「AWS(Amazon Web Services)の背中は遠いかもしれないが、マイクロソフトのAzureに追い付くのにそう時間はかからない」。日本IBMのある幹部が漏らした一言に耳を疑った。パブリッククラウド市場は、ぶっちぎりで先頭を行くAWSに、Microsoft Azureが追いすがる展開。グーグルのGCP(Google Cloud Platform)がデータ分析や機械学習などで存在感を高める中、これらビッグ3に比べてIBMのクラウドは勢いがないと見ていたからだ。

 足元の市場シェアを見ても、クラウド分野でIBMの劣勢は明らか。米調査会社Synergy Research Groupが2018年4月に発表した「2018年第1四半期のクラウドインフラ市場シェア」ではAWSが約33%でトップ。それに続くのがマイクロソフトで約13%。IBMは約8%で3位に着けているものの伸びは鈍く、勢いを増すグーグルにその座を明け渡しそうな展開だ。

2018年第1四半期のクラウドインフラ市場シェア
2018年第1四半期のクラウドインフラ市場シェア
出所:米Synergy Research Group
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 Azureは射程圏。先の幹部は、IBMのクラウドが早晩、日本市場でAzureの売り上げに肩を並べられそうだという。その胸算用からは、日本企業のクラウド活用の実態が垣間見える。

狙いはオンプレミス環境のVMwareユーザー

 IBMのクラウドサービス「IBM Cloud」の歴史を簡単に振り返ってみよう。これまでの戦略はお世辞にも一貫していたとは言い難い。その紆余曲折が、クラウド市場で出遅れた一因とも言える。

 同社がクラウド事業を加速したのは、2013年の米SoftLayer Technologiesの買収がきっかけだ。グローバルネットワークが使える、仮想マシンだけでなくベアメタルも用意するなど、AWSなどにないサービスを訴求したIaaSだった。一方で、OSS(オープンソース・ソフトウエア)の「Cloud Foundry」をベースにしたPaaS「Bluemix」の開発に注力し、アプリ開発者を取り込もうと試みた。Watson APIの提供もBluemix拡販に向けた武器の一つだ。

 IaaSとPaaSを同時に打ち出す戦略は同社に限らず、かたやSoftLayer、かたやBluemixではサービスとしての統一感に欠けた。そこで2016年10月にSoftLayerをBluemixに統合。旧SoftLayerはBluemix IaaSに名称を変え、SoftLayerブランドは消滅した。さらに2017年11月にBluemixをIBM Cloudに変更し、現在に至る。IBM Cloud発表時の同社ブログによれば「もっともミッション・クリティカルなワークロードをサポートするクラウドを提供すること」を目標の一つに掲げている。

 IBM Cloudは、IaaSからPaaS、DevOps環境やデータ分析基盤、Watson APIなどを包括した総合サービスだ。こうした「何でもあるクラウド」は顧客への訴求が難しい面がある。IBM Cloudがオンプレミス環境の顧客をターゲットに打ち出したのが「IBM Cloud for VMware Solutions」だ。これがIBMのクラウド売り上げを伸ばすキラーサービスの一つになる、というのが先の幹部の目論見である。