4月17、18日の安倍、トランプ会談に注目が集まる(写真:The New York Times/アフロ)
4月17、18日の安倍、トランプ会談に注目が集まる(写真:The New York Times/アフロ)

 4月1日に共同通信社が発表した世論調査で、安倍内閣の支持率が42.4%となり、3月17、18日に実施した前回調査よりも3.7ポイント上昇したという。

 僕は、このところ話題になっている森友文書改ざん問題で、安倍内閣の支持率はさらに落ちると予想していた。下手をすれば30%を切るのではないかとまで考えていた。ところが、ふたを開けてみると逆の結果が出た。調査を実施した共同通信も驚いているようだ。

 支持率が上がった理由は、3月26、27日に行われた中国の習近平国家主席と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との電撃会談だ。これで、国民の関心が大きく変わったのである。

 今回の中朝首脳会談は、韓国の文在寅大統領が仕掛けた米朝首脳会談に、中国が強引に割り込んできたことから実現されたといわれている。となると、5月に控える米朝首脳会談には結局、米国、北朝鮮、韓国、中国の4カ国が主に関わるというわけだ。日本は完全に蚊帳の外である。日本政府にとっては、ここで日本は何ができるのかということが最重要課題となっている。

 時を同じくして、米国では3月23日にアルミや鉄鋼の輸入制限措置を発動した。鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税をかける。トランプ米大統領は、今年秋に控える中間選挙をにらみ、保護主義を強めようとしているのである。5月に金正恩氏との首脳会談に応じるのも、中間選挙で勝つためだ。

 日本政府は当初、安倍首相とトランプ氏の関係が親密であり、日本は米国に協調しているから、日本は輸入制限対象から除外されるだろうと楽観視していた。

 ところが予想は外れた。トランプ氏は、輸入制限発動の前日である22日に「日本の安倍首相らは『こんなに長い間、米国をうまくだませたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」と宣言。日本を除外しなかったのである。

 これは日本政府にとって計算外だった。言ってみれば、日本は米国に見捨てられたのである。

 日本としては、これからどうすればいいのか。4月18、19日に行われる日米首脳会談で、安倍首相はどこまでトランプ氏に迫り、輸入制限においてどこまで妥協させられるのか。

 トランプ氏の関心は、中間選挙をいかにして勝つかということに集中している。今のところ、上院では共和党が勝つだろうが、下院では相当危ないといわれている。この戦いを乗り切るために、トランプ氏は安倍首相に相当強硬的な姿勢で首脳会談に臨む可能性がある。あるいは、日本にとって非常に厳しい条件での自由貿易協定(FTA)の締結を要求してくることも、十分にあり得る。

 それに対し、日本政府、特に農林水産省は戦々恐々としている。FTAが実現すれば、牛肉をはじめとする輸入農産物等の輸入品の関税が撤廃され、日本の農業や畜産業は大ダメージを受ける可能性があるからだ。

 もう一つ、問題がある。北朝鮮問題において、日本外交は完全に蚊帳の外である。その傾向が強まれば、日本国内で一種の「自立論」が広がるだろう。例えば、本コラム「安倍首相は憲法改正で名を残したいだけだ」でも述べたが、日米地位協定では日本はまるで米国の植民地のような扱いをされていた。こういった問題がしばしばクローズアップされるが、今後はますます強まっていく可能性がある。

 これはある意味、危険な傾向でもある。自立するために、日本も核兵器を持つべきだという話にもなりかねない。

米中双方の思惑によって実現する米朝首脳会談

 習近平氏と金正恩氏との電撃会談の裏側では、米中の思惑が交錯していた。

 2017年までトランプ氏は、北朝鮮を追い込むことができるのは中国だけだと期待していた。ところが17年の流れを振り返ると、どうも中国にはそういった力はないと判断したようだ。

 「北朝鮮問題では、もう中国に頼れない」──トランプ氏はそう考え、直接米朝首脳会談を決意したという側面もある。さらに米国は、中国に対して米通商法301条に基づく対中制裁に踏み切った。最大で年間600億ドル(約6兆3000億円)相当の中国製品に対し、25%の関税を課すのである。

 当然だが、中国は反発。中国は中朝首脳会談を実現することで、「北朝鮮は中国のコントロール下にある」と米国にアピールしたのである。

 一方、トランプ氏は国際協調派のティラーソン国務長官やマクマスター大統領補佐官を解任し、後任として強硬派のマイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官を国務長官に、ジョン・ボルトン元国連大使を大統領補佐官に指名した。下手をすれば、北朝鮮に武力行使も辞さない顔ぶれだ。

 それに対して中国は、「自分たちは米国の強い味方である」という姿勢を米国に示したのである。

 水面下では、こういった思惑が交差していたわけだ。

 今回の中朝会談の後、日本国内の空気が一変した。

 それまでは、森友文書改ざん問題で、安倍首相は5月には退陣するのではないかという見方が広がっていた。

 自民党の幹部たちの間でも、安倍首相を守ろうとする意見と、国民の自民党に対する信頼を取り戻すべきではないかという意見に割れ、徐々に後者の声が強まっていた。二階俊博幹事長も、自民党としてどうするべきか決断を迫られていた。

トランプ氏の強硬姿勢に立ち向かえるのか

 ところが、電撃的に行われた中朝首脳会談で、一瞬で流れが変わってしまった。二階氏も、決断をする必要がなくなったのである。そういう意味では、安倍首相は非常に運が強い。

 しかし、問題は4月17、18日に控える日米首脳会談である。ここで、もしトランプ氏から一方的に日本にとって不利な条件を飲まされるようなことがあれば、安倍首相に対する批判が再燃するだろう。安倍首相にとっては、日米首脳会談は正念場だといえる。

 ただし、この会談は日本にとって非常に厳しい内容になると思う。僕は大臣らにも話を聞いたが、日本政府は現時点で、全く戦略を持っていないようだ。今、懸命に考えているのではないだろうか。

 トランプ氏、習近平氏、ロシアのプーチン大統領と自由に話ができるのは、安倍首相しかいない。だからこそ、森友問題で国会が紛糾する中でも、安倍内閣の支持率が上がったのである。日米首脳会談で、「外交の安倍」が本領発揮できるのかどうか。ここが問題だ。

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