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和歌山市で2021年10月3日、紀の川に架かる水管橋が突然崩落した。その4日後には、最大震度5強の地震が首都圏を襲い、埋設管から水道水が噴き出すなどの被害が相次いだ。少子高齢化が進行するなか、水道インフラは老朽化と資金不足という大きな課題に直面している。今、策を講じなければ、水道事業は立ちゆかなくなるかもしれない。まず取り組むべきは、広域連携と官民連携の推進だ。

 茨城県は2021年10月、「茨城県水道ビジョン(案)」を公表した。約30年後に当たる50年度の姿として、県と市町村などによる水道事業をまとめて施設の管理やサービス、料金を統一した「1県1水道」を提示。目指すべき方向性として、広域連携と官民連携の推進を掲げた。大胆にも見える提案は、危機感の大きさを反映している。

 広域連携の柱は「統合」だ。現在は県内4圏域に分かれている計画を1圏域にまとめ、127カ所にある浄水場を49カ所に統合する内容となっている。

 浄水場を統廃合しないまま単純に更新する場合、水道料金を現在よりも約1.3倍に引き上げなければならないと試算。対して、浄水場の統廃合と広域連携によってもたらされる国庫補助金を最大限活用できた場合、料金の値上げ幅を約1.03倍に抑制できる可能性があるとみている。

 さらに、水道ビジョンでは18年度時点で94.7%の県内水道普及率を、50年度には100%にする目標も示した。県は水道事業の支出減に加え、収入増も実現できる策として広域連携を捉えている。

「1県1水道」に向けた段階的な広域連携のイメージ(資料:茨城県)
「1県1水道」に向けた段階的な広域連携のイメージ(資料:茨城県)
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広域連携による現状の課題への対応(資料:茨城県)
広域連携による現状の課題への対応(資料:茨城県)
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 一方の官民連携では、経費削減に加え、水道事業の持続性や公共サービスとしての質の向上にも期待する。水道ビジョンでは「長期的な視点に立って、優れた技術、経営ノウハウを有する民間企業や、地域の状況に精通した民間企業との連携を一層図っていくことが、事業の基盤強化に有効な方策」と説いている。

老朽化や地震でトラブル続出

 国や自治体の財政は厳しい。少子高齢化社会では税収の大幅増加が見込めず、むしろ扶助費の負担が増すばかりだ。そこに新型コロナウイルス感染症の対策なども加わり、本来はインフラの維持管理や更新に回すべき資金が不足している。日本のインフラは高度経済成長期に造られたものが多く、50年以上を経たこれからが維持管理費や更新費のピークになるにもかかわらずだ。

 こうした課題が顕在化したような出来事が21年10月、立て続けに起きた。

 和歌山市の紀の川に架かる六十谷(むそた)水管橋が10月3日に突然崩落し、市北部の約6万世帯が断水した。橋は鋼アーチ橋で、1975年の完成から50年近くがたっていた。吊り材の腐食による破断が原因とみられている。和歌山市の尾花正啓市長は事故後の会見で、人口減少に伴って水道料金収入も減っていることを問われたのに対し、水道のような生活インフラを水道会計だけで賄うのは難しいと述べた。

崩落した六十谷水管橋。事故によって約14万人が暮らす紀の川右岸の地域が断水した(写真:国土交通省近畿地方整備局)
崩落した六十谷水管橋。事故によって約14万人が暮らす紀の川右岸の地域が断水した(写真:国土交通省近畿地方整備局)
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 10月7日に首都圏を襲った最大震度5強の地震では、水道管の漏水が各地で発生。東京都水道局によると、都内の漏水箇所は23カ所に及んだ。原因は水道管に付属する空気弁などの不具合によるものだった。

 千葉県市原市では、養老川に架かる水管橋から水が噴き出した。継ぎ手部の止水ゴムを固定するボルトが腐食しており、地震によって破断したのだ。地震の翌日、会見に臨んだ松野博一官房長官は、「水道管の老朽化や耐震対策が十分ではないことも課題である」と語っている。

 生活を支えるインフラは、維持管理を怠ることができない。「命の水」を提供する水道インフラは、その最たるものだ。そんな水道インフラが老朽化と資金不足という大きな課題に直面している。

 さらに、少子高齢化はインフラの維持管理に従事する自治体職員などの不足も招く。水道を所管する厚生労働省はこうした課題に対処するため、持続性、安全性、強靱(きょうじん)性の3つの視点を踏まえた水道広域化推進プランの作成を自治体に求めてきた。「命の水」を守ることを大前提に、資金・人材面の効率化をできるだけ進めたいということだろう。