしょう。ダイエットの話はまたいずれ、しっかりまとめて書きますね。

 さて、今回は衝撃的な新しい医療ベンチャーのご紹介をしたいと思います。これはとってもいいサービスだと思いますので情報をシェアさせていただきます。

顔を出した「朝活」で衝撃の出会い

 先日のこと。ある週末、私は元SKE48で現在乳がん治療中の矢方美紀さんという方とのイベントで呼ばれ、東京に参りました。イベント登壇はもうあんまりしたくないなあ……という気持ちはありましたが、恩義のある友人のたってのお願いでしたので引き受けたのです。

 前日入りして友人の婚約を門前仲町の牡蠣を出すお店でお祝いし、翌朝。7時に起きてfacebookを見ると、いわゆる「朝活」のイベントを知人医師がやっているという情報が。泊まっていた格安ビジネスホテルから近かったのでちらっと顔を出したら、とんでもない出会いがあったんです!ちなみに先に申し上げておきますが、今からお話しする会社と私はいっさいの利害関係はありません。

 いいからはよ中身を書けや、という声が聞こえてきそうなのでお話ししますと、私がお会いした起業家(医師)の方が立ち上げたflixyというベンチャー企業では、「メルプ」という名前で2つのサービスを提供しています。1つは「自動診断」、2つ目は「WEB問診」です。順にご紹介します。

かわいいくせしてドライなキャラ

 1つ目の自動診断は、「メルプ症状伝えるくん」というあまり洗練されていない(スミマセン!)ネーミングのサービス。

 これは、LINEアプリでこのアカウントと友達になり、会話形式で進めていくだけで症状の緊急度と受診すべき科が分かるというもの。うーん、便利。医者をやっていると知り合いからしょっちゅう「こういう症状なんだけど、何科にいくべき?」と聞かれるので。

 試しに自分でやってみました。まずこんな画面で、症状を選びます。「のどの痛み」を選びました。

  すると、このペンギンみたいな変なキャラとこんな会話が始まるのです。

 顔はかわいいのに結構ドライです。
 だいたい6~7個の質問に答えると、こうして緊急度と診療科が出てきます。さらには疑わしい病名まで並んでいます。

 うーむ、便利。
 ここまでだいたい30秒でしょうか。さらに、終わるとLINEにこんなメッセージが来ます。

 これは何をしているかというと、医者の言葉に翻訳しているのですね。ああ、医者目線では確かに見やすい。

 医者は「今日はどうされました」「いやあ、じつはのどが痛くて」という会話を、カルテには「主訴;咽頭痛」と書き換えています。そして「いつから、どんな調子ですか」は「現病歴」としてこの画像のようにまとめていくのです。

事前にどこからでも問診票が書ける

 そして、2つ目は「WEB問診」サービスです。これは患者さんだけでなく、医者の業務効率化にもかなりいいですね。

 簡単に言えば「どこでも書ける問診票の、完全自動翻訳付きカルテ転送サービス」とでも言いましょうか。ちょっと想像していただきます。皆さんはまず初めての病院に行くと、受付をしてそこで問診票を渡されて書きますよね。書いていただいたこの紙、病院内ではどう動いているのでしょうか。

 問診票は事務方のスタッフが電子カルテに打ち込んでくれることもありますし、直接医者に渡されることもあります。この問診票の情報を見ながら医者は患者さんに問診をし、問診票と問診の内容を頭の中で統合し、さらに取捨選択し、医学用語に翻訳してカルテを書いていくのです。昔は手書きでしたが、最近はほとんど電子カルテですね。

 流れとしては、

患者さんが病院に到着→問診票を書く→医者が見る→診察→カルテに転載する

という感じです。

 しかしこの「WEB問診」サービスでは、なんと待合室で患者さんがご自身のスマホ(あるいは備え付けのタブレット端末)で記入した内容が自動的に適切な医学用語に変換されます。さらに、医者がワンクリックするだけでその病院の電子カルテシステムに取り込まれるそうなのです。

 さらに、待合室でなくても、自宅や病院に向かう途中でも入力は可能です。これは患者さん側としても本当にラクですね。私も初診で病院にかかることはちょくちょくありますが、この問診票ってすごくストレスだったのです。調子が悪いのに病院についてから一生懸命書いても、また看護師さんに同じことを聞かれ、さらにドクターにまた聞かれ、などということは多いです。ひどい徒労感。

 そういった患者さん側の手間を、このサービスは減らしてくれるでしょう。

利用者に聞いてみました

 いやあ、まさにこういうのが欲しかったんです。そう思いつつ朝活が終わり周りの方と話していると、実際にWEB問診を導入している小児科の先生がいたので捕まえてインタビューしちゃいました。愛知県豊田市で小児科を開業されている会津研二先生です。なかなかシブい雰囲気のある、革ジャンの似合いそうな先生。小児科の先生って、もっとニコニコした温和な感じの人が多いのですが。

