建設業に対し、時間外労働の上限規制が適用される2024年4月まで2年半を切った。各社は様々な対応策を検討しているが、竹中工務店は米ボストン・ダイナミクスが開発している四脚歩行ロボット「Spot(スポット)」の導入を本気で考えている。
21年末までに、購入を決めた最新モデルのSpotが1台納品される予定だ。これまで検証に使ってきたSpotはレンタルだったが、ついに1台目を所有することにした。価格は1台、約800万円だ。
Spotの背中に多種多様なデジタル機器を載せ、人に代わって建設現場のどんな場面で役立てられるのか、同社は検証を続けていく方針である。
建設業界でいち早く、18年にSpotの検証に着手した竹中工務店は建設現場の自動巡回や遠隔操作による業務支援に対して、「Spotの有効性を確認した」(技術研究所未来・先端研究部建設革新グループの宮口幹太主任研究員)。中でも、工事記録写真の撮影や進捗管理、資機材の配置管理といったマネジメント業務に向いており、担当者の負担を10%程度軽減できるとみている。
過去3年ほどの検証期間中には建設現場で働く職人たちにSpotの存在に慣れてもらおうと、一緒に「体操」するといったパフォーマンスもしてきた。
世界中の建設会社を見渡しても、竹中工務店はSpotの検証で知見の蓄積が多い企業の中の1社といえる。ボストン・ダイナミクスと協働してきた実績も豊富だ。今回のデジタル活用(デジカツ)では、竹中工務店および竹中土木が過去3年で見極めた建設業に対するSpotの効用を写真を中心に見ていく。
まずはSpotに搭載したカメラで、建設現場をどの程度見て回れるかだ。担当者がわざわざ現場に出向かなくてもいいレベルまで、カメラで細かいところまで見られることが分かった。
Spotの最大の特徴は、四脚で安定歩行できることである。これにより建設現場を動き回れる。そのため、Spotは「動くカメラ」だけでなく、「動くテレビ会議(テレプレゼンス)システム」や「動くプロジェクター」にもなれる。
360度カメラを載せたSpotは、竹中工務店が技術連係している米ホロビルダーの映像共有サービス「HoloBuilder」との相性もいい。映像で現場の施工状況や進捗を確認できる。
背中に載せる機器を換えたり組み合わせたりすれば、Spotの用途はかなり広がる。同じ作業を繰り返す、使い道が限られたロボットが建設現場で働き始めている一方で、Spotは汎用性が高く、工夫次第で様々な業務を効率化できる。
竹中工務店は現場の省人化に意欲をみせる。例えば、これまでのように「建設現場に多くの担当者が集まる必要はなくなるかもしれない」(宮口主任研究員)。集合検査では最小限の人だけが現場に入り、あとはSpotを介して遠隔から参加することが考えられる。
Spotはまだまだ高額だが、建設現場の人手不足も深刻さを増している。建設現場の未来の姿を考えるうえで、1台で何役にもなれるSpotに竹中工務店は可能性を感じている。
他にも、Spotが荷物を引っ張るといった「運搬車」としての使い道もあり得るかなど、竹中工務店は様々な実験を繰り返している。