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工場で生じた不同沈下は隣接する地下調節池の建設工事の影響だとして、工場の経営者が発注者と施工者を提訴。裁判所は発注者だけに損害賠償を命じた。沈下に直接つながる行為をした施工者の責任を認めなかった点で、異例の判断だ。

 建設工事によって第三者が被った損害を巡る訴訟では、損害発生に直接つながる行為である工事を行った施工者に法的な責任を負わせるのが一般的な判断だ。発注者の責任も問うのは、主に損害発生防止の義務を怠った場合に限られる。その場合は施工者との連帯責任と認定される。

 そうした中で、工事の際に近隣の工場で生じた不同沈下を巡り、発注者だけに損害賠償責任を認める判決が出た。異例の判断ではあるが、その理由は明確だ。類似した事案に大きな影響を及ぼすと考えられる。

 近隣に不同沈下を引き起こしたと認定されたのは、大阪府が2007年、銭高組・アイサワ工業JVの施工で東大阪市内に完成させた宝町調節池の工事だ。南側に隣接する金属加工工場で、工事期間中の不同沈下によって内壁にひび割れが生じたり、屋内に設置したクレーンが正常に作動しなくなったりする被害が発生した(写真1)。

写真1■ 原告の経営する工場(写真左端)と宝町調節池の地上施設(写真:日経コンストラクション)
写真1■ 原告の経営する工場(写真左端)と宝町調節池の地上施設(写真:日経コンストラクション)
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 工場の北端と調節池の南端が約14mしか離れていないことから、工場経営者は調節池の工事が沈下の原因だと推測(図1写真2)。11年8月、府と銭高組JVに約6920万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。

図1■ 原告の工場は調節池の南側に隣接
図1■ 原告の工場は調節池の南側に隣接
国土地理院の写真に日経コンストラクションが加筆
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写真2■ 宝町調節池側から見た原告の工場(写真右奥)。付近には工場や倉庫が林立する(写真:日経コンストラクション)
写真2■ 宝町調節池側から見た原告の工場(写真右奥)。付近には工場や倉庫が林立する(写真:日経コンストラクション)
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 大阪地裁は21年9月9日に出した判決で、被告が原告に賠償すべき損害額を約1800万円と認定。そのうえで、賠償責任の所在を府に限定する判断を示した。

 府は賠償責任が認められたのを不服として大阪高裁に控訴した。原告の工場経営者も、認定された賠償額の少なさと銭高組JVが免責されたことに納得せず控訴したので、この判決はまだ確定していない。それでも、大規模な掘削工事を行い、工場が不同沈下するいわば引き金を引いた施工者を免責し、発注者だけに賠償を命じたインパクトは大きい。