 それはさておき……。

中山「いつから導入しているのですか」

会津先生(以下、会津)「今年7月くらいからです」

中山「その前は似たサービスは使っていなかったのでしょうか?」

会津「いえ、iPadのようなタブレット端末を使った問診票は使っていました。しかし電子カルテとの相性が悪く、また質問内容を細かく変えることができず不便だったので切り替えたのです」

中山「そうなんですね。メルプに変えてみていかがですか?」

会津「いいですね。何がいいって、医者が作っている(筆者注:システムも中身も基本全て内科医のCEOが作っています)から、医療用語への変換が非常に適切です。そして問診のアルゴリズムも適切ですね。まるで医者が問診しているみたいです。小児科の医師も一緒に作ったらしいです」

中山「なるほど。他にも良い点はありますか?」

会津「さらに、問診の内容をいじれるのがいいんですよ。同じ小児科の開業医と言ったって、地域によって、季節によって、患者背景は全然違いますから」

中山「なるほど、私の愛してやまないCoCo壱番屋のカレーと一緒ですね。私はいつもビーフカレーに納豆とチーズをトッピングして一辛です」

会津「そうですか。それとは違うと思いますが(苦笑)、小児科だと体重とか聞きますからね。普通の内科では聞きません」

中山「失礼しました。一番のメリットはなんでしょう?」

会津「やはりこのシステムのおかげで浮いた私の時間を、患者さんとお話しする時間に当てられることです。それによって患者さんの満足度は上がりましたし、私の満足度も上がったのです。さらには複数医師がいる場合、医師間の問診スキルの均てん化にもなります」

LINEに慣れたお母さんたちに好評

中山「確かに、それは大きいですね。聞き漏らす先生っていますからね。患者さんからの評判はどうです?」

会津「小児科だとだいたい親が入力します。20~30歳代くらいのお母さん方です。会話形式だから入れやすいと好評です。皆さんLINEに慣れていますから」

中山「となると逆に内科で70歳、80歳となると入力が難しいかもしれませんね。私の親は60代後半ですが、LINEは使えませんし。逆に、導入のデメリットはいかがでしょう?」

会津「まずコストですが、初期費用10万円で月々1万円(筆者注:今だけの金額だそうです)と、格段に安い。明らかにメリットの方が大きいです。今のところ、それ以外のデメリットは感じていません」

中山「ありがとうございました。褒めすぎていて読者さんにステマかと怪しまれそうですが(笑)、勉強になりました」

ということでした。他のデメリットとしては、電子カルテと外部をつなぐため、システムが脆弱になるリスクくらいでしょうか。ま、あまり流行っていないクリニックや病院ではこうやって時間が生まれてもあまり有効活用できないかもしれませんが。

最後に作った人にもインタビュー

 最後に、これらを作った人のことも少し。吉永和貴先生、1988年生まれの30歳です。

 鹿児島出身、中学からラ・サールへ行ったそう。わたくし鹿児島大学を出ていますから、ラ・サールのことはよく存じています。医学部の同級生や先輩後輩にたーくさんラ・サール出身者はいましたし、サッカーの試合で実際の学校に行ったり、家庭教師でラ・サール高校の生徒を教えたりしていました。出身の人は30人くらい知っているでしょうか。私の知る人たちはだいたい変人なのですが、やっぱり吉永先生も一風変わった様子でした。ものすごく頭がいいのですが、いろいろぎこちなく、あまり器用に生きているとはいえない雰囲気なのです。でもなんか好きになるタイプの人でした。読者の皆さんの中にもラ・サール出身の方は大勢いらっしゃると思います、スミマセン。

大手メーカーに“パクられた”経験も?

 卒業後は慶應義塾大学医学部へ。卒業後、東京ベイ・浦安市川医療センターで研修され、その後いくつかの勤務を経て起業なさったそうです。吉永先生のプレゼンテーションによると、いまでは週に1日は内科医として働き、あとの6日は開発や会社のことをやっているそう。凄い。週に1日も休んでいない。

 そんな彼の、医者としては変わったキャリア。ラ・サール時代には物理や数学が好きだったそうですが、天才的頭脳を持つ同級生と出会い、「上には上がいる」ことを実感したそうです。彼いわく、「自分は努力はできるが『最』トップにはなれない」とのこと。

 そして慶應時代に出会ったプログラミングにはまりました。1人でもゼロからサービスを作れて世界に向けて公開できると感動したそうです。それからは実にたくさんのウェブサイトやアプリを作りました。その中には薬の飲み忘れを防ぐIoTサービスを作り、ヒヤリングをしてきた大手製薬メーカーに丸ごとパクられる(?)という経験もしたそうです。

 いかがでしたか。私が彼を取り上げたのは、ずっと患者さんも医者も欲しいと思っていてさらに日本全体のコスト削減になるサービスを作っていること、そして医師免許を持ちつつこんなチャレンジをしている人がいることに衝撃を受けたからです。年齢は私より8歳も歳下ですが、彼のような仕事ができるよう頑張りたいと刺激をもらいました。

 それではまた次回、お会いしましょう。

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