国民生活センターは、手動車いすの使用中に発生する破損について調査を実施し、結果を公表した(ニュースリリース)。消費者に点検を呼びかけるとともに、業界・事業者に対しては安全認定取得の推進や破損・不具合が起きたときの対応窓口の設置、メンテナンスの仕方に関して分かりやすく表示することなどを要望している。

使用中に車輪やフレームが破損する事例

 調査対象は電動機を搭載していない手動車いすで、自走用と介助用の2種類に分けられる。自走用車いすは車輪にハンドリムが付いていて、手でハンドリムを回して進む(図1)。介助用車いすは、介助者が押して進むもので、自走用に比べて後輪が小さく、ハンドリムがない。特に自走用では、使用時にフレームや車輪などに破損が生じると、使用者がとっさに対応するのが難しく、転倒する危険性が高いという。

図1:自走用車いすの各部の名称。写真の車いすは名称を説明するためのもので、事故事例とは関係ない。(出所:国民生活センター)
図1:自走用車いすの各部の名称。写真の車いすは名称を説明するためのもので、事故事例とは関係ない。(出所:国民生活センター)
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図2:当該製品の変形した右後輪(出所:国民生活センター)
図2:当該製品の変形した右後輪(出所:国民生活センター)
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 同センターは直近3年間で2件、消費生活センターから手動車いすについての依頼を受け、調査を実施している。その1つは「車いすを使用し始めて約4カ月後に車輪が変形した。原因を調べてほしい」というもの(図2)。調査の結果、当該製品のスポークは、リムやハブの実測値から算出される最適値よりも長かった。そのため、後輪を組み立てた際に必要なスポーク張力を得られず、強度が足りない状態だったため、使用過程で変形したと推測できる(図3)。ただし、同型品を入手できなかったので、当該製品のみの問題か、同型の製品全体の問題かは不明とする。

図3:スポークの長さが張力に与える影響(出所:国民生活センター)
図3:スポークの長さが張力に与える影響(出所:国民生活センター)
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 もう1つの依頼内容は「車いすを使用中、左側の前輪と後輪の間のフレームが破損した。商品に問題がないか調べてほしい」というものだ(図4)。当該品の前輪部と後輪部のフレームは、内側にパイプを通してボルトとナットで締結する構造で、連結していた内側のパイプが使用中にずれたため、左前輪部のフレームが外れたと推測された。

図4:当該製品の破損した部位(出所:国民生活センター)
図4:当該製品の破損した部位(出所:国民生活センター)
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 左前輪部の連結部分については、外れたフレームが接触しており判別できなかったが、左後輪部フレームの締結部にはナットによる締め付けの痕跡がなかったため、製造段階で締結されていなかった可能性がある(図5)。新たに入手した同型品について走行耐久性試験を実施したところ、締結用のボルトやナットの有無にかかわらず試験途中でフレームが破断したたことから、フレームの強度が不足していたとみられる。

図5:外れたフレーム(出所:国民生活センター)
図5:外れたフレーム(出所:国民生活センター)
